パズルゲーム未経験のオレは、地球代表として宇宙人と戦うらしい。~三年後に『ぽよぽよ星人』が攻めてくる!~

みらいやまさると最強の生活。

第1話 ぽよぽよ星人がやってくる!

 歓声。


 「さあ、いよいよです!」


 スタジアムは、熱気に包まれている。


 「ついに今日、世界最強のぽよぽよプレイヤーが決まります!」


 世界的パズルゲーム『ぽよぽよ』は、人々を熱狂の渦へと巻き込んだ。同じ色の『ぽよ』を集めて消すだけのシンプルなゲームは、日本だけでなく、世界中のアスリートを夢中にさせた。


 そして、この舞台こそが、まさしく頂点。数々のトーナメントを勝ち上がり、世界最強の座を争うプレイヤーは、──単なる偶然か、はたまた必然か──両方とも日本プレイヤーだった。


 「プレイヤー1を紹介します。『ノノケン』こと──野ノ村ののむらケンゴ!」


 プシュー。白煙の中から、少し恰幅のいい男が姿を現す。


 「ノノケンさん、ずばり意気込みを聞かせてください」

 「まあ、ここまで来たらやるしかないですね」


 これから世界一の称号を奪い合うとは思えないほど穏やかな口調で、男はそう答えた。


 「ありがとうございます。続いてプレイヤー2──」


 プシュー。反対側から、今度は小柄な男がゆっくりと歩きだす。


 「ぽよらー界の神童と言えば彼、『タッキー』こと──瀧原たきはらユウ!」


 タッキー、とファンが絶叫した。この試合を、この対戦カードを、どれほど待ちわびたことか。ぽよぽよ先進国である日本が生みだした、二人の天才。その激突が、今から始まるのだ。


 「タッキーさん、本日の調子はいかがでしょうか」

 「頑張ります」


 彼はシンプルに、そして爽やかに答えた。多くは語らない。


 「ありがとうございます。さあ、いよいよ──いよいよです!」


 司会も、べらぼうに興奮している。世界中継で映し出される、ラスベガスのeスポーツ・スタジアム。会場内の観客はもちろん、日本中の、いや世界中の『ぽよらー』に見守られて──


 「──ぽよぽよバトル、スタート!」


 『聖戦』の火蓋が切って落とされた。




 ◆




 司会の男は泣いている。


 「いや、本当に、本当に、どちらが勝ってもおかしくない、そんな試合でした」


 50対47──約1時間半の戦いを制したのは、『ノノケン』だった。瀧原たきはらユウが魅せた、正確無比な攻め、速度、そして緩急。それらはまるで、水流で生みだされた芸術のようだった。だがしかし、それでも野ノ村ののむらの圧倒的な安定感と、経験に裏打ちされた対応力──その堅牢な城壁を、崩し切ることはできなかった。


 「次やったら負けると思います」


 野ノ村ののむらは、そう言い、はにかんだ。


 「会場の皆さん、地球最強の二人に、もう一度、大きな拍手を!」


 まるで、大粒の雨が急に降り出したかのように、建物全体が拍手の音に包まれた。スタジアムが揺れ、全員が心地よい一体感の中にいた。いつまでも続く、轟音と振動が『地球最強の二人』を讃えていた。


 「・・・・あれ?」


 何かがおかしい。地響きは止まず、重低音は収まらない。そう、巨大な『何か』が近付いてきているような切迫感があり、観客はどよめいた。事実、近付いてきていたのだ。アダムスキー型、ハマキ型──


 ──未確認飛行物体、いわゆるUFOが!


 「何ということでしょう!」


 スタジアム内に設置されていたスクリーンが、会場の外の様子を映し出す。そこには確かに、重厚感のある金属製の物体が浮遊していた。司会も思わずマイクを掴み、不可解な状況を説明しようとする。


 「これは一体──」

 「地球の皆サん、聞こえマすか」


 一瞬、スクリーンの映像が乱れた。そして、すぐ別の映像へと切り替わる。


 「!?」


 灰色の管が大量につながれた物体が、なんとなく人間のようなシルエットをしている。そして、顔と思われる位置から、謎の蒸気が出ているように見える。そして、男性と女性をバラバラに混ぜたような音声が、スタジアム内に響き渡る。そんな異様な光景が、今まさに、世界中継によって全世界へ放送されている。


 「地球の皆サん、コんにチは。お待チくだサい、今、『チューにんグ』しマす──」


 会場内は混沌としていた。パニックを起こし、逃げ惑う人達もいれば、何かイベントの告知ではないか、と期待している人達もいた。ものの数秒で『チューにんグ』は終わり、『それ』はふたたび話し始めた。


 「あらためて、地球の皆さん、こんにちは。この惑星の『ぽよぽよ』対戦、実にハイレベルでした。惑星最強は『日本』と呼ばれる国、なので『日本語』という言語をお借りしました。ご了承ください」


 確かにそれは、アナウンサーのように流暢な、聞き取りやすい日本語だった。


 「突然のことで驚いたかもしれませんが、わたし達は、地球から遠い場所、遥か彼方、別の惑星から来ました。あなた達にも理解できる言葉で説明するなら、ずばり『宇宙人』と言えば伝わるでしょうか」


 親しみやすい言葉遣いが、一方的で理解不能な文章をカモフラージュする。


 「単刀直入に言えば、わたし達は侵略者です。ただし、地球にも戦争のルールがあるように、宇宙にも戦争のルールがあります。ですから、あなた達がたくさんの尊い命を失う必要はありません。危ないボタンを押す必要もありません。そういう時代は終わったのです。少なくとも、わたし達の生きる宇宙では」


 日本では、とあるテレビ局を除き、ほぼ全ての局が、この様子を速報生中継していた。


 「なんだこれ」

 「これ、ぽよぽよの世界大会だよね?」

 「宇宙人?」

 「マジ?」

 「流石にネタだろ」

 「アニメ潰れたんだけど」


 自称『宇宙人』は続ける。


 「戦争のルールはシンプルです。お互いの惑星に共通する文化があれば、惑星代表を選出し、その優劣を競う。そして、今日この場所で『地球最強』が生まれたそうですね。つまりですね、早い話が──」


 プシュー。謎の煙が、マスクの隙間からふき出した。


 「──わたし達は、『ぽよぽよ星人』です」 

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