第17話 まさかの指示

 『凪夜、お前は御神楽天音と一緒に住んでもらう』

「はああああああ!?」


 カシラからの指示に、凪夜は大声を上げる。

 少しずつ護衛任務に慣れてきたとはいえ、さすがに容認できるものではなかった。


「な、なな、何を言ってるんですか!?」

「どうしたのよ」

「……っ!」


 声を上げ続ける凪夜に、天音が不思議そうに尋ねた。

 だが、凪夜もさすがに伝えられない。

 すると、カシラから指示が入る。


『よし、御神楽天音に代われ』

「はい!? だってイヤホンは一般人に貸しちゃダメって──」

『私が上司カシラだ。代われ』

「うっ……はい」


 それには凪夜も素直に従うしかない。


「このイヤホン、つけてください」

「え? なにこれ、すごいちっちゃいわね」


 天音が付けると、カシラは堂々と話し始めた。


『はじめまして。私は凪夜たちの指示役をしております』

「え、ええ」

『早速ですが、ご報告があります。御神楽天音様、あなたはうちの凪夜と住んでもらうことになりました』

「はああああああ!?」


 だが、天音も同じく声を上げる。

 凪夜の叫びの原因が分かったようだ。

 天音は動揺を隠せないまま、激しく問いただす。


「ちょっと! どういうことですか!?」

『もう決定いたしましたので。うちの凪夜とならいける・・・と』

「どこをどう見ていけると思ったんですか!?」

『驚いた反応も同じではないですか』

「……っ!」


 天音はハッとすると、途端に顔をかあっと赤くさせる。

 ならばと他にも色々と聞き返す。


「ぐ、具体的にはっ!?」

『現在お通いの学校の地下に、討魔連盟の施設を作っております』

「……!」

『天音様のご身分も考え、家はかなり大きめとなります。そこでうちの凪夜と共に住んでいただけたらと』

「~~~っ!」


 今までの件から、行き帰りの危険さを考えた結果だ。 

 天音を危険にわせず学校に通わせ、隣には常に最強の凪夜が付き添わせる。

 その条件をクリアするには、“同棲どうせい”がベストだった。


「こ、断った場合は……?」

『天音様のご寝室に、凪夜もしくは他の者が常に付き添います』

「プライバシーの欠片もないわね!?」


 そうなれば、天音も覚悟を決めるしかなかった。


「そ、そうするしか、ないのね?」

『はい』

「……わかりました」


 天音は首を縦に振った。


「了承、します」




 

 数日後。


「「……」」


 巨大なリビングの真ん中で、二人の男女が正座で向き合っている。

 凪夜と天音だ。


「「…………」」


 しかし、この姿勢は数分前からぴくりとも変わらない。

 お互いに考え込んでいるのだ。


(何をどうしたらいいんだ!?)

(何をどうしたらいいの!?)


 数分前まで、たくさんの討魔師が引っ越しを手伝ってくれた。

 荷物のはんにゅうは終え、それぞれの部屋も整っている。

 だが、いざ作業が終わると、二人は急に残されてしまった。


 そんな時、凪夜が変な声を上げる。


「ぐおっ」

「……!?」


 正座を崩せず、足が痺れたようだ。

 天音は笑みを浮かべた。


「ふふっ」

「……っ!」

「正座、慣れてないんだ」

「は、はい……いててっ」


 天音は古風の家で育ったため、正座には慣れている。

 その凪夜のもだえる姿が面白くてたまらなかった。


「あははっ、弱いなあ」

「す、すみません」

「とりあえず足を伸ばしたら?」

「そうします……」


 凪夜は相変わらずだが、天音は緊張がほぐれたようだ。

 すると、立ち上がって凪夜へうながす。


「足が治ったら、一人にしてもらえない?」

「え? いいですけど……」

「わたしもたまには役に立ちたいの」

「……?」


 言われるがまま、凪夜は自分の部屋に戻る。

 それを確認した後、天音は気合を入れるように腕まくりをした。


「守られてばかりじゃいけないわよね」






 数十分後。


「ど、どうかしら!」


 天音がバッと手を広げる。

 凪夜は再びリビングに呼ばれ、机に座っていた。

 二人の前にあるのはオムライスだ。


「い、一応作ってみたんだけど……」


 これは天音の手作りである。

 だが、見た目はあまり良いとは言えない。

 天音自身も成功じゃないことは自覚していた。


 凪夜は目を疑っている。


「こ、これが御神楽さんの手作り?」

「……っ」


 幻滅されたかと思うと、天音はきゅっと力が入る。

 しかし、全くそんなことは無かった。


「女の子に手作りしてもらえるなんて……!」

「!?」

「はは、これはきっと夢だ。そうに違いない。ではさよなら……」

「死ぬな!」


 あまりの出来事に気を失いそうになる。

 それほど嬉しくなったようだ。

 凪夜の頭をパコンと叩き、天音は口をすぼめた。


「せ、せめて食べてからにしなさいよ……」

「は、はい!」

「……っ」


 天音が下唇を噛みしめる中、凪夜は一口運ぶ。

 そのまま大きく目を見開いた。


「お、おいしいです!」

「……! ほんと!?」

「はい!」


 天音はこれが初めての料理だった。

 今まで料理器具すら触らせてもらえなかったが、凪夜の役に立ちたいと手作りしてみたのだ。 

 しかし、その状態で自信があるはずもなく。


(よかった……)


 凪夜の言葉に、天音はほっと胸を撫でおろす。

 すると、テンションが上がった凪夜はスプーンを前に出す。


「本当に美味しいですから! ほら天音さんもどうぞ!」

「ええ──って!」


 だが、凪夜はつい自分のスプーンを差し出していた。

 あやうく間接キスだ。


「なにカップルみたいなことしてんのよ!」

「うわわあっ! す、すみません!」

「ったく……」

 

 顔を赤くさせながら、天音は冷静に自分のスプーンで一口食べる。

 すると、うんっと笑顔でうなずく。


「おいしいわ」

「ですよね!」


 もちろん試食はしている(過剰なほどに)。

 だが、凪夜と一緒に食べると、なぜか先ほどより美味しく感じる。


(これが一緒に食べるってことなのかな)


 天音は、家族と一緒に食事をしたことがない。

 家で人と食べるのはこれが初めてだった。

 その温かさを身を以て知る。


(同棲は急すぎるけど、少しは感謝ね)


 ふっと笑みを浮かべて、天音も席につく。

 ご機嫌なまま凪夜と二人で食事をした。




 


 夜、就寝前。


「……あ、あんまり見るんじゃないわよ。恥ずかしいから」

「は、はい、すみません!」


 お風呂から上がると、天音は寝間着でリビングに出てくる。

 実家の伝統を受け継ぐような、古風の浴衣だ。

 凪夜はドキドキして一切顔を向けられない。


 そんな中で、天音はふとテレビを付けた。


『昔は夜に学校へ潜入してましたね~。あのちょっと悪い事をしている感じこそ青春っていうか!』

「……!」


 すると、天音が口を開いた。


「……ねえ」

「え?」

「ここって学校の真下なのよね」


 目をキラキラさせながら。


「夜の学校ってワクワクしない?」

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