第15話 最強 対 最強

 「もう一度条件を言うっす」


 舞台の端に立つ疾風はやてが、口を開いた。

 

 ここは討魔連盟東京本部、地下のトレーニングルーム。

 その中で、二人の者が向き合っていた。

 凪夜なぎや御雷みかづちだ。


「……」

「フン」


 両者が睨み合う中、“審判役”の疾風は続けた。

 まずは御雷みかづちの方に目を向ける。


御神楽みかぐら御雷みかづちが勝利した場合、天音あまねさんは学校をやめる。その後、京都の実家に帰宅っす」

「ああ」


 次に、凪夜に目を向ける。


月燈つきとう凪夜が勝利した場合、天音さんは引き続き学校に通わせる。護衛は討魔連盟が中心になるっす」

「……」


 御雷みかづちと凪夜、両者は勝負に合意する。

 すると、周囲は一層ざわざわし始めた。


「あれが御神楽家最強の討魔師か……」

「すごいオーラだ……」

「呪力が溢れ出してるのか……」


 ここにいるのは、全員が討魔師。

 だが、御雷みかづちのオーラには圧倒されているようだ。

 否、同じ討魔師だからこそ、そのすごさを実感しているのかもしれない。


 対して、凪夜を見る目は決して良くない。


「あ、あの人が月燈凪夜なのか?」

「噂しか聞いたことないが……」

「なんかちょっと弱そう?」


 それもそのはず、舞台に立つ凪夜の様子がおかしい。

 端的に言えば──ビビり散らかしていた。


(どうしてこうなった……!)


 確かに、先日の御雷みかづちには怒りを覚えた。

 あまりに天音の気持ちを分かっていなかったからだ。

 しかし、こんな事に発展するとは思わず。


(なんかギャラリーも多いし!)


 そろ~りと周囲を見渡せば、多くの討魔師。

 たたでさえ群衆が苦手なのに、全員が自分を見ている。

 そんな状況に、ビビリの凪夜が耐えられるはずもなかった。


 先程から一言も発さないのは、ガクブルと震えていたからである。

 すると、正面の御雷みかづちが口を開いた。


「今さら怖気づいてたのか? 月燈凪夜」

「……っ」

「だが、容赦はしない。お前には借りがあるからな」

「……っ!!」


 御雷みかづちが浮かばせるのは、怒り混じりの表情。

 借りとは、凪夜にぶっとばされた事だろう。

 

「フン、せいぜいあがくがいい」

 

 御雷みかづちは背を向け、開始位置についた。

 対して、いつまでも動かない凪夜に、疾風が声をかける。


「ほら、師匠も位置についてください」

「……あ、あひょっ!」

「!」


 すると、凪夜は緊張で変な声が出る。

 しかし、疾風は期待の眼差しでうなずいた。


(いつになく気合いが入ってるっすね! 師匠!)


 初めて聞いた声だったからだろう。

 やはり凪夜への盲目さは変わらない。


「では、両者が位置についたので──」


 そうして、いよいよ始まる。

 天音を賭けた“最強対最強”の対決が。


「はじめ!」


 疾風が手を挙げた。


「──【雷呪らいじゅ】」


 その瞬間、御雷みかづちが雷をまとった呪力の弾を放つ。

 恐ろしく速い技だ。 


「うわあっ!」


 【雷呪】は一直線に凪夜へ着弾。

 辺りにドガアアアアアアと轟音ごうおんが響く。

 あまりの衝撃に、大きな煙までもが立った。


「「「……ッ!?」」」


 周囲の討魔師たちは、そこでようやく驚きを見せる。

 それほどに目が追いつかなかったのだ。


「終わりだ」


 すると、御雷みかづちは冷めた目を浮かばせた。

 勝利を確信したかのように。


「あれを受けて立っていた者はいない」

「「「……っ!!」」」


 嘘をついているようには見えない。

 それほどに圧倒的な技である。

 そして何より、技の発動・・が早すぎる。


(そ、そんなのアリっすか……!?)


 通常、技の発動には“溜め”が必要だ。

 呪力を溜め、それを放つ。

 そうすることで、超常的な力を発動できる。


 だが、御雷みかづちは例外。

 彼は、普段から体外に呪力があふれるという規格外さを持つ。

 その体外の呪力をそのまま使うことで、技を発動させている。


 つまり、御雷みかづちに溜めは必要ない・・・・

 

「史上最強? 笑わせるな」


 加えて、雷の性質を持つ呪力だ。

 弾速も威力も、並の呪力とは比べものにならない。

 その攻撃は、回避不可の超威力を誇る。


「俺の雷の前では、等しく“無”だ」

「「「……っ!」」」


 これが御神楽家最強の討魔師、御雷みかづちである。

 彼はちらりと疾風に視線を移す。


「決着は着いただろう。さっさと宣言したらどうだ?」

「……っ」

「まあ出来ないか。ご自慢の師匠がみじめにやられてはな」


 そのまま周囲に目を向けると、嫌らしく言葉を続ける。


「周りも周りだ。こんな雑魚を史上最強ともてやはす。レベルの程度が知れる」

「「「……!」」」


 だが、言い返すことはできない。

 それほどに、討魔師として圧倒的な差を見せつけられたのだ。


 そんな時、一人の少女が声を上げた。


「なにやってんのよ!」

「「「……!」」」


 バッと観客席に現れたのは──天音だ。


 “暁の御子”の登場に、全員が驚きを隠せない。

 彼女にはすぐに人が集まる。


「いけません、天音様!」

「ここは危ないですから!」

「討魔師しか入れないのです!」


 このトレーニングルームは、討魔師以外は立ち入り禁止。

 だが、どこからか入り込んできたのだ。

 天音は今にも追い出されようとする中、大声で伝えた。


「アンタが、わたしを守ってくれるんじゃなかったの!!」


 天音の心からの叫びだ。

 すると、それに応えるよう煙の中から返事が返ってくる。


「すみません」

「「「……!」」」

「約束しましたもんね」


 段々と煙が晴れる中、立っている・・・・・凪夜の姿が見えた。


「情けないところを見せました」

「ア、アンタ……!」


 完全に煙が晴れ、凪夜が再び姿を現す。

 御雷みかづちは目を見開いた。


「バカな、どうやって……!」


 この技で立った者は初めてだ。

 ならばと、もう一度手を構える。

 

「【雷呪】!!」

「いってー!」

「は!?」


 速すぎる攻撃は、やはり凪夜でもかわせない。

 だが、普通に耐えた・・・・・・

 凪夜はこうやって立ち上がったようだ。


「でも、この程度・・・・なら!」

「……!?!?」


 御雷みかづちは、膨大な呪力で壁を張っている。

 呪力の壁はあらゆる衝撃を吸収するのだ。

 しかし、凪夜にもそれを出来たというだけ。


 本当はもっと早く起き上がれたが、凪夜は【雷呪】を食らってなお緊張していた・・・・・・

 そのせいで足が震え、煙の中で立てなくなっていたのだ。


 だが、天音の声で我を取り戻した。


「あなたも御神楽さんのことを考えての事でしょう」

「!」


 凪夜が呪力を溜める。


「でも、それで笑顔を奪っちゃいけない」

「くっ!」


 そのまま真っ直ぐ前に向かった。


「僕は笑顔を守るために討魔師になったんだ!」

「……ッ!? 速っ──」


 その右腕に想いを込めて。


「【呪力パンチ】!!」

「がはぁっ……!」


 凪夜の拳は、御雷みかづちを一撃で沈めた──。

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