→32_step!_LEO'S_ORIGIN「レオとあの日」

 太陽がこの青き空の真上に日上がる頃。──まだ未熟なる幼きガレプレ皇帝、『レオ・ラインハルト』。



 ──本名『レオ・ラインハルト・フォン=ゾネンガルテン・ガルドア=ガレプレ』は──、



 ガレプレ王城『皇帝の間本丸』上部、城の頂点に位置し、五大属性を象徴する『五大王庭』の一つである

 ────『太陽の庭ゾネンガルテン』で、太陽などをイメージした色を基調とした色鮮やかなステンドグラスから差し込む太陽のひかりを浴びて、出来た自分の影を見つめていた。



「…………母上」一人だけのくうかんで、少年は哀しく呟く。



 その末っ子の少年おうは独りであった。

 何をするにも上手くいかず、自分が帝国ガレプレ皇帝カイザーである筈なのに、その地位をいつの間にか実質的に長男であるハビエルに乗っ取られていた。


 挙句の果てには友達を失い、自身の家臣達にも呆れられ、裏切られ、見捨てられ、ハビエルには自身のとしてほぼ毎日殴られる始末。


 ハビエルは力が強く、鳩尾を殴られるのは痛い上に苦しい。



 だがレオは、。ハビエルの性格は元々、無実の人を『処刑』する様なのだ。





 では何故、あそこまで性格が捻じ曲がってしまったのか。




 ハビエルが変わってしまった理由────何故ならそれは全て、




 かつて。ハビエルの本来の性格は、現在の性格とは180度真逆な性格だったのだ。

 それは爽快で、前代皇帝『太陽姫ガルドア』の様なカリスマ性を受け継ぎつつも、兄弟の面倒見が良い優しい性格だった。


 五年前の民衆こくみんからの支持は、現在一番支持を集めている長女のロザリアを上回り、頭脳明晰で誰からも愛される、正に『模範的な皇帝おう』だった。




 ────しかし、ハビエルの全てが狂ったのは『太陽姫』が失踪したその日であった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ──のあの日は今日の様な、清々しい晴天のあさだった。



 ────当時、レオは齢三歳である。



「すやすや……──きょうはぁ……ろざりあねぇのけんじゅちゅのけいこに、はびにぃのまじゅちゅのけいこぉ…………ぇひぃぃっ……いやだぁ……こないでぇ……けん、こわいぃ」



 ガレプレ国旗にも使われている黄、橙、赤、黒をベースに統一感がありながらも、金糸が使われたカーペットなど、所々に『金色』のある派手な装飾が施されたレオの寝室。そしてまた城内。


 その豪華絢爛かつ壮麗で威圧的な雰囲気に反して普段は静かであった城内は、打って変わってその日の朝は何故か普段よりも騒がしい。



 『コンコン』というドアのノック、

 『ドタドタ』と複数人が部屋に入ってくる音、

 『シャッ』とカーテンが開かれる音。



 窓から差す朝日は幼いレオの可愛らしい顔を捉え、そして廊下からも聞こえる人々の騒がしい足音で目覚めかけたレオは複数人のメイドに丁寧に叩き起される。




「坊ちゃま……!! 起きて下さい……!! 坊ちゃま……!!」

「う、うぅぅ……な、なにぃ……? われまだねむいからね〜た〜いぃぃいっ……!!」

「緊急事態です!! こんな素晴らしい朝から本っ当に申し訳ございません!! 無理矢理にでも起こさせて貰いますっ!!」



 レオの専属ベテランメイドと新人メイドは布団の両端を持ち、バッ!とレオの下半身が濡れた恥ずかしいパジャマ姿を晒す。



「坊ちゃまったら……またですか」

「…………ふぇ?……──うわああぁっ!! や、やめて〜っ、メディ〜っ!! ご、ごめんなさ〜いっ!!」レオは慌てて隠す。



「いえ、坊ちゃまのご年齢ならば恥ずべき事ではありません。──ですがそれも、にするよう努めて下さい」

「……? どうしたのメディ……、かお……いつもよりなんかこわいよ……」



 レオの専属メイドである『メディ』は、無意識に涙を流していた。

 口端は僅かに口角を上げる様に歪み、眉は目を細める様にして下がってはいるが、朝日で反射し涙も小さな眼鏡も輝いてイマイチ表情が読み取れない。



「────っ。……い、いえ。お気に、なさらずっ……──貴方、坊ちゃまのお着替えを。──さあ坊ちゃま、両手をお上げになってお立ち下さい」



 幼児が寝るには大きすぎるベットで、レオは立ち上がり、いつもの様に両手を上げてバンザイの状態となる。


 メディと新人メイドの二人がかりでレオの服をスピード感良く脱がし、金糸が施された白い半袖半ズボンへと着替えさせる。


 他のメイド達は慌てて急ぐ様にして、部屋を掃除し、一分もかからずに部屋とレオの身だしなみは完壁な状態となった。



「さあ、『皇帝の間』へ参りましょう坊ちゃま」

「……ぇ、どこに?……あさごはんは?」

「朝食はです。さあ、私の後に着いてきて下さい」メディはレオへと手を差し伸べ、安心させる様に微笑んだ。



「う、うん!」



 ◇



「──到着しましたよ、坊ちゃま」



 この城の本丸である『皇帝の間』には、沢山の人が混沌とした状態から、今から整列する様に集合していた。

 それは主に騎士団を初めとして、前方には貴族に王族、そして勿論──他の兄弟達も集合していた。


 後方にはメイドや宮廷魔術師などの、比較的城内での階級が低い人々が並んでいる。


 レオ以外の四人全員が既に集まっていて、玉座付近を囲い、階段の上手へ並ぶ様に呆然として立ち尽くしている。



「あれ……? みんなこわいかお……、ラミロにぃにと……ソフィアねぇねもこわいかおしてる……、ロザリアねぇも、ハビにぃも……みんなこわい……」

「さあ坊ちゃま、ご兄弟様達の居る玉座の元へ。皆が待ちくたびれていますよ!」



 メディは笑った。

 部屋を出る前に見せた、レオに手を差し伸べた時の様な、安心させる笑顔。


 ──瞬間、メディのその表情からレオの目に、凄まじい程の感情が一瞬、雷の矢の如く、目を貫く様にして感じ取る。



「ひっ……うわあっ!!?」



 一瞬だけ見えた感情それの色は、『黒』であった。

 メディの複雑な感情が混じった色。それが『黒』だった。



 ──レオの苦手な色だ。



「……? どうしたのですか坊ちゃま?」

「っ……いやなんでもないよ!! ──それじゃいってきます!!メディ!!」

「っ……!、……はい。──……行ってらっしゃいませ」



 今度見えた『感情』は青かった。

 ──哀しみの色。これも同様に、レオが苦手とする色だ。けれども兄であるラミロの髪の毛先が『蒼色サファイアブルー』なので完全に嫌いという訳ではないのだが。



 そうしてレオは、勇敢に整列しかけた大きな混沌の人混みを掻き分けて進む。


 「……す、すみませぇん」という小さく幼く高い声が、ザワザワとした大人の声に際立って響く。


 大きな大人は、その声の元の存在に気付き、慌てて『皇帝の間』中央のレッドカーペットに誘導して道を作る様にしてレオを通す。


 しかし違和感。

 周りの『かんじょう』が黒い。


 気になってレオは玉座へ向かいながら周囲を見渡す。



「……ひっ、な……なに……っ? みんなわれを、そんなこわいかおでみつめて……っ、ど、どうしたのっ……!?」



 大きな大人達の、冷たく熱い黒い視線。

 何も知らない小さな子供レオに、突き刺さったり、のしかかったり。


 無垢なレオは怯えた。────『怖い』と。


 先程の混沌とした空気は嘘のよう。ピリピリとした空気となり、


 ──頭が、山から降った時の様に、痛い。




「何故…………皆を置いて、まだ未熟で幼いレオ様をお選びなったのですか……ッ、ガルドア様っ…………!!!!」




 いつもレオの遊び相手になってくれる滅多に泣かない強く優しい猫の騎士団長が、通り過ぎるレオには目もくれず、ただただ泣いている。


 そして。不安に怯えるレオは辿り着いた。

 階段の上に立つ、哀愁漂う四人の背中。

 どこか悲しく、憎しみと憐れみを感じる。



「……兄さん、レオ。来たみたい」

「っ?……──よ〜っ、レっ……レオ!」



 二人の少年と少女が振り向いた。

 『赤い杖』を持った大人びた少女は次女で姉のソフィア。髪色はレオと同じくオレンジ。髪の毛先は『紫色アメジストパープル』。末っ子のレオとの年齢差は三歳。


月の庭モナトガルテン』出身──当時六歳の第二皇女だ。



 そして、『赤い槍』を持った如何にも自由で優しそうな少年は次男で兄のラミロ。髪色はオレンジ。髪の毛先は『青色アクアマリンブルー』。末っ子のレオとの年齢差は五歳。


海原の庭ヴァッサガルテン』出身──当時八歳の第二皇帝。



 ラミロは笑顔だが、他の兄弟の表情は死んでいる。

 そして、デフォルトの表情が笑顔の様なラミロでさえ、そのぎこちない笑顔で精一杯に取り繕っている様に見える。



「……おはようラミロにぃに。…………………………どうしたの」



 レオの心臓は強く鳴る。

 バクンバクンと強く鳴る。不安に震えながら、臆病な自分の心を強く振り絞って、ラミロへと何があったのかを聞いた。



「ッッ、……よ、良かったじゃんな〜……レオ。──皇帝カイザー』だってよ〜……!」



 震えていた。

 手も、言葉も。


 それはラミロだけでは無く、他の兄弟も同様だった。



「……え? われ、が……?」

「そ、レオが『皇帝カイザー』」

「…………うそでしょ?」


 現実を受け止められない。

 けれどもレオは、どこまでも『純粋』であった。



「──や……やったーーっ!!!!」



 レオは手を上げ『純粋』に喜んだ。

 それは正しい反応だ。


 ──だが、





「「……………………………………………………」」





 二人が、遥か上から見つめていた。

 視線はレオに。冷たく激しく酷い形相で。


 ──いつも優しい二人の鮮やかな瞳は、正に深淵の如く、酷く『黒』かった。



「ぇ、…………なんで……どうしたの……、ロザリアねぇ……ハビに────」



 瞬間、恐怖に怯えるレオの腹部に衝撃が走った。

 ……痛い。──そして、遅れてレオはハビエルに蹴られたのだと気付く。



「うーわ……流石にないわー」

「──おいハビエルっ!!!!」

「…………なんだ? ああ、すまん。苛立ちを抑え切れず、ついな。 ──足が滑ってしまったわ」



 ソフィアはハビエルに引き気味に反応する。

 一方でラミロは長男であるハビエルに、珍しく声を荒らげた。



「ガっ……ッ、いた、いッ…………ぐすっ……うぅぅうっ……な、なんでぇェっ……!!こんなひどいことするのぉッ!!……うわあああァァんッ!!!!」



 腹部をハビエルに蹴られ、レッドカーペットが敷かれた階段を盛大に転げ落ちた幼き皇帝レオは、痛みに耐えられず泣き喚く。


 皆が騒然した。唖然した。この国を憂いもした。

 そして少なからず、レオを嘲笑し喜びもした者もいた。

 そして少なからず、レオを憐れみ悲しんだ人もいた。


 反応は人それぞれ。

 だが後方で、──メディは酷く、咽び泣いていた。



「……なッ、レオ様っ……!!」



 静かに泣いていた猫の騎士団長は、自身の長靴に、悶え苦しむレオが突然転がって来た事に驚き、レオの境遇と自身の甘さに酷く憤慨する。


 ──何故、レオが転がってくるまで気付かなかったのか。現在の護るべき皇帝レオなのに、何故今になってまだ、『太陽姫ガルドア』の事を想っているのか。


 自身の切り替えの甘さに、皇帝を護れなかった事実に、先程まで周囲を気にせず静かに咽び泣いていた事実に、『騎士団長として情けない』と酷く憤慨した。



 そして、肉球を握りしめる騎士団長と泣き喚き苦しみ悶えるレオに、黄金の鎧を着たロザリアが、玉座に置かれていた『手紙』を持ってレッドカーペットの階段から降りて来た。



皇帝カイザー・レオよ。これを読め。私から、そして『太陽姫ゾネ・ガルドア』からのささやかな祝福だ。──貴様は本当に、愛されている」



 ロザリアはそう言うが、声色は重く冷たい。

 ロザリアが玉座から持ってきた『手紙』を、騎士団長が代わりに受け取り、未だ泣き喚くレオへと渡した。



「…………ぇ、ははうえ…………なんで……」



 ようやくレオは泣き喚くのを止め、この状況を完全に理解した。

 その手紙に書かれていた事は、幼いレオでも解る位に単純明快な物だった。




『────真実を探しに行く。レオ、妾は期待しておる』




 それだけが書かれた『手紙』だった。

 裏を見ても何も無い。魔術的なモノも施されていない。──ただそれだけの手紙。



 レオは再度泣いた。

 今度は『痛み』にでは無く、『悲しみ』に泣いた。


 そんなレオを見て、騎士団長は手を差し伸べた。



「……行きましょう、未熟な皇帝カイザー・レオ。私は、何があっても、貴方の味方です」

「ぐすっ……う、うん……ありがとう……っ」



 騎士団長は手紙を置き、レオと騎士団と共に『皇帝の間』を退席する。

 レッドカーペットの上を歩くレオへと貴族達の注目が集まるが、小さな猫の騎士団長が、そのぷにぷにとした肉球でレオを安心させて、冷たい視線から護る。


 やがてレオはメディと合流し、『皇帝の間』の門から外へと出た。



「──あっ…………ははうえっ」



 前方に。宝石がかなり施された漆黒のフード付きのローブを着た幼女が立っていた。

 そのレオと全く同じ髪色の幼女は、レオの言葉に振り返った。


 彼女は仮面を着けていたが、レオには全てが解った。

 彼女の表情も、それが一体誰なのかすら。


 その、『全てを見通す眼ヘルシャーフツアウゲ』で。見た。



「……レオよ、必ずわらわを『殺しに来い』。わらわは既に、過去の者。──貴様は未来を歩め。過去に別れを告げ、斬り殺し、偉大な皇帝おうとなれ」



 そう言って彼女は、前へと歩いて行った。

 気付けば消えて、見えなくなっていた。



「えっ────まって!!ははうえ!!ははうえェッッ!!!!」



「……坊ちゃまっ、」

「…………ッ」


 メディと騎士団長は見えていない。

 虚空に叫ぶレオを見て、憐れみ涙を流す。


 けれどもレオは、叫びまくった。

 もう一度、『現れて欲しい』と願いながら。



 ──だが彼女は、再びレオの前へと現れる事は無かった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ────そうして、『五年』の月日が過ぎた。





「え、あれ────この声はッ……!!ははぅ──」




 混沌に満ちた、『勇者シャルド魔王シド』と呼ばれる者の『断罪の儀』の執行日。

 ロザリアは裏切り、ハビエルは激昂した後。

 レオはシドへと想いを伝えた後の事。


 ──彼女は再び現れた。


 けれども、直ぐに消えてしまった。

 今度は何も言わずに。シドとシャルドとロザリアと共に、どこかへ消えてしまった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 レオはその後、その場から逃げる様にして玉座から抜け出し、『太陽の庭ゾネンガルテン』へ逃げ込んだ。



「何処に居るのですか……っ、母上っ……!!」



 ただ独り、ただただ孤独に。と同じ、母親に似た太陽のひかりを浴びるレオ。


 全く同じ青い晴天に、涙が込み上げてくる。



太陽の庭ゾネンガルテン』とはレオが産まれた場所。

 そしてレオだけで無く、歴代の皇帝がここで産まれ、名前に『ゾネンガルテン』と名付けられる。


 レオの母親である『太陽姫ゾネ・ガルドア』の名前にも、その名が刻まれているのだ。



 現在レオは八歳。その少年は皇帝おうとしてはまだ未熟である。

 そんな臆病な少年の泣き声が、この『太陽の庭ゾネンガルテン』に響く中、もう一つの声が混じった。



「やはりここに居ましたか、レオ様」



 優しい中年男性の声。

 レオは泣くのを止め、その声に安心する様に、声の主を見た。


 その声の主は『長靴をはいた猫』だった。



「……シャー団長。ごめんなさい、我っ、勇気出したけど、余計酷くなっちゃった。姉上は何処かに行っちゃったし……!!」

「いえ、気にする必要はありません。レオ様の叫び、立派でした。ッ……その勇気っ、私はっ、いたく感動致しましたっ……!!」



 騎士団長はレオと二人だけの時、『レオ様』と呼ぶ。

 そんな騎士団長は現在、レオに剣術などを教えている。その時だけは、レオは団長を『師匠』と呼ぶ位に、慕い、慕われる関係なのだ。



「……ねぇシャー団長。……我……なんで『友達どれい』作れなかったんだろう。なんでシドは我の頼みを断ったの……? お金もいっぱい用意したのに……」

「……レオ様、『友達』というモノは、『奴隷』とは異なります。貴方は何か、勘違いしていらっしゃるのかと」

「えっ……!! そうなの……!? お金いっぱい用意してもダメなの!?」



 これに関しては、流石の団長も苦笑いだ。



「はは……、良いですかレオ様?『友達』とは信頼し合う関係の事を指します」

「……信頼し合う関係……?」



 レオは不思議そうに首を傾げる。



「はい。『奴隷』とは、高い身分からの一方的な関係に対して、『友達』とはお互いを理解し合う様な、対等な関係です」

「え……それって我とシャー団長の事じゃん!!そうでしょ!?シャー団長!!」


 レオは元気に笑った。

 先程までの哀しみは、どこか少しあるものの、半分位のその哀しみは消え去っている様だ。



「はははっ!! 私としては恐縮極まりない!! ですがレオ様、わたくしめにそう言って下さるのなら、騎士団長として、そして『人』としてっ! この上ない光栄っ!!」

「やったー!! 我は孤独ではなかった!! 何故ならいつもシャー団長が居るからっ!!」



 騎士団長は敬服する。

 庭の地面へ膝を立て、謙る。



「そういえばさ、シャー団長……メディ、元気にしてるかな」

「分かりかねますが、ただ一つ。確実に言える事がありますよ。レオ様」

「……? 確実に言える事?」



 騎士団長は変わらず膝を立てながら言った。



「はい。かつてメディ殿は、王室内の反体制側の弾圧を受け、レオ様への関係者までにその影響が出てしまった為に、止むを得ずレオ様の奉仕を辞めてしまった。……ですが、」



 騎士団長は顔を上げる。

 レオへと『獅子』の、手本となる様な曇り無き瞳を向けた。



「──メディ殿は、今でも貴方を信じている。それが、『確実に言える事』です」

「……そっか、また会いたいなぁ〜っ!!メディにさ!!」

「はい!! そうですね!!いつかまた会いに参りましょう!! ──ですが、政治についての勉強が済んでからですが」



「ひっ……」とレオの笑顔が直ぐに青ざめる。



「げっ……、だよね。でも立派な皇帝になって兄上達を絶対見返してやる!!」

「その意気です!──『皇帝カイザー・レオ』!!」


 レオは騎士団長のもふもふの茶色い頭を撫でた。



「だからさ、我が立派な皇帝おうになるまで着いてきてくれる?」

「無論! この『アントワーヌ・フォン・ライデンシャフト』皇帝おうへ生涯の忠誠を誓った身! 貴方が『皇帝カイザー』の称号に相応しい皇帝おうと成っても、私は!!貴方様へ一生をかけて共に歩む所存です!!」



 その言葉に、嘘偽りは無かった。

 レオの『皇眼ヘルシャーフツアウゲ』で、騎士団長のその言葉に、嘘偽りが無いという事を見抜いた。


 その途端、レオは嬉しくなる。

 その嬉しくなった勢いでふわふわな騎士団長の身体へと抱きつき、抱き締める。



「ありがとう〜!! シャー団長大好き〜!!」

「クッ、なんという褒美か……、光栄……ここに極まれり……!!」



 ライデンシャフト騎士団長の匂いは、独特の匂いがして、いい匂いがする。例えるならば、太陽の日が差し、風が心地よい晴天の日に干した洗濯物だろうか。そんな匂いがする。


 ──そして何よりもふもふだ。



「でも我は、やっぱり『友達』?……っていうのが欲しい!! だから母上の捜索と同時並行で探して欲しい!! ──一生のお願い!!ね?シャー団長!!」

「貴方に『一生のお願い』を頼まれるのは、コレで『五回目』です。……ですが、このライデンシャフト! 必ずや我が主の役に立って参ります!!」



 レオはまた「ありがとう!」と感謝を述べて、太陽に青く光り輝く空を見上げた。


「母上の『仮面』、……その『認識阻害』……、そのせいで、あの日の事、忘れかけてる……──けど、我は絶対に忘れない」



 レオは笑った。

 この苦境に満ちた『現在いま』を変える為に、未来へと歩き出す為に。



「──この『眼』で必ず、捉えて見せる。……だからずっと、見守っててね、────母上」


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