第10話 仲間の家で、泊めてもらう

 枝を伸ばして、自分用の杖を作ってみた。


「コーキ。そいつは、【ソーンバインド】のスキルなのか?」


 ガルバが、物珍しそうにボクを見る。


「まっ、まあ、そんなところです」


 いけない、いけない。うっかり、自分で正体をさらすところだったよ。


「魔法の杖を、自分で生成できるなんて。さすが世界樹産ですね」


「どうなんだろう?」


 アザレアも、ただ感心するのみ。


 でも武器自動生成って、実際どうなんだろうな。 

 よくいえば、地産地消である。悪く言えば、貧乏装備だし。


「じゃあ、本格的に作ってみるかい? 魔法石とかあるから」


 魔物が落とす魔法石は、大型なほど強い魔力がこもっているらしい。

 強い魔物であるほど、得られる魔法石のサイズは大きくなる。


「ワタシが持っているのでは、こんな大きさかな」


 パロンが、持っているショートソードを見せてくれた。


「柄に取り付けてあるルビーが、魔法石。モンスターから採取したんだ」


 剣の柄に、赤い石が三つついていた。その両隣に、細長いひし形の小さな青い石が一つずつ。


「ワタシの武器も、自作なんだ。店売りの剣に、細工を施してある。鞘の先端にも、丸い透明な魔法石があるよ」

 

 しまってある剣を、保護する役割があるらしい。


 ただ、戦闘で生計を立てているわけではないという。なので、たいした武器は持っていないそうな。


「全部換金してしまったから、手持ちにもう魔法石はないんだよ。旅をしつつ、使えそうなのを集めてみようか」


 ボクを作ったことで、パロンは財産もほとんど使い切ってしまったという。

 素材探しの旅費も、かなりの金額を必要としたそうだ。


「さっき倒したウルフからは?」


「厳密には、ウルフは魔物とは呼べないんだ」 


 ウルフは魔物というより、「動物」に分類されるらしい。お肉や素材以外に、使い道がほとんどないそうだ。


「わかった。パロンのいうとおりにしよう」


 魔法石は、道中で獲得することにした。


 装備を整えていると、もう夕方ではないか。


 夢中で買い物をしていると、時間が立つのが早い。


「宿を探さないとね」


 そろそろガルバたちを帰さないと、って思っていると……。


「そうだ! コーキ、パロン。ぜひ我が家に寄ってくれ。メシでも一緒に食おう。カカアも喜ぶぜ」 


 ガルバから、そう提案された。

 

「ガルバのお家に、お邪魔していいのかい?」


「おうよ! オレのカカアのシチューは、自慢じゃないが、うまいぜ」


 ガルバが、胸を手で叩く。オウルベアの肉をアイテムボックスから出して、見せびらかした。どうも、お礼がしたくてしょうがないらしい。


「ありがとうございます。でもさすがに、宿に泊まりますよ」


 ボクに好意的なのはありがたいが、正体を知られるわけには。


「泊まっていってくれ。でなければ、オレの気が収まらん」


 うーん、どうしようか。ここで無下に断るのも悪いし。

 

「コーキ、ここは、ご厚意に甘えよう」


 対照的に、パロンは楽しそうである。


 ならいいか。


「いいの、パロン?」


「二人はキミの正体を知っても、どうせ大した反応はしないよ。キミに感謝してくれているみたいだし」


「わかった。じゃあ、お願いします」


 そうと決まればと、ガルバが道案内を始める。

 

 ガルバの誘導で、小さな小屋に案内された。


「あらあ、いらっしゃい」


 この若い女性が、ガルバの奥さんらしい。アザレアに、よく似ている。

 事情を夫から聞くと、奥さんはたいそう喜んだ。


「どうぞどうぞ、そんな思いカブトなんか脱ぎなさいませよ」

「うっ……」


 やっぱり、気になっちゃうよね。


「ごめんなさい、奥さん。彼はシャイなんだ。カブトの着脱は、勘弁してくれないか? 寝るのにも邪魔にならないよう、加工はしてあるから」


「はい。悪い人じゃないんだから、仮面を脱ぎなさってもいいのに」


 奥さんが、残念がる。


「まあ、誰にだって知られたくない事情はあるさ。それよりドナ、メシと酒を頼むよ」


「あいよ」


 ガルバの奥さんは、ドナという名前のようだ。

 

「ちゃんと稼いできたんだよね、あんた?」


「へへん。オレを誰だと思ってやがる?」


 袋いっぱいの報酬を、ドナさんの両手にドンと差し出す。


「あらまあ」


「こいつで、うまいもんを出してやってくれよ」


「ありがと。じゃあ、腕によりをかけて作ってあるからね」


 ドナさんは、キッチンへ。


 アザレアも、手伝いに行った。


 ボクたちは食卓で、待つことに。


 眼を見張るような料理が、テーブルに並べられた。メインは、オウルベアのシチューである。


 サブとして、ウルフの薄切り肉をレタスで巻く。


「おいしいです」


 仮面を被ったまま、ボクはいただいてみた。一応口があるので、食事は可能だ。味覚もちゃんとある。どこに消化されていくのか、わからないけど。


 オウルベアの肉が、野菜のシチューに合う。

 クマなのに、鶏肉の味と食感がする。独特の味わいだぞ。


 ウルフも野生動物なのに、臭みがまるでない。

 食べ方を工夫するだけで、ここまでおいしくなるのか。


「このつけダレが、またいいですね」


「かなり辛いけど、大丈夫かい?」


「平気ですよ」


 聞けば、胃袋が熱くなるくらいの激辛ソースらしい。普通は少し垂らす程度なのだが、ボクはドバっと塗りたくってしまった。


 これは、バレてしまったか?


「いい、食いっぷりだねぇ。見てて惚れ惚れするぜ」


「母さんのシチューは、本当においしいんですよ。コーキさんに気に入っていただけで、なによりです」


 ガルバたちに、好評なだけだった。


「それにしても、コーキさん。エルフの学者様と旅をなさっているのは、どうしてなのです?」

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