028 終戦します

 まずは一当て。

 お互い避けずに正面からぶつかり合う。

 そこから数手拳を合わせて分かったことがある。

 進化したカンフーコッコのステータスは、ドーピングを重ねた俺の化物級ステータス以上だと思う。

 称号を発動させないように、戦闘よりも組手を意識しての一当てだったから余計にはっきり分かる。

 しかもカンフーコッコ改めカンフーシャモーマンは、近接戦闘寄りのステータス構成にしていると思われる。


 痛いし、頑丈だし、速い。


 途中から戦闘を意識して【暴虐非道】を発動させて対応していた。

 たとえズルだと言われても。


「ケェェェッ」


「なかなかやりおる」


「ケェェェッケッケッケッ」


 会話が成り立っているかは不明だが、笑われているのは分かる。

 笑われている内容も分かっている。

 元々戦闘技術が高かったシャモーマンは、能力値が向上したおかげで各技の威力や精度が高まり、さらなる高みに近づいたと思う。

 対する俺は、ステータスの能力値は高くとも〈斧術〉含め、各スキルは奪ったものだからレベルが低いまま。

 ギリギリ対応できているのは身体能力と、たまたま高くなった〈体術〉のおかげ。

 それを見破られて笑われているわけだ。


 悔しいけど、ド正論だから反論はしない。

 甘んじて嘲笑を受け入れよう。


「それにしても強くなり過ぎでは?」


 涙の数だけ強くなるって本当だったんだな。

 俺も涙を我慢する必要はないってことか。


「仕方ない……」


 勝てる要素はステータスのみ。

 ならば、ステータスによる蹂躙以外の選択肢はない。


 ──〈巨腕:1〉

 ──〈鉄壁:1〉

 ──〈疾走:1〉

 ──〈精巧:1〉

 ──〈明晰:1〉


 それぞれ元の能力値に対し、それぞれの割合で補正してくれるスキルだ。

 HPを使用しての能力で、レベルが上がるほど消費率の減少に繋がるそうだ。まぁHPの量に自信がある俺は、そこまで気にする必要はないはず。


 ちなみに、現在のステータスがコレだ。


【ステータス/称号含む強化前】


 Lv:1

 HP:3650

 MP:1864


 STR:233

 VIT:290

 AGI:130

 DEX:145

 INT:113

 MAG: 76

 LUC: 25



 このステータスを上回るステータスを持つカンフーシャモーマンは、六〇層以上の深層ダンジョンの五〇層以上のモンスターに匹敵すると思う。


 知っている理由は、自分のステータスのヤバさを真に示されたときに提示された資料を見たから。

 ソースは、世界ダンジョン協会だか研究所だかで発表されたもので、元データは世界のトップチームが挑戦した際に収集してきたそうだ。


 数字が全てとは言わないが、わかりやすい目安として世界に周知された。

 もちろん、覚歴社会の目安の一つにもなっている。普通に確認すると個人情報保護法違反になるので、総合値で判断するようにしているらしい。


 さて、素の状態でも技術的な面でも負けている俺。

 打破するための一手を打とう。



【ステータス/称号含む強化後】


 Lv:1

 HP:7490

 MP:4469


 STR:607

 VIT:580

 AGI:234

 DEX:378

 INT:317

 MAG:160

 LUC:106



 戦闘中ゆえザックリとした計算だが、約二倍弱の総合値になっていると思う。

 なんか界〇拳を使っているみたいで、思わずポーズを取りたくなった。が、我慢だ。余計に笑われるのは御免被る。


「待たせたな。才能が努力を踏みにじることを教えてやる」


「ケェェェッ」


『負け惜しみよな』


 クソモンスターどもが。

 デリカシーの欠片もないな。

 ジジイとババアなんだから、少しは成人成り立ての若者に優しくしろよ。


「──ゲッ?」


「あれ? どこぞのモンスターと同じく心が読めるタイプ?」


「ケェェェッケッ!」


 なんだ。女の勘かよ。


「──よっと」


 俺は不確かなものではなく〈直感〉が仕事をしてくれてます。

 いつもありがとう。

 おかげで奇襲を回避できました。


「ケッ」


 体高が一六五cmくらいから一八〇cmくらいまで成長をしたシャモーマンは、あまり使っていなかった蹴り技も多用するようになった。

 足が長くなり、それも鞭のようにしなる筋肉から繰り出される蹴り技は地味にウザい。


 近づくと強化した硬い装甲と翼斬撃及び打撃を浴びせられ、少し距離を取って斧の間合にすると蹴り技の連撃が襲う。

 身体能力を上げても逆に空回りしている感が否めず、未だに攻勢に回れていない。


「ケッ」


 鼻で笑われた。

 腹が立つことはなかった。

 ずっと笑われてきた人生だったから。

 危ないことはしない。

 慎重に。命大事にをモットーに。

 俺はLv一の弱者だからと。


 でも、もう違う。

 リスクを取らなければ、時に大胆に行動しなければずっと弱者のままだ。


「ありがとう」


 俺は斧を捨てた。

 グローブを直し、体術主体の戦闘に臨む。


『鈍間め』


 仰るとおりで。

 鬼神はずっとリスクを取れと言っていた。

 今になってやっと気づくことができた俺は鈍間だ。


 ──〈体術:6〉


 一気に距離を詰め、翼の付け根を狙うように拳を突き出す。

 シャモーマンの防御力は硬い羽毛装甲だけでなく、技による受けや払いも影響している。それは今までの戦闘から知っていた。

 だから確実に払いに来たタイミングで頭突きを繰り出す。


 当然、嘴を狙うのではなく目を狙った。

 今まで一度も狙っていなかった攻撃だし、角を持っていない人間がやるとは思わなかったようで狙い通り当たった。

 左目で頭突きを受けたシャモーマンは一歩下がり、同時に左側に警戒心を集中した態勢を取る。


 俺はそれを見越していたので、シャモーマンの左側に体を振った後、全力の横移動で右側に移動して右目を殴った。


「──ケェェェェッッ」


 さすがの反射速度で眼球直撃は避けられたが、頭突きよりもしっかり入った攻撃は相当痛かったようで、初めて両翼によるフルガード状態になった。

 今度は視界を封じている間に両翼のガードを下げるべく、翼の付け根に左右から連撃を打つ。


 シャモーマンの息が荒くなり始めた頃、シャモーマンに変化が訪れた。


「んっ?」


 薄っすら白い靄がシャモーマンを包んでいた。

 界〇拳が登場する漫画のに似ている。


「ケェェエッ」


 体全体から放出された靄の塊が俺に向かって放たれた。

 俺は、追尾があると面倒だと思い壁際ギリギリで躱した。予想は当たり躱した瞬間に俺に向かってきたが、先に壁に当たって硬い壁に大穴を開けた。


 ──〈吸星大法:1〉


 おそらくあの攻撃は【闘気】と呼ばれるものだろう。

 俺の持つスキルにも【闘気操作】というスキルがないと発動できないものがあり、〈吸星大法〉はその足りない闘気を集めることができる特殊系のスキルだ。

 ただし、相手が闘気を持っていたり使ったりした場合のみに発動可能という限定的な能力となっている。


 レベル一では対して吸収できないだろうが、余波によるダメージは回避できそうだ。

 闘気対策も立てたことだし、先程の続きを行おう。


「ケェ……ケェ……」


 俺は身体的な疲労はほぼないが、精神的な疲労がそろそろ限界値だ。

 対してシャモーマンは、身体的な疲労が限界に来ているように見受けられる。


 ──次で決める。


 一瞬心が通じ合ったように感じた。

 シャモーマンは放出ばかりを行っていたのに両翼に闘気を集中させ、俺を迎え撃つ準備を整えたようだ。


 ──参る。


 シャモーマンが砕いた壁から採取した石材を使ってガントレットを作り、シャモーマンとぶつかり合った。

 闘気は体の芯に響く攻撃で、痛みと重みで体が強張った。そのせいで深く踏み込めないはずだった。が、途中で正拳突きから貫手に変えていたおかげで、シャモーマンの喉の攻撃が届いた。


 あとは意地の張り合いだ。


 ──と思われた。

 邪魔者が現れるまでは。


「ブゥゥゥゥッ」


 死んだはずのデブ牛鬼王が生きていて、さらに牛にあるまじき魔法を放ったのだ。

 それもシャモーマンを巻き込む形の範囲の拾い炎撃魔法を。


「──クソッ」


 ペンギン事変の再来を警戒して、真っ先にデブ牛鬼王の消滅を確認したのに。

 どこに隠れていやがったんだ?


 ──〈星砕〉


 俺の奥の手。

 一日に一回しか使えず、強化前の残りHPの九割を使ってSTRに乗せる固有スキルだ。

 俺の場合は【3285】を、【STR:607】に乗せることができる。


 その超級の化物膂力で正面の空間を殴りつけた。

 それも最速を意識して。


「──ブッ」


 衝撃波が炎撃を割り、デブ牛鬼王の顔面を破壊した。

 一瞬デブ牛鬼王が浮いた気がするほどの威力だった。


「ケッ!?」


「邪魔が入った。決着は預けよう」


『我も賛成だ』


 賛成しても鳥に聞こえないじゃん。

 と思っていたのだが、謁見の間に黒い裂け目が出現し、そこから懐かしき鬼神様が降臨なされた。


「ふむ。久しいな」


「お久しぶりでございます」


「やめよ。気持ち悪い」


「よく来れたね」


「巫山戯た名前で呼ばれているこの場所は、塔と繋がっている数少ない場所の一つだからな。魔力の供給も豊富ゆえ、階層の数に見合わぬ強さであろう?」


「マジか」


 だから攻略されてないのか。

 たしかに、デブ牛鬼王とかは大福の魔法でかなりのダメージが入っていたから一蹴できたけど、モフモフダンジョンのメイン客層であるF級覚醒者が攻略できる未来が見えない。


「ここなら行き来は苦労しないし、目印がついた者の様子を観察することなんか造作もない」


 あの幻聴は幻聴じゃなかったのか。


「で、本題だ。我が国に来ないか?」


「ケェ!?」


「あれ? 鬼系じゃなかった?」


「鬼系に進化する見込みがあるからだ。獣寄りの鬼もいるが、そちらはどこぞの鈍間みたいな戦いになるぞ」


「あぁーー。身体能力でゴリ押し的な?」


「うむ。我が正しい道を示してやる」


「──ケェッ」


 カンフーシャモーマンは少し考えた後、鬼神に頭を下げた。


「うむ。期待している」


 こうして戦いは終わるのだった。



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