ウッドゴーレムに転生しました。世界樹と直結して、荒れ地を緑あふれる大地に変えていきます

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 転生した身体は、木でできていた

第1話 ウッドゴーレムに転生

 第〇章

 

 

 ボクは目を覚まし、木でできた腕や足を伸ばす。


 ウッドゴーレムに転生して、肩こりや腰痛に悩まされることはなくなった。でも朝の湿気で、体中がむくんでいるようだ。


 ボクはゴーレムだから、本来なら睡眠は必要ない。だけど、魔法を使って荒れた土地を活性化しているから、疲れてしまう。なので睡眠によって、大地からエネルギーをもらっているのだ。


 ボクの身体は、世界樹とつながっている。村の中央に生えている世界樹から、直接魔力をいただく。


 暖炉に火を付けて、体に染み込んだ水分を飛ばす。ウッドゴーレムといえど、耐火性があるってのはいいね。


「ふわああ。おはよう、コーキ」


 小柄なエルフのパロンが、ボクにあいさつをした。彼女はハーフエルフ、つまり、人間とエルフの混血である。天才錬金術師の少女だ。


「おはよう、パロン」


 パロンに、ボクは木でできた手を上げる。パロンは錬金術で、ウッドゴーレムであるボクを作った。


 というか、ボクの魂がパロンのウッドゴーレムに乗り移ったのだ。日本で死んだボクは、異世界でパロンの作ったゴーレムとして転生したのである。


 パロンは人間とハイエルフのハーフってだけで、魔法学校では落ちこぼれ扱いだったという。だが、錬金術で彼女の右に出る者はいない。


「調子はどうかな?」


「問題ないよ。ほら、このとおり」


 ボクは、自分の身体から生えてきた果物を見せる。


 ブドウにミカンなど、種類の違うフルーツが、体中のツタから生えていた。


「今日も、おいしいポーションが作れそうだね」


「うん。みんなにも好評で、うれしいよ」


 パロンは、ボクが体内で育てたフルーツで、ポーションを作っている。


 できあがったポーションを、パロンといっしょにに味見した。


「あー、我ながら、いい出来だね」


「そうだね、パロン。おいしい」


 おいしいだけじゃない。ポーションだから、あらゆる効果を飲んだ人にもたらす。


 ボクはウッドゴーレムだけど、ちゃんと疲れるし、味覚もある。


「ういー、頭が痛いのう」


 森の賢人クコが、世界樹に作ったベッドからようやく起き出した。見た目は白いリスだが、サイズは成熟したネコくらい大きい。


「賢人クコ、また酒を飲みすぎたようだね?」


 パロンが、賢人クコをからかう。


「果樹園のワインが悪いんじゃ。あれは、止めどきがわからぬ」


「コーキの身体の一部で作ったからね。そりゃあおいしいよ」


「だが、コーキは薬草も作れる。マッチポンプというやつじゃ」


 ボクは自分から生えてきた枝を切って地面に植えると、植物が生えてくるのだ。腕から伸びてくる枝をへし折って植えるんだけど、痛みはない。


 生えてくるものは主に、建材用の針葉樹や、果実がなる広葉樹だ。最近だと、薬草や野菜なども作れるようになった。特に、ポーションの素材となるフルーツは大人気だ。


 人の体から生えている果物なんて売れるのかなって思っていた。


 けど、みんなはボクを世界樹からできたウッドゴーレムだと思ってくれている。だから、なんの抵抗もないみたい。


「ではコーキよ、薬草茶を頼む」


「はいはい賢人クコ。少々お待ちを」


 お湯を沸かし、すりつぶした薬草を別の急須に入れてお茶を淹れる。


 パロンの役割だった薬草茶作りも、ボクの担当になっていた。


「ずいぶんと、緑豊かな土地になったよね、ここって」


「昔は、岩山に覆われた荒野だったのにねえ」


 最初にこのアプレンテスを訪れたときは、絶望した。


 アプレンテスさえ再生できれば、都市と都市の往復に役立つ。そう考えて開拓を始めたものの、苦労の連続だった。


 小さな木のトーテムから初めて、水を掘り出して。地下遺跡の問題も解決した。


 今では人も戻ってきて、交流も盛んだ。


 この光景を見て、ボクは確信する。


 ウッドゴーレムに転生したのは、この土地を蘇らせるためだったのだと。


 最初は、何もわからなかったけど……。



~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 


第一章


 ここはどこだ? 宇宙? 違う。酸素もあるし、足場がある感覚がある。しかし、どこだかはわからない。


 たしかボクは、木から降りられなくなったネコを助けようとして。捕まえたと思ったら、枝が折れて頭から落ちたんだよな。


白樺シラカバ 巧樹コウキ。あなたを転生させてあげまっさ」


 お腹の上にいるネコが、しゃべった。


「うわああ!?」


「驚かんでええで。ネコを通じて、木がしゃべっとんねん」


 たしかに。ここって木の上だ。宇宙そのものが、大樹になっている。枝があって、根っこもあって。世界ってこんなになっていたのか。


 木とつながっている、大自然の女神様なんだとか。


「え? 転生だって?」


「あんたの優しさに惚れて、別の人生を歩ませたろ、と思いましてん。せやけど残念なことに、人間の姿では生きられんのや。転生する肉体の指定はできへん」


 肉体が自然と融合しすぎてしまって、自然物に転生してしまうだろうとのこと。


「最近ありますね。人外に転生するとか」


 一応、ボクにもそういう知識がある。マンガだけど。


「いいですよ。できるだけ痛い目に遭わないほうがいいですけど」


「それを聞いて安心したで。安全な世界やから、のんびりしてや」


 ボクの身体が光りだし、視界が白んでいく。




 目を覚ますと、見知らぬ木製の部屋にいた。どこだろう? なんか小屋みたいだけど。


「気が付いた?」


 耳の先が尖った少女が、ボクを見ている。翡翠のような緑色の瞳が、美しい。


「ここはキミの部屋だよ。キミはワタシが作ったんだ。この翡翠の魔女ソーマタージ・オブ・ジェダイト。パロン・サントによって」


 作った、だって? ボクは人間じゃないのか。たしか女神様も、ボクは人間に転生できないって言っていたっけ。


「うわ、なんだこれ?」


 ボクの手が、木製になっていた。


「言葉を話せるんだね。そんな機能はなかったはずだけど」


「元人間なんだ。名前は、シラカバ・コウキ」


「コーキ? それがキミの名前か」


 ボクは、自分の話を一通り聞かせた。


「すごいな。異世界から来たなんて。生前の歳は?」


「三〇歳」


「ふむふむ。若いね」


 魔女というのは本当らしく、パロンという少女は丹念にボクの話をメモっている。好奇心旺盛な性格のようだ。


 ボクからすれば、この場こそ異世界なんだけどね。


「じゃあ、コーキって呼ばせてもらおう。ワタシもパロンって呼び捨てにしてくれていいからさっ」


「いいの? 作ってくれた人でしょ?」


「だけど、神様ってわけじゃない。ワタシとキミは、生命体としては同等だと思うよ」


 パロンが、ボクの顔を覗き込む。この女性は、生命に対する価値観がかなり変わっているようだ。錬金術を扱う人って、みんなこんな感じなのかな?


「立てるかいコーキ?」


「おそらくは」


 差し伸べられた手に、ボクは手を伸ばす。ちゃんと、身体を動かせるみたいだ。


 人間だった頃の感覚は、あるらしい。動くことに、支障はなかった。


「ほら、コーキ。これがキミの全身だよ」


 パロンが、ボクを姿見の前に立たせる。


 ボクの姿は、木の人形だった。

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