#6
翌朝、スマホのアラームで目を覚ます。昨夜、夏澄に送ったカレーの写真に美味しそうとスタンプで返信があった。それから、
『大貴と少し話せた。今は部活に集中したいみたい』
というメッセージもあった。部活に集中したい、か。……だったら夏澄と別れて勝手に集中してればいいのに。夏澄に、別れた方がいいって絶対伝えよう。
ベッドから出てカーテンを開ける。梅雨明け間もない空は晴れて、今日も気温が上がりそうだ。手早く着替えを済ませて洗面所に向かい、身だしなみを整える。髪留めで前髪をおさえたら、まずは洗顔、それから化粧水、そしてフェイスパウダーの順に仕上げていく。
ブラシに少しだけパウダーをつけて小鼻みたいなテカりがちな部分だけにはたく。……こうした日々のスキンケアとか学校にバレない程度の化粧を教えてくれるのは全部夏澄だ。夏澄が、私に似合うメイクを考えてくれて、休みの日にきちんとメイクして会うと、喜んでくれる。褒めてもくれる。夏澄のために、私はかわいくいられるんだ。
「前髪も、これでよしっと」
髪留めを夏澄とお揃いで買ったものに変えて、分け目も整える。三面鏡で寝ぐせがないことも確認して、ようやく洗面所を出る。
リビングにはトーストの香ばしい匂いと温まったカレーの香りが広がっていた。
「おはよう、彩奈。トーストは一枚でいい?」
「おはよう。一枚でいいよ」
カレーを火にかけながら、母がトースターに食パンをセットする。テーブルでは弟がもう食べ始めていた。
「おはようお姉ちゃん。僕は二枚食べるけどね」
「じゃあ父さんも二枚もらおうかな」
ポストから新聞を取ってきた父がそう言うと、
「もう、朝から一斤なくなっちゃうじゃなーい」
と母が笑っている。
「そうだ彩奈。あのこ達にお水あげて」
母の言うあのこ達とは、リビングの窓辺に置かれた観葉植物たちのことだ。母のお気に入りらしく、お水をあげる時は一晩カルキ抜きしたものを霧吹きであげている。水やりを終えた私はテレビのリモコンを持って電源を点けた。
「あ、また特集してる」
昨年買い替えた65インチのテレビには、あのテーマパークに最近オープンしたホテルを特集した映像が流れている。ホテル前の噴水には私も好きな人魚のキャラクターの石像があるのだ。石像といっても天然石ではなく、なんだかを加工したものらしいがそのあたりはもう忘れてしまった。
「ほら、もう焼けてるわよ」
母からトーストとカレーを受け取って椅子に座る。
「あ、制服に飛ばさないよう気を付けるのよ」
「はーい。いただきます」
食べているうちにテレビは天気予報のコーナーに移っていた。
「今日も暑くなるな。気を付けるんだぞ」
新聞をいったん置いてコーヒーを飲みながら天気予報を見ていた父に言われ、ふと日焼け止めクリームが残り少ないことを思い出した。母がトーストとカレーを持って席に着いたタイミングで、伝えると今度の買い物で買うと約束してくれた。
「ごちそうさま」
「お弁当、そこにあるからね」
いったん部屋に戻って忘れ物がないかチェック、それからリビングに戻ってキッチンカウンターにあるお弁当をしまう。歯を磨いたり日焼け止めを塗ったりしている間に弟が先に出発するので、行ってらっしゃいと声をかけ、私も玄関にある姿見で髪とネクタイの最終チェック。
「じゃあ、行ってきます」
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