#8
四時限目の終わりを告げるチャイムが鳴り、教室がざわめきだす。お昼休みが始まると、私はちらりと隣の席の夏澄に目をやった。夏澄は机の上で軽く伸びをしていて、ふと目が合う。私は意を決して作戦を開始する。
「夏澄、今日は内海とご飯食べてきたら?」
意識して少しだけはにかんだような笑顔を浮かべて言った。
「たまには二人きりもいいんじゃない?」
「えっ……そうかな? でも、彩奈は?」
夏澄は一瞬戸惑い、私のことを気にするように訊ねる。普段はなるべく私が夏澄とご飯を食べようとするからね、仕方ないか。でも、内海の悪い噂を集めるためには、夏澄を遠ざける必要がある。
「私なら大丈夫。他の子のグループに混ぜてもらうから」
私は断腸の思いで、さりとてそれを察知されないよう夏澄を見送って、教室の端にいる別グループへと歩き出す。
狙いをつけたのは、サッカー部に彼氏がいるという女子がリーダーをしているグループ。私がそばまで来ると、彼女たちも気づいて軽く手を振ってくれた。
「お昼、一緒にしてもいい?」
にこやかに声をかけると陽キャの彼女たちはウェルカムな態度を示した。
「もちろん! こっち座って、彩奈ちゃん!」
素直にお礼を言い、皆に合わせて席に着く。手際よくお弁当を広げながら、彼女たちからどうやって内海の情報を引き出そうか考える。
「あ、そうだ。彩奈ちゃんって内海の彼女と仲いいじゃん?」
考えが顔に出てしまったかと焦るほど、ちょうどよくリーダーの子が夏澄の話題を切り出した。表情をなんとかキープしながら頷く。夏澄の話なのか内海の話なのか、どっちだろうと思ったその時だった。
「あ、本人じゃん」
「え?」
別の子が本人じゃんって言うから何事かと思い振り返ると、そこにはお弁当袋を持ったままの夏澄がいた。
「大貴、シュート練習に行っちゃったみたいで……もう教室にいなかったや。ちゃんとご飯食べてるのかな……」
少しだけ心配そうな夏澄の顔を見て、私は逡巡する。このまま夏澄をグループに合流させるか、私が抜けて二人で食べるか。グループのリーダーが何を言おうとしているのか分からない以上、聞いても大丈夫な話か分からない。
私は咄嗟に目の前のグループに向けて両手を合わせた。
「ごめんね、皆。今日は夏澄と一緒に食べるね」
「いいよいいよ、また今度一緒に食べよう!」
グループに軽く会釈をして席を立つと、夏澄のもとに戻った。
「行こっか、夏澄」
私がにっこりと笑うと、夏澄も小さくうなずいて笑顔を返した。いつもの、自分たちの席に戻ってお弁当を広げなおす。
「ごめんね、せっかく気を利かせてくれたのに……」
「全然。私も夏澄と一緒のほうが嬉しいし」
混じりけのない本心で答えると、二人の間に心地よい静けさが流れるのを感じた。
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