僕は男の子
坂本餅太郎
僕は自分の身体が嫌いだ
僕は男の子だ。
心も身体も、間違いなく男の子だ。
僕は自分の身体が嫌いだ。
真っ白な肌。薄い胸板。細い腕も脚も。
そして何よりも、男らしくない顔が嫌いだ。
今までの人生で出会ってきた人たちのほとんどは、僕を女の子と間違えた。それが悪いとは思わない。僕だって、僕みたいな人を見たら女の子だと思ってしまうだろう。
でも、なんと言うか、ふと悲しくなったり、寂しくなったりすることがある。
僕は男の子だから、もちろん男の子たちと遊ぶことが多かった。けれど、その時みんなは腫れ物のように扱われていたように思う。男の子特有の無茶な遊びや、馬鹿な遊びからはハブられていた。
林間学校や修学旅行の時の風呂の時間には、誰も目を合わせてくれなかった。
昔から女の子が周りにいることが多かった。理由は単純に、僕の顔や身体にあったと思う。周りの女の子たちは、僕をペットかなにかを愛でるときのように接してきた。
けれど、僕は男の子だ。周りに女の子が多くても、僕は女の子には混ざりきれない。
趣味も興味も、基本的に少しズレが生じる。
男の子にも女の子にも愛されていながら、本質的にはずっと孤独であった。
それが僕という人間だ。
改まってこんなことを考えてしまったことには理由がある。
それは僕が大学に進学し、新たな環境で生活し始めたからだ。
周りから明らかに僕に向けられた言葉で、「可愛い」であったり、「彼女にしたい」と聞こえて来ることが多かった。
そして、今は少し離れたところで、男の子二人が声をかける、かけないとか話し合っていた。
それもそのはずである。今の僕は女の子だ。
いや、決して僕の心が女の子になったとか、女の子になりたいとか、そういうことでは無い。たしかに今の格好は女の子であるが、断じて自分の意思ではない。無理やり着せられたのだ。もう一度言おう。断じて僕の意思ではない。
遡ること数十分前。午前中にサークル活動が終わり、お昼ご飯を一人で食べていたときだった。
「やっぱりおかしい!」
同サークルの女の子が、僕を見てそう言った。
曰く、僕は運動したあとなのに臭くないと。ついでに可愛すぎると。
この女の子は、僕が一人で牛丼を食べていたのにも関わらず、遠慮せずそう言ってのけた。
そしてもう一人の女の子が「しかも髪もサラサラ!」などと言って頭を触り始めてしまったせいで、僕の周りには女の子の人だかりができてしまった。
世の男の子たちには嬉しいシチュエーションなのかもしれないけれど、男らしくありたい僕にとって、女の子っぽい理由で周りを囲まれるのは嬉しいことではない。
気づいたら髪の毛を結われて、なんか可愛らしくなってしまっていた。こういうことも慣れているから、別に怒ったりはしないが、いい気はしない。
僕は男の子なのだが、これは男の子に対して行うことではないだろう。
「そういえば、きょう誕生日だったよね?」
最初に話しかけてきた女の子にそう言われた。たしかに今日は僕の誕生日だが、なぜ彼女は知っているのだろうか。顔に出てしまっていたのか、女の子は苦笑しながら「朝RIME開いたら書いてあったから」と言った。
そういえば、RIMEには誕生日を表示する機能があった。それなら知っていても不思議ではない。
「そうなんだ! じゃあみんなでお祝いしよう! 午後暇でしょ?」
別の女の子が横から予定を入れようとしてくる。
けれど、申し訳ないが僕はこれから用事がある。そう言って断ると、周りの女の子たちの顔がニヤニヤとしたものに変わった。
「へぇ、そういうところは男の子なんだねぇ。誕生日にしっかり予定があるなんて」
一人の女の子がそんなことを言ってくる。けれど残念ながら予想は外れている。僕が今から会うのは、僕の唯一の男の親友だ。
「えー! 男の子なの?! サークルの男子にそんなに仲良い人いたっけ?」
「男の子で二人でいるところなんて見た事ないからなぁ。お姉さんちょーっと気になっちゃうぞー!」
「こんな可愛い男の子が、誕生日に予定を作って二人で会う男子……それってもしかして……!!」
女の子たちはワイワイと盛り上がっている。けれど、彼は決してそういう関係の人ではない。たまに危うい時があるけれど、僕は女の子が好きなのだ。彼とそういう関係ではない。
「お誕生日デートにそんなジャージで行くなんて、絶対にダメだよ! しっかり
「そのとおりね! 男の娘なんだからね!」
「それじゃあ私の予備の着替えを貸すよ! ロッカーに入れてあるから!」
なぜだか話が変な方向へと進んでいき、怖くなった僕は逃げ出そうとする。しかし、一人の女の子が僕の肩を掴んだ。え、強い。なんでこんなに力が強いんだ。逃げられない。
気がつくと再度周りを女の子たちに囲まれ、僕はドナドナされていった。
牛丼食べかけなんだけど……。
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