第6話 冒険者と遭遇

「キミ、大丈夫!?」


 パロンが、冒険者らしき少女に駆け寄った。


「はい。なんとか」


 少女の装備は、緑色のベストと短パン、薬草の入ったカゴの他には、弓がある。しかし、武器は真っ二つに折れちゃっていた。


「ワタシは、パロン。この子は、コーキだよ。あなたは? 見た感じだと、【レンジャー】だね?」


「アザレアです」


「毒をもらっているね。これを」


 まずパロンが、自前のポーションをアザレアに分け与える。


「ありがとうございます。いただきます」


「何があったの?」


「仲間とはぐれた際に、魔物に襲われまして」


「魔物って、イノシシの?」


 ボクはとっさに、さっき現れたキングボアを想像した。


 しかし、は首を振る。


「違います。わたしを襲ったのは、ウルフです」


 ウルフは比較的弱く、一人でも対処しやすい。ただ、それは一体だけの場合だ。集団になったら、並の冒険者だと結構手こずるという。


「今でも、わたしの持っている薬草を狙っています」


 気がつくと、ボクたちはウルフに囲まれていた。


「シドの森は、森の賢人たちによる結界で、比較的安全なんだ。しかし、魔物に襲われないって意味じゃない。魔物だって、相手を自分たちの縄張りにおびき寄せることだってある」


 どうやら少女は、魔物の狡猾な作戦にひっかかってしまったようである。


「心配しないで。ウルフくらい、どうってことないから」


 そう言ってパロンは、カゴから溢れていた薬草を掴み取った。


「この薬草は、売り物だね。どこまでが?」


「はい。これとこれが、依頼品です」


 売り物の薬草以外は、自分でポーション作りのために保存するのだとか。


「じゃあ、依頼品以外を使わせてもらうよ。こっちで、買い取るからね」


「はい」


「次は、コーキにお願いするよ」


 続いてパロンは、ボクの身体から生えているツタから、果物を借り受けた。


「キミの身体から生えているフルーツも、いただくから」


「わかった」


 ブドウをむしって、パロンは手をあわせた。両手のひらの中で、薬草といっしょにブドウをすり潰す。


 紫色の霧が、パロンの手から立ち込めはじめた。


「大地の精霊よ、我らの前に立ちふさがる悪しき魂に、眠りを……【ヒュプノス・デュー】!」


 パロンが、【眠りの露ヒュプノス・デュー】という魔法を放つ。


 あれだけ殺気立っていたモンスターたちが、霧を吸っただけで眠りにつく。


「この魔法は?」


「神経毒の一種だよ。弱い魔物は、この毒霧を吸っただけで、眠ってしまう」


 すごい。これが、パロンの力か。


「数が多かったからね。これで片付けさせてもらった」


 ウルフをすべて眠らせて、パロンは必要な分の素材だけを手に入れた。自分たちに向かってきたウルフに限定して、肉や爪などをもらっていく。


「ありがとうございます」


「いえいえ。アザレア。キミを見つけたのは、コーキだから」


 ウルフの身体から、パロンが白い石を取り出す。換金アイテムかな? もしかすると、あれがパロンの言っていた【魔法石】かも。


「はい。コーキさん、ありがとうございました」


 アザレアが、ボクにお礼を言ってきた。


「無事で何よりだった。それより、仲間がいるんだよね? あっちの方角から、地面を踏む気配があるんだけど」


 大急ぎで、こちらに走ってくる振動がする。


「そんなこともわかるの、コーキ?」


「ボクも、たまたまわかっただけだよ」


 足音が、だんだんと大きくなった。


「無事か、アザレア!」


 革製のヨロイを来た中年男性が、アザレアに声をかける。ボクとパロンの顔を見て、男性が一瞬剣に手を伸ばす。が、すぐにひっこめた。 


「大丈夫だよ、父さん。この人たちが助けてくれたの」


「そうか……オレはガルバ。あんたたちが、娘を助けてくれたようだな。ありがとう」


 どうやらガルバという男性は、アザレアのお父さんみたい。


「ワタシはパロンだよ。こっちが、コーキ。よろしくね」


「パロン……錬金術師の魔女様か。感謝する」


「まあまあ。困ったときは、お互い様だから」


 ガルバが、辺りを見回す。


「これは、パロン殿がやったのか?」


 相手をしていた魔物が急に眠りだしたので、ガルバは何が起きたのかを確認に来たのだという。


「まあね。大勢を無力化するなら、戦うよりいいかなって」


「凄まじいな。あなたが敵でなくてよかった」


「敬称は必要ないよ。ささ、街へ戻ろう」


「うむ。こっちだ」


 ガルバに案内されて、街に行く道へと進む。


 途中、オウルベアが襲ってきた。


「夜行性だからね、コイツに眠りは効かないか」


「任せろ」


 ガルバが、盾を構える。オウルベアの爪攻撃を、強靭な鉄の盾で受け止めた。


「おおお!」


 ショートソードで、ガルバがオウルベアの腹を斬る。


 オウルベアは、力尽きて倒れた。


 魔物が目の位置から、石のようなものを落とす。


 こぼれた石を、ガルバが回収する。


「強いですね」


「たいしたことはないさ。おそらくパロンのほうが、スマートに倒してしまうだろう」


 ガルバが、剣を収めた。ナイフを使って、オウルベアの素材を剥ぎ取る。


「うわ、まって!」


 もう一体のオウルベアが、真上から降ってきた。無防備のガルバに向かって。


「しまった!」


「任せて、ガルバ!」


 オウルベアの存在に気づいていたボクは、全身からツタを伸ばして魔物を締め上げる。


 どうにか、オウルベアを気絶させた。 

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