第18話 間男、去勢と四つん這い
キールに何があったのかはわからないけれど、覚悟の決まった男の顔をしている……戦場に挑む戦士らしい良い顔だ。あぁ、いや主人公だけあって普通にイケメンキャラではあるんだけれど。
『な、なにをじやがっだァァごのぉ、卑怯者がァァァァッ!!』
「その顔その声、やっぱりハーメルなんだな。……例え元人間だろうと倒させてもらう!」
『やっでみろよボゲガズがゴルアァァァッ!!』
ハーメルがキールに吠えている。俺達が自由に動けるようになったけれどキールに真っ向から戦わせたら危ない。俺達で牽制してハーメルを自由にさせないようにしなくては―――!!
「バキッ、俺達で抑えてキールの攻撃の隙を作るん―――」
「おっ、ほっ、ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!んほぉ~っこの主人公たまんねぇ~っコヒューコヒューッ」
あっ、駄目だこれ。なんとなくキール様とか言っていたしキールがが推しキャラだとは思っていたけれど推しを直視した衝撃で過呼吸みたいな変な声出しながら地面でビタンビタンのたうちまわってる。
とてもじゃないけれど、みせられないよ!!年頃の女の子がしていい動きじゃねぇよ、どこまで残念なイロモノなんだ……。頼りになる反面オタクの残念な部分が急所すぎて草生えますよ。
絶賛んほってるツバキは放置し、周りの冒険者に瓦礫の下に子供が居るので救出を依頼してから今度は俺がハーメルを追いかける形となる。
『ブッッッ潰れろやぁぁぁぁぁッ!!』
「―――させるかっ!!」
身体をひねり、尻尾の一撃でキールごと周囲を薙ぎ払おうとしたハーメルに追いすがりつつスライディングしながら尻尾を斬りつける。案の定即座に再生されるが、その再生の速度が足を両断した時とは違い酷くゆっくりで、今度はハーメルの動きが停まった。
『ギャオオオン!!』
再生自体はしたが、尻尾を切ったとたんに尋常じゃないくらいに痛がりだした、しかも何故か股間を抑えて。
『お前ぶじゃげんなよやっでいいごどどわるいごどっであるだろうがよぉぉぉ!!』
街を破壊して住人大勢虐殺したお前が言うなと思わないでもないが、チラリとキールを見ると剣を逆手に構えて恐らく何かの技を発動している。溜め型の技なのかな?……よし、それならここで俺がこのアホの注意をひきつけてキールが攻撃する隙を作ってやればいいな。
じゃあまずここで考えよう、尻尾を切ったら何故か股間を抑えて激痛に身悶えるハーメル、あいつが人間から怪獣的なフォルムの魔物に変身したとして、あの尻尾はどこから来た?尻から生えた?いや、あの尻尾を切った感じだと中には骨は無かった。……揃った情報からあの尻尾が元々は何だったのかという想像だけど……あの、あれってその、オティンティ……うおおおお!えんがちょっ、ずっと使ってきた愛剣で斬っちゃったよ!!ばっちぃ、こんなの戦闘辞めたくなりますよ~……あとで消毒しなきゃ!!
『お前、人のモノを……!!』
ほらやっぱりー!やだーっ!!あの尻尾ってやっぱり股間の紳士じゃないですかー!!ヴォエッ!!最低すぎる!しかしあの尻尾が急所だったかぁ……いやまぁ二重に文字通りの意味で失笑してしまうんだけれど、攻撃範囲も短くなるしダメージを通せるのだからやるしかない。
尻尾もとい、おにんにんを斬りつけられた怒りで尻尾を振り上げ叩き潰そうするハーメル。
その叩き付けを回避しつつ足、背中、頭部とその身体を駆けあがりながら剣に闘気を籠めると闘気が巨大な刃を形成していき、全長5メートル程の長大な大剣と成った。
―――そのまま大剣を構えながら頭頂部を蹴って空中へ跳躍し、大剣を大上段に構えたまま尻尾に向かって落下する。届けっ雲曜の速さまでっ!
『俺を踏み台にしだぁ?!』
「括目しろっ!これが俺の太刀筋だっ―――はぁぁぁぁぁっ、チェストーッ!!」
残っている体力気力闘気を籠めて、落下の速度を上乗せして尻尾に刃を叩き付ける。威力が上乗せされた全力の一撃と共に切断面を焦がしながら文字通りに一刀両断にする。
「一刀!両断!―――断罪去勢の太刀!!」
―――我が愛剣に断てぬものなし!!ってね。
『オンギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!』
幾ら魔物になっていても急所を切断されたら死ぬほど痛かろう、男としてはゾッとするけれど己の蛮行鑑みたらこれでも生温いと思うからヨシッ!
切り落とされた尻尾は暫く地面をのたうち回っていたがやがて動かなくなった。
「あんまりだぁぁぁぁぁぁっ!あびぃぃぃぃぃぃぃっ!!ぢぐじょう、感度3,000倍で痛みがすべて快感に変わっていだのにごれはずるいぃぃぃっ、なんでごどじやがるんだごの下種がぁぁぁ!!」
感度3,000倍ってなんだよクッソエロゲーかよ。
「――――いやー、笑っちゃうんすよね」
いつのまにか隣に来ていたツバキがのんきにそんな事を言っている。一応精神は落ち着いたようだ。
「仕方ないだろ、キールの攻撃のためにアイツを抑えなきゃならないんだ」
「成程アイツの動きを止めればいいんッスね、かしこまり!それなら私にもう一つ奥の手があるから任せるッスよ」
そう言ってから姿勢を低くし、身体を大きく捻るツバキ。
『どいづもごいづも俺を舐めやがって!全員まどめで皆殺じだーっ!!』
「動くと当たらないだろ、最後の一発くれてやるよ!平伏強いる憤怒の神槍(ヨツンヴァイン)!!」
そう言って槍を投げる―――と言っても剛速球といって例えれば良いのか、文字通り目にも止まらない速さで投擲し、投げられた槍は赤い残光を残しながらハーメルの身体を貫いた。
槍自体はハーメルの身体を貫通したが、その傷口も一瞬で再生されてしまう。
『効がん、ずぐに全回復にぃ……あ、あれ、な、なん…「重い」、身体が「重い」?!?!』
ハーメルは上から重力にでも押し潰されているのか、ゆっくりと膝をつき、そして上体も地面へと押し付けられるようにしてゆっくりと沈んでいく。
『違う、身体が「沈んで」いるゥッ?!ウオオオオオオオオオッ!!』
ついには肘、そして掌を地面におしつけるような体制となり、巨大ハーメルは文字通りにヨツンヴァイン――――もとい、四つん這いの姿勢となった。
やりやがった!マジかよあの野郎やりやがった!!佐藤椿すげえッ!!
ダメージの後に強制四つん這いを強いるのか。実際アホみたいにみえるけれど四つん這いを強いるという技は結構エグい、防御も攻撃も出来ずに相手に向かって無防備に首を差し出す姿勢をとらせることになるんだぞこれ。ツバキ本人に自覚がないけどこの技は普通に強い。
俺がヨツンヴァインに戦慄している一方で当の本人はというと、手元に戻ってきた槍を右手で掴み、くるくるとまわして肩に載せて左手の中指を立てている。
「―――四つん這いになるんだよ。あくしろよ」
こら、年頃の女の子が中指なんてたてるんじゃありませんことよ。
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