第26話 こっちくんな、汚馴染
治癒部隊が来てから一月ほどたつと砦の兵士達の治療は進み、重傷で起き上がれなかった兵士たちもその半分ほどは全快もしくは起き上がって行動可能な程度に回復していた。
純粋にその貢献度は高かったので、城の中で治癒部隊の面々とすれ違う時は会釈をして通り過ぎるようにしつつ、フィオとはニアミスしないように注意しながら立ち回っていた。出来る事なら治療が終わるまで関わることなく、このままとっととどこかへ去って行ってほしいところ。
これはビビッてるとか正体がバレるとかじゃなくて、俺と大体いつも一緒にいるツバキがフィオとトラブル起こす方が心配だからである。
……なんてことを考えつつ、今はフィオと城壁で外の様子をみながら雑談に興じている。これは夜が近づき薄暗くなるこの時間は、城塞の周囲の森に注意しなければいけないのでその見回りも兼ねているのだ。
「あの治癒部隊、腕前は確かだったみたいだな。おっと、話をすれば今壁の下を丁度その一団が歩いているけど、あのユミル?ってリーダーの人は少し話したけど感じ良さそうな人だったぞ」
治癒部隊が下を歩いているのが視えたので話のネタにふると、ツバキは俺の言葉を聞いてやれやれというように首を振りながら大きくため息をついた。
「……ハーッ、いやーないッスね。ぶっちゃけありえなーいッスよラックさん!良い服着ててもビッチは無茶苦茶カスだし~♪って。まったくこれだから童貞は」
「ユアビッチカスビッチ生きてるんだから尻軽だって屁じゃないって?っていや、どどど童貞ちゃうわ!そう言うお前こそどうなんだバキィ!」
「処女ですが何か??」
思わず言い返してしまいセクハラだったかこういう話題はコンプライアンス的に問題あるんだよな昨今と思いつつもここ異世界だし大丈夫か?と思ったらツバキは気にしないようで、反論と共にドヤ顔を浮かべて勝ち誇ってきた。
「なんだお前も一緒じゃねーか」
「違うよ、全然違うよ。一度も攻め込んだことのない兵士と、一回も攻め込まれたことのない城。その価値たるや全然違うッスよ~」
したり顔ドヤ顔のツバキ、クッ……何か言い返そうと思ったけれど言い返せない。
「まぁそんな事はさておいて、なんであの人がバキちゃんセンサーに反応してるんだ??」
「露骨に話題をごまかしに来たッスね?……まぁいいっスけど。あの女がバキちゃんセンサーに引っかかったのはですね、あのユミルってだけ身なりを綺麗にしてるじゃないッスか」
「身なり?あぁ、確かにあの子だけ服が汚れてない。集団のリーダーだからしっかりした服を着てるのかな」
「残念、服だけじゃないッスよ~。
確かに周りの人はボロだったりみすぼらしい格好している中であの人は地味に見えつつも一人だけ身ぎれいにしてますけどね?
ほらみてくださいよあれ、ネイル……っていっていいかわかんないけどこの世界でも爪を塗る文化はあるんッスけど、目立たない程度におしゃれしてるでしょ?あとデカメガネで隠してますけど薄化粧していてあの集団の中で自分だけ綺麗にしてる。ツバキ的にクズ度高い」
「あ、本当だ。よく観てるなぁ、全然気づかなかった」
「女子同士だとそう言う所どうしても目につくッスよ。周りのレベルの低い中で自分だけちゃっか綺麗にしてる女って総じてクズっスよ~それを巧妙にやってたりする女は吐き気を催す邪悪の事がありますからね、ラックさんはそんな悪い女に引っかからないでくださいね。……というわけでバキちゃんとしてはあのリーダの子はクズでファイナルアンサーッス」
「なるほどなぁ。あとついにバキちゃん呼びを受け入れたか、えらいぞ」
「だってラックさん何回言っても辞めてくれないじゃないですか……」
そう言いながら身体を低くしながら右こぶしを顔の上に、左拳を顔の下にした構えをとるバキ。これは象形拳か、その背後に浮かぶのは……ブロント……謙虚なナイト……いや、違うブロントサウルス!ブロントサウルス拳か!そこは個人的にはトリケラトプスの方が良かったけどさらに出来るようになったな、バキ!
「……で、やっぱり童貞なんッスねラックさん」
「8歳と9歳と10歳の時と、12歳と13歳の時も僕はずっと……待ってた!!」
「答えに窮したからって、子どもの頃にママからクリスマスプレゼントを貰えなかった大人みたいな事言って現実逃避するのはやめましょうね」
ぐぬぬ、付き合いが長くなってきたからこっちへのツッコミも鋭くなってきたな。ん?そう言えば下にいる集団にフィオの姿がない。一団の中にあってずば抜けてみすぼらしいのでフィオは悪目立ちしているんだけど……と思ったらどっきり、正面から小走りに走ってくる汚い姿に思わず声が出そうになる。
「ししし……ミツケタゾ!」
き、気持ち悪い!!にたにた薄笑いを浮かべながらこっちの行く手を塞ぐようにしつつ俺を指さすフィオ。うっかり喋ったりして正体がバレるのが嫌なのでやむを得ずこいつと近づいた時には黙り込んでいるのだけれど、どうやってこの場を斬り抜けようか。
「スイませェン……今は見回り中なので先を急いでいるので失礼します……」
フィオの態度に内心だいぶピキッてるのを感じるけれど俺の内心を察したのか、我慢しながら表面上を取り繕いつつ横を通り過ぎることを試みるツバキ。おぉ~、成長したじゃないか!!俺の心配は杞憂だったみたいだ。偉いぞバキィ~。
「あ、あんた、に話、してるんじゃあないわよ、槍女ァ……そこの、ラックに、私は、はなしかけてるのよ」
「誰がラックだ、さんをつけろよデコ助やろう」
前言撤回!!畜生、内心で認めて褒めた次の瞬間に瞬間湯沸かし器みたいにフットーして臨戦態勢になっているツバキ。自分まだ顔面やれますってそのやる気に満ちた顔をやめろぉ!即座にブロントサウルス拳の構えを取ってるけどお前の怒りが有頂天かよっ、ステイ……ステイ!!
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