#6 初登校です

 お母さんによる修行が始まって二週間が経った。いよいよ、新学期である。


ボクは新品のブレザーに腕を通し、リボンタイを正す。指定カバンに持ち物は全て入れてある。後は、カバンのポケットにケータイをしまい、櫛や絆創膏をブレザーの内ポケットに入れる。


「よし! 準備万端だね」


 ちなみに、ケータイには中学時代の男子友達のアドレスがかなり入っていたので、お母さんの指示で機種変更。ついでと言ってはいけないが、スマホに新調することになった。前々から欲しかったから嬉しいのだが……家族と麻琴のアドレスしかないケータイに一抹の寂しさを感じるのは……仕方ないよね。買い換えて一週間しか経っていないので扱いなれていないのだが。


この二週間で家族への呼び方というのも改め、母さんがお母さんになった。姉ちゃんもお姉ちゃんになった、と。基本的に丁寧な言葉遣いを心がけるようにしているし、身だしなみや立ち居振る舞いも、お母さんに徹底的に教え込まれた。あとは力が弱くなってしまったので、重いフライパンを効率的に持つ方法だったり、小柄になった身体に慣れたりと、思いのほか忙しい日々を過ごした。あと、一人称だけは可愛いからと、ボクで通すこととなった。イントネーションが少し僕とは違うらしい。まぁ、ボクはボクでも構わないけど。


「それでは、行ってきます」


 玄関を開け高校生としての第一歩を踏み出そうとするのだが……。


「おはよう悠希!! 朝から美人さんなんだから!!」


 麻琴の様子が奇っ怪だ……。こんなことをする女の子じゃなかった筈だが……。


「久々ね、悠希と外で話すのは……。二週間も家で缶詰になっていたのね……。思わず缶切りを探しちゃったよ」


 麻琴に悠希と呼ばれると、つい昔みたいな振る舞いをしてしまう。


「メールで私のことをユウちゃんって呼んでって伝えてあるはずよ?」


 なので、なんか無難なあだ名を付けることで対策しようとしたのだが……当人が使おうとしないのだ。


「どんなことがあっても、悠希と同じ学校っていうのは嬉しいね。しかも、陸上部で成果を上げれば学費免除でしょ? 堪らんねぇ。あ、星鍵に進んだ同級生っていないから、悠希と違うクラスだったら嫌だなぁ」


 まあ……それは認める。ていうか話聞かないなぁ。


「にしても制服似合うなぁ。こう、チェック柄のスカートから覗く足がさぁたまらんなぁ! ちゃんとパンツ穿いてるかぁ~?」

「スカート捲らない!! やめてよ……本当に。ていうか、穿いてるからね!!」


 まさか麻琴からセクハラを受ける日々を送るなんて、考えてもいなかった……。何度も迫る魔の手をかわしながらの登校。朝からテンションの下がり幅がひどいな……折角の高校生活なのに。まあ、図らずも花の女子高生としてですが。


 ボク達の通うことになる星鍵女学園高等部は進学率こそそれほど高くはないが制服も可愛く、校舎も新しいので志願者数はそれなりに多い。……そんな学校に二人もねじ込んでしまう母のコネクションって凄い。意外と風格のある校門を抜け、テニスコート沿いの窓に貼られたクラス分けの紙を遠目から見て名前を探す………あ、


「麻琴。幸か不幸か同じクラスよ」


それはストレートに幸せって言ってよ!! なんて言っちゃう麻琴をスルーして教室へ向かう。なんとなくソワソワした雰囲気とこちらへの視線を感じた。座席表を見ながら着席する……。ボクの前には麻琴が着席した。それは奇しくも初めて麻琴と出会った時と同じだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る