006 約束します

 俺が破壊した石の遥か後方に神社の拝殿のようなものが建っており、そこが目的地らしい。

 出来ることなら油圧ショベルに乗って進みたかったが、煩いという我儘を聞く形で徒歩で向かうことに。


「報酬を受け取るために歩いているんだよね?」


「そうだが?」


「じゃあ、この足の踏み場もない大量の死体は?」


「欲しいのか?」


 そんな馬鹿なっ!

 みたいな顔で見られても困る。

 俺には縁のないことだったが、覚醒者の多くは討伐したモンスターの死体を換金して大金を稼いでいた。

 信用度の問題から俺の手元に残らないかもしれないけど、それならばいっそのこと消えてしまえば良いと思うが、後ろ髪を引かれて進めずにいる。

 

 歩きやすくもなるしな。

 死体のせいで地面を探しつつ、ぴょんぴょんと跳ねて進んでいるから歩きづらくて仕方がない。


「もったいないじゃん」


「はぁ……」


 モンスターの素材は、骨、肉、皮などの地球上の生物と同様の用途になることが一般的だ。

 唯一の違いは、心臓などにある魔核。

 石油や原子力に変わる新時代の発電で欠かせない素材だったり、モンスターを討伐する上で必要不可欠な武器を作るための素材になったりと、用途は多岐にわたる。


 そしてダンジョンブレイクにおいては、魔核が【ジェム】、【オーラ結晶】、【エレム結晶】の三つに変化することが分かっている。

 これらは、本来なら宝箱で獲得できる希少なアイテムだ。


 まずは【ジェム】。

 簡単に言うと、AP獲得用アイテム。

 ステータスの能力値を上昇させるAPをレベルアップ以外で上昇させられるということで、覚醒者垂涎の品となっている。

 当然、市場には滅多に出回らない。


 続いて【オーラ結晶】。

 単純にHPを増やすだけのアイテム。

 ところが、掲示板とかには副次的な効果があり、それが目的で世界中の上流階級が探し求めているとか。

 その効果とは、みんな大好き不老不死。

 覚醒者には「体質改善で新スキル獲得かも?」などと言われている。


 最後は【エレム結晶】。

 AP、HPと続けばMPしかないだろう。

 もちろん、ただの増加だけではない。

 こちらは不確定な情報ではなく、意外と有名な情報だ。


 それは、魔法が使えるようになる。

 正確には、魔法を使うための準備が整う。


 仮に職業が魔法使いだとしよう。

 スキルに【赤魔法】があるとする。

 使用可能な魔法は、炎と光系統のみ。


 戦術の幅を広げようと、アイテムを使ったりSPを使ったり、別の魔法を覚えようとしても確実に不可能。

 何故なら、他の属性は解放されていないから。

 自力での解放例は今のところ一切ない。


 そこで【エレム結晶】の出番だ。


 MPを増やしてくれるだけではなく、属性を解放してくれたり属性を強化してくれたりと、特に魔法系の覚醒者には垂涎の品となっている。


 どれもレベルを上げられない俺にとって最高なアイテムだし、有効期限があるから俺以外の使用となると、現場に来た職員が漁夫の利で使用することになる。

 俺が命を賭けて得たものを、俺が使わずに片付けに来ただけの者たちが使うなんて業腹だ。


「ふーむ……。報酬を得た後なら手伝ってやる」


「解体するだけでも数日はかかるよ?」


「お前と一緒にするな」


「俺じゃなくて、世間一般的な時間だよ」


「非力な人間と一緒にするな」


「……強い人間もいるよ?」


「三〇階まで到達している人間がいるのか?」


「三階かな……?」


「ふっ」


 くそっ、鼻で笑われた。


「実力を誇るなら、最低限三〇階に来てからにするんだな。現状の人間は、どちらが先に歩き始めたかを自慢する赤子のようだぞ?」


「別の人がそのうちに行くでしょ」


「そこで自分が一番最初に到達すると言わないところが、弱者と言っているんだがなぁ」


「クソみたいな職業で上を目指すことの方が滑稽でしょ」


「はぁ……。その職業の価値に気づかぬとは」


「ステータスが成長しない職業なんか無意味じゃん。未覚醒者と変わらないよ?」


「我が弱者に助けられたと思われるのは業腹だから、特別に教えてやる」


 何やらお怒りのご様子。

 イライラしているのはこっちなんだけど?


「各国の金色ダンジョンの隠し条件は、各国で違うが国内では統一されている。今後お前が金色ダンジョンに遭遇した場合、同様の手順を踏めば攻略できるし達成できる」


「特殊ダンジョンへの挑戦は、階級によって制限されているのよ。今回が特別なの」


「つまりブレイクに居合わせれば、その許可というものは不要であろう?」


 うわぁ、犯罪者的思考。


「この国の隠し条件は、ソロ攻略であることとLv一であることの二つだ」


「んっ?」


「ソロのLv一が攻略できるわけないというのは一旦横に置いておくとして、注目するのは一度でもレベルを上げてしまえば条件の達成は不可能という点。スライムを一〇匹も倒せば容易に上がることをせず、金色ダンジョンに挑むというのは『死ね』と言っているようなもの」


 こいつは自分の発言が矛盾していることに気づいているのだろうか?

 俺にはブレイクに参加しろと言い、反対に死ねと言っているようなものと、同情しているかのような発言をする。


「つまり、この国ではお前以外達成することはできないし、たとえ一度成功したとしても二度はない」


「だから人類初って言ったのか」


「うむ。以降も現れる可能性は低いだろう」


 でも今回は条件を達成している気がしないが、それは俺の気の所為なのか?


「今回はソロじゃない気がするけど?」


「我のことを言っているのか?」


「うむ」


 真似したら、めっちゃ睨まれた。

 目つきが怖い。


「我はお前の仲間ではない。ソロであることは揺らがぬ」


「ふーん」


 意外に曖昧な設定なのか。

 それとも今回の状況が特殊すぎて、ルールをすり抜けただけなのか。


 うん、後者の気がする。


「職業の特性は分かったけど、根本的な能力向上問題は残ってるよね?」


「ブレイクに首を突っ込みまくればいいだろ。攻略特典のPはもらえるぞ」


「それ、犯罪者」


「バレずにやれば良い」


「モンスターと一緒にするな」


「誰がモンスターだ」


「お前」


「はぁ……非力なだけでなく、阿呆とはな。苦労するな」


 アカサギに引っかかった間抜けに心配されるとは。

 また騙されないと良いな。

 まぁ武士の情けで声に出しはしないでおく。

 決して怖いからではない。


「──時に、我には妻がいる」


「だから?」


「今回のことが妻の耳に入ることになったら、真っ先にお前を殺すからな」


「浮気は良くないよ?」


「我は無実だ」


「みんなそう言うんだよ?」


「我は無実。そうであろう?」


 野太刀の鋒を顔面に向けて発言を強要するとは──。


「──無実です」


「今後何があっても、そのように言い続けるのだぞ?」


「もちろんですっ」


「うむ。ならば良し」


 今ほど非力な自分を呪ったことはない。

 悔しいっ。



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