第一章
1 怪奇現象ってほんとにあるんだ…
「……いでっ」
突然の額の痛みに、俺は思わず顔をしかめる。
夏休みの最終日、俺は残された課題に追われていたはずなのだが、どうやら途中で寝てしまっていたらしい。
制御を失った俺の頭が、無意識のうちに机に打ち付けられていた。
(また変な夢を見ていた気がする…)
ここ最近、俺は夢を見るたびにこの奇妙な感覚を味わっていた。
夢というのは不思議なもので、つい先ほどまで見ていた夢の内容も、思い出そうとするとだんだんと曖昧になってくる。
そして後に残るのは、なんとなく楽しかったかもとか、怖かった気がするとかいう感覚だけ。
いくら考えても、もう忘れてしまった夢の内容は思い出せない。
「ってか、課題早くやんねーと」
いつまでたっても答えの出ないことについて悩むより、今はもっとやらなければならないことがあった。
俺こと
この学校は偏差値も高くないし、学力平均の俺でもさほど苦労せずに受かったのだか、正直今のままでは結構まずい。
テストは毎回赤点スレスレで、というか赤点を取ってしまって、夏休み前の時点で単位が一学期分の取得目安よりも下回ってしまっていた。
そこで救済措置として、夏休みの課題が通常より多く出されたのだ。
単位が足りない生徒はこの課題を提出することである程度加点されることになっている。
「とは言ってもなぁ…」
目の前に積まれた問題集の山を見て、俺はそう呟かずにはいられなかった。
三日前ほどから食事や入浴、睡眠以外ではほとんど机に向かいっぱなしでこれを消化していたが、一向に終わる気配を見せなかった。
それでも努力の甲斐あって、何とか始業式に間に合うかもしれないという希望が見えてきたところだ。
「まあ、今日はオール確定か」
俺は気合を入れるため、顔を洗いに洗面所まで行った。
電気の付いていない洗面所はもう薄暗くて、いつの間にそんな時間が経ったのか、と思わせてくる。
電気をつけて時計を見ると、針は11時を指していた。
(さっき見たときはまだ7時前とかだったのにな…)
そんなことを思いながらも、体は勝手に慣れた動作をなぞっていく。
顔を洗うなんてこれまで何千回としてきているので、意識せずともできる。
ふと、鏡を見る。
そこにはもう見飽きたほどに見慣れた風景が映っていた。
それがいつもの風景過ぎて、そこにあった違和感に俺は気づくのが遅れた。
(……………)
「……は?」
鏡には、絶対にあるべきものが映っていなかった。
俺は真正面からこの鏡を見ている。だから映っていなければおかしいのだ。
__
だが実際、映っていなかった。
俺はまず、怪奇現象の類を疑ったが、すぐにそれはないかと思い直す。俺は幽霊とかは信じない。
多分勉強のし過ぎで疲れているんだろう、その場ではそう思った。
あるいは睡眠不足で頭が回っていなかったのかもしれない。
(そんなことより今は課題のほうが重要だろ)
何にせよ、その時はあまり問題視していなかった。
それが後に俺の人生を180°変えてしまうなんて思いもせずに。
これが、俺が能力に目覚めた瞬間だった。
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