023 遊戯します
ゴミ箱に利用している落とし穴の罠を利用して、大きなウォータースライダーを製作した。
開閉する天板があるのは一層だけという点を活かし、螺旋型の滑り台を穴の底まで届くように設置した。
他人の迷惑にならないように中央部はゴミ箱としての機能を持ち、途中で途切れるなんてことがないように測量もした。
まぁ中央に立って、長い石棒で深さを測っただけだけど。
「出番ですよ。おデブさん」
「はっ?」
ウォータースライダーの要である水を供給してもらうために、彼だけ〈窃取〉も〈吸血〉も後回しにしていた。
さっさと貯水槽に水を溜めてくれ。
「あの貯水槽に水を溜めてくれるかな?」
「はっ? 嫌だけど?」
「そう? じゃあ造りの甘い滑り台で、自分のケツを使ってもみじおろしを作りたいならどうぞ」
「す、滑らないならっ、そのまま上がってきてやるっ」
「全員数珠繋ぎで滑るのに? 手足が使えない人もいる中、その弛んだ体で登って来れると?」
「ら、楽勝っ」
「でしたら、あと一歩で登り切るという瞬間に立ち会い、滑り台を目前で崩壊させて差し上げましょう。それもまた試練です」
「──殺すっ」
「おぉーー、怖い怖い」
戦端を開いたデブは状況把握能力が劣るらしく、チャラ男やチビに何度も説明や説得を受けていた。
まだまだ時間がかかりそうだから、別の工作をすることにした。
彼らがラノベのように試練を突破しチートを持って帰還するというのは、俺にとって最悪のシナリオである。
でも初期の俺より弱いステータスで、攻略者不在のダンジョン最下層なら帰還の可能性はかなり低いだろう。
さらに手を加え、帰還できない可能性を高めようと思う。
まずは石材を鎖状に加工していく。
足りないロープを補うためというのもあるが、黄魔法の習熟も兼ねている。
「──やるよ」
「頑張ってください」
彼の側に近づいたり拘束を解いて逃走を許したりと、隙を見せるようなことはしない。
比較的持ちやすそうな女性の腕を掴んで全員をまとめて貯水槽の近くに引きずって運び、位置を変えてデブが水を溜めやすいようにした。
「どうぞ」
「クソっ」
全員から分け与えられたMP回復薬を飲んだデブは、唯一残っている左手を体を捻るように貯水槽に向けて放水を始めた。
なお、各々痛みで叫び声をあげているが、全て聞き流している。
「なぁ。まだ間に合う。考え直さないか?」
狂戦士くんが生存を賭けた交渉を始めようとしていた。
「では、どのような内容で誰に依頼されたかを正直に話してくれれば考え直します」
「──本当かっ!?」
「えぇ」
「駄目よっ。あなたもプロでしょっ?!」
「生きていたら、だろっ!?」
「まだ生きているわよっ」
「あのクソ滑り台の先の情報は皆無だぞっ? 満身創痍で装備もない状態でどう生き残るつもりだっ!? それこそプロなら分かるだろっ?!」
会心の出来だと思っている遊具を、クソと言うのは失礼ではないかな?
「それでも超えてはならない一線というものはあるわっ」
「じゃあお前一人で死ねっ」
「私が死ぬときはあなたも一緒よ。この拘束状態を見て分からないの?」
彼らの痴話喧嘩を見ている間にデブは限界を迎えた。
つまり、プール開きの始まりだ。
当然チューチューは済ましてある。
それと話は変わるが、兎の検証は少し間違っていたようだ。
彼らからスキルを奪った後も、指定すれば〈吸血〉でSPを吸収できた。兎のSPに関しては、たまたま残っていたから吸収できたのであって、スキルも奪えていたのかもしれない。
まぁ使えるかどうかは別として。
閑話休題。
俺の糧になってくれた彼らに、御礼にアトラクションを楽しんでもらおう。
「戰場武士さん、那須与美さん、狩野太狼さん、一色清麿さん、白井巨大さん、黒井宇左さん」
「──嘘だぁぁっぁぁぁっ」
チビよ、君だけは何が起きているか理解できるだろう。
なんてったって君のスキルの発動手順だからね。
「皆様の健康をお祈りしています。どうかお元気で。南無南無」
送辞を贈ったあと合掌。
これでスキル条件は達成である。
死亡したことも分かる優れモノスキルだ。
「さて、死が怖くないプロ意識の塊である那須さんが先頭で良いかな? ちなみに職業は暗殺者で良いのかな?」
暇つぶしで作った簡易版ボブスレーに乗せながら質問する。
簡易型なのは、足が破壊されているせいで曲げると痛そうだなって思ったからだ。ゆえに、前面と底面しかない。
「──ふざけないでっ」
「俺を襲撃して殺そうとした集団の一人で、同様の行動をするプロって暗殺者以外にどのような職業があるのですか?」
「──それはっ」
「わかってます。自衛隊ですよね?」
「えっ」
「だって十月理事の一派でしょ? 動かせる人員で戦闘に慣れているとなれば自衛隊だけでしょ? お疲れ様でした」
次は痴話喧嘩の相手である狂戦士戰場を、三番目は狩人太狼くん。
多分この三人は元自衛隊だろう。
身分証などは紋章収納に入っているから確認できないが、似たような装備をしているから間違いないはず。
太狼の次はチャラ呪術師。それからチビ修行僧で、最後にデブ魔術師だ。
おデブさんにはストーンチェーンを取り付けた、ストーンアーマーを装着してあげ、全裸を回避させた。水を溜めたご褒美だ。
ストーンチェーンの反対側は滑車風の固定具に繋がっており、落下位置から大きく動けないようになっている。
滑り台も底に到着した後に撤去する予定だから、逃げも隠れもできない状態でモンスターに包囲された場合、どう乗り越えるのか手本を見せて欲しい限りだ。
「ん? 何をモゾモゾしてんの?」
ボブスレーに乗っている彼らは、足の怪我のせいで踏ん張れず、そこにデブが加わった結果少しずつ前に進んでいた。
先頭は女性、すぐ後ろに密着した男性。
何が起きているかなど言わなくても分かるだろう。
「じゃあ行くよーー」
「た、助けて……」
プロ云々と吐かしていた那須が、出発直前で初めて助命を懇願してきた。
結局のところ、俺を舐めていたのだ。
本気じゃない。
脅しているだけ。
最後は良心の呵責から止めるだろうと。
「残念。時間切れ」
「私たちが何をっ!?」
「襲撃しただろ? 因果応報、自業自得、身から出た錆、エトセトラ。それに──まぁいい。話はおしまいです」
貯水槽の栓を抜き、ボブスレーを固定していた固定具を破壊した。
「レッツ! ストーン・ランニングッ!」
「「「「「「うわぁぁぁぁぁーーーーっ」」」」」」
ゴミ箱に粗大ゴミをポイできて清々しい気持ちになった。
『たのしそう』
「今度やろうね」
『うん』
可愛い感想に思わず笑みがこぼれる。
決してサイコパスだからではない。
さて、彼らが試練に出発し一〇分が経過した。
そろそろ滑り台を破壊しよう。
でも普通に壊したのでは面白くないから、少しずつ回収して長い長い梯子を作ろうではないか。
俺が次回以降に使っても良いし、満身創痍の彼らが協力して上がって来るかもしれないし。
まぁモンスターに利用されないよう、穴には格子状の蓋を設けさせてもらうけどね。
◆ ◆ ◆
「戦場くん、君が派遣したスカウトから連絡はあったかな?」
「い、いえ……」
「いささか時間がかかり過ぎでは?」
「おそらく……失敗したかと……」
「君の話では、Lv1の雑魚だったはず。どこに失敗する要因があるのかね?」
A級とB級のみで構成された人員を派遣しているのに、スライム程度の強さしかない人物に勝てないのかと、宗真への交渉を担当していた戰場は詰められていた。
彼は現場に派遣された【戦場武士】の弟で、兄が不祥事を起こす度に揉み消していた。代わりに戦力が必要なときは一番に頼るという程度には良好な関係を続けていた。
だから、連絡がないということは戦場雅士にとっても信じたくない出来事であった。
「あのダンジョンは二〇階層以下であるのに、未だに攻略されていない未知のダンジョンです。不慮の事態が発生したことも考えられるはずです」
「そうだと良いな」
ちなみに、会話している相手は十月理事ではない。
彼とは派閥が違うのだ。
戦場雅士を一方的に責めているのは、十月理事と敵対している派閥の急先鋒である。
個人的な恨みも混じっていることもあり、十月理事を出し抜くことに執念を燃やしていた。それが失敗したと言われれば、期待していただけに怒りも増すことだろう。
結局事実確認をし、その上で名誉挽回をしろと言われて退席を許された。
戦場雅士は兄の生存確認を行うため、モフモフダンジョンに急いで向かった。
兄は盾役も担えるようにと、STRとVITに多くポイントを割り振っていた。瀕死で連絡できずとも、きっと生きているはずだと思い協会へと急いだ。
「あっ。戰場さん」
「あ、兄はっ!?」
「残念ながら……」
「そんなっ! 何がっ! いったい何があったのですかっ!?」
「詳しくは分からないのですが、遺体を回収してくれた方によると情事に耽っていたとか……」
「──馬鹿なっ!」
「落ち着いてください。気持ちは理解できますが、全員裸だということもございますし……何よりお兄様の陰部から体液も検出されていますので……」
「そ、そんな……」
戦場雅士はとても信じることは出来なかった。
誰かにはめられたのだと。
きっとそうに違いないと。
「──お疲れ様でした」
「振込の連絡をお願いしますね」
心内を絶望に染め上げ協会の床に膝をついて打ちひしがれていたとき、自分とは真逆の弾んだ声が聞こえてきた。
思わず顔を上げた戦場雅士は全てを悟った。
こいつだ。
こいつが自分たち兄弟をはめたのだと。
「おや。この前の職員さんじゃないですか」
「こちらは被害者の遺族です」
事情の聞き取りをしていた女性職員が戦場のことを簡単に紹介する。
「あぁーー。お悔やみ申し上げます」
「…………」
白々しい言葉に返す言葉などない。
怨敵は返事をしない私を見て埒が明かないと感じたようで、肩を竦めるとドアに向かい始めた。
その際、私の横を通り過ぎて一言──。
「──地獄で待ってるってよ」
つまり、兄の最期を知っているということだ。
「許さんっ」
──殺してやる。絶対に。
そう心に誓った。
◆ ◆ ◆
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