第1章『天空学園都市NOAH:日常編』番外編!

→4.5_step?_SPECIAL.「空白の時間。星と丘と龍と樹とXXXX。」

 死闘を終え、薄汚く暗い大通りの路地裏で、敗者のJ.Jは「喧嘩か?!」とばかりに駆けつけた大量のギャラリーに囲まれながら気絶から覚醒する。



「──ッ……あ?気絶してた?……勝てなかった?このオレが?……ッ、この俺がああああ!!?ざッけンじゃねェェェェェエッッッッ!!!!……殺す」



 STAGE1劣等生、それどころかその中でも最弱のシドと星丘龍樹訳の分からない体力バカに負けた屈辱はJ.Jにとっては最大、──否。限度を超えた屈辱だった。


 J.Jは彼の体内に含まれる血液中の鉄分を操り血を凝固させ流血を止めた。その一連の動作の過程でシドに切断された左腕を見て激昂する。



「おい!大丈夫か?!」



「シドを殺す」と決意した瞬間、ざわめく大量のギャラリーの中から、NOAHの警察的な存在である『風紀委員ガーデンガード』の腕章を付けた男子生徒が心配そうに駆けつけた。



「あ?……ンだテメェらよォ?!さっきからうっせェンだよォォォォぉ!!イラついてンのによォォォォぉ!! テメェら全員ぶっ殺す!!!!」



 J.Jは自身の右腕から視点を風紀委員ガーデンガードに移動し、彼をターゲットに設定しようと瞬間、風紀委員ガーデンガードの動きが時間が止まったかの様に遅くなる。



「ああン!!?舐めてんのか!!?…………ッ?、は?なんだコレ!?コイツどころじゃあねェ!?周りのゴミ共も!?一体何が起きてやがんだ!?!?」



 ツーテンポ遅れて、男子生徒以外のギャラリーも同様の現象が起きている事にJ.Jは気付く。

 彼の身に突然起きた、身に覚えのない能力が発現した事に驚く。



「攻撃かァッ?!……いや待て、冷静になれよJ.J。確かオレがこの 風紀委員クソ犬と目を合わした瞬間に、この意味の分かんねェ現象は発動した。──て事は、オレが……トリガー……!?」


 状況を整理しても、納得し切れないJ.J。


「クソ、やっぱ意味分かんねェわ…………──は?」



 次なるアクシデント──時間停止モノの18なビデオに参加しているかの様に、周囲の全員がほぼ時間停止に限りなく近いスローで動いている中で1人だけ、空気を読まず1倍速で動いている人間がいた。



「ッッ!!クッソ痛ってえ!!……ってあれ?痛くない!──あれ!?なんでこの人、宙に浮いてんの!? ……いや、浮いているというより『止まってる?』……ていうかなんでみんな止まってんの!?」



 ──星丘龍樹、起床。


 J.Jが確かに龍樹の背中から胸に貫いたナイフは、血濡れていたはずのナイフは、血痕ごと消えて龍樹の膝元に落ちていた。


 これらの一連の出来事は、超常が当たり前のNOAHであっても異常。

 それらは、あまりにも『オカルト』じみており、数々の修羅場を乗り越えて来たJ.Jであっても理解が追い付かない。



「ッ……テ、テメェ!?なんで生きていやがる!?」



 J.Jは当然の問い掛けをする。



『    !』

「うわッ!?なんだお前!?…………ってお前かよ詐欺師、にしても九尾の狐ケモ耳のスク水のじゃロリ……? やっぱりお前属性多すぎだろ……ってか、砂漠?……またここかよ!?」



 ここは、NOAHの中でも治安最悪と言われるAREA.XIエリア・11の大通り横の路地裏。

 ──なんてどこにもない。というよりまず、── なんてNOAHには存在しない。



『    ?』

「ん?……まあな。オレの実家が神社なのはお前も知ってんだろ? んで、因果関係は分かんねーけどガキん時からそういうの見えたりするんだよなぁ、なんか。 ……、内心怖いからやめて欲しいけど…… ま、それはそれとして、、スゥゥ──



 少し深呼吸をした後、龍樹が思っている事をいっぱいに、早口で吐き出した。



 ────上位存在が力を貸すとかラノベじゃあねぇんだし!!!! あとお前は結局一体どこの誰で、ここはWhereどこで!そのカッコウ何なんだよ!!!!」

「ッ、──おい!!テメェ!!聞いてンのか!?」



『      !』

「聞いてねぇよ!?そんなの!? それより結局お前は誰で、ここはどこなんだ!」



 龍樹はJ.Jの方向に向かって話しかけている様だったが、視線はJ.Jの目より少し下を見ていて、視線が合わない。



「っ、何言ってんだ……テメェ……っ?」



 お互い、恐らく別の話題について話していると思われるが、何故か会話が絶妙に噛み合う。

 明らかに様子がおかしい龍樹にJ.Jはイラつく一方で、単純に龍樹に対する恐怖が少しばかり彼の中で目覚め始める。



「ウザっ、ていうか、『まさか……?』と思ったけど……、やっぱりお前の姿……なんかどっかで……」

「は……なんだ、コイツ……?」



 先程、あれほどの死闘をしたというのに、もう忘れてしまったのか?それは気絶の影響なのか?J.Jは思考を巡らせる。

 そして出た彼の結論は──、



「気持ちワリィ……そうだJ.J。オレの最初の目的はコイツら全員ぶっ殺す事だろ!?──よし殺す」



 J.Jはナイフを手に持ち、自らの手で確実に息の根を止めようと、龍樹に接近する。



「……あ、あ!!お、思い出した! お前は──」

『   。』

「──死ね」



 龍樹が何かを思い出した瞬間。J.Jに首を掻き切られ、鮮血がナイフの弧の軌道を追うように飛び散った後、大量に噴き出す。

 より確実性を高める為に、倒れた龍樹に跨り何度もナイフでメッタ刺しにして、呼吸を確認した。


 だが──息は、あった。



「──ッッ!? 何なンだよ……コイツァ、……」



 龍樹の噴き出したハズの鮮血は、J.Jがパッ、と瞬きをした瞬間。まるで何事も無かったかの様に元に戻っていた。

 J.Jは恐怖に駆られ後ずさる、そして龍樹を掻き切ったハズの手に持っていたナイフを見た。



「あ、アぁ?……ハ?……何が、起きて……」

「……貸せい」


 サラリとした鮮血の赤に彩られていた筈の手のひらとナイフ────


「は──────」


 もはや『異常』という言葉では簡単に片付けられなくなってしまっている目の前で起きた『現象』にJ.Jは完全にフリーズする。

 ──だが『神』はJ.Jに恐怖を感じさせる間も与えず、龍樹は無言で立ち上がった。



「ちと、窮屈じゃが……人の子リュウジュよ、阿呆面晒して見ておけ聞いとけ、呆けておれ。これより我が始めるは、所謂いわゆる『ちゅーとりある』というヤツじゃ」

「なん、だ……テメェ?!」



 龍樹の声が、口調が、雰囲気が。明らかに変わった。



「安心せい貴様。人の子リュウジュが『殺すな』と必死に叫んでおる。残念な事に、お人好しな彼奴あやつと契約を交わした以上、我は『ブックマークお気に入り』の戯言を聞かなければならんのでのう。故に我は────



 消えた。J.Jはまた、瞬きをしてしまった。



 ────貴様を殺さん」



 それはまるで、『貴様など容易く殺せる』などと言う様な口振りで、言った。


 瞼開けば──顔先およそ数cm、突然右ストレートが現れた。それは虹の極彩色に輝きながら、J.Jを倉庫の時の様に高速で吹っ飛ばした。

 しかしおかしな事に、ベクトルの法則を無視してJ.Jは龍樹が殴った方向の逆へ吹き飛んだ。


(あれは!?倉庫の!?)とが驚く。



「右手はのおかげで我が力を失ってしまった。そして元々形を留めていたハズの力が定義を失い、暴走して固有の本質を持たないままに、確定及び限定が出来なくなってしまったことによる新たなる力。



 ──いわば『』の力じゃ」



 吹き飛んだJ.Jを背後に、『ちゅーとりある』をしている龍樹の様なナニカは、J.Jを最早居ないモノと認識してそうな程、『傲慢』に独り言を喋りながら直立していた。



(ん……? 何か良く分かんねぇけど……パルプンテみたいなモノか?)

「ほぉ、『ぱるぷんて』か……悪くない例えじゃ。…………なに?──ッ……、『どらくえ』くらい知っておるわい!『全能の唯一神』のじゃから、知ってて当然であろう!!」



 龍樹の脳内ドリームワールド漫才が繰り広げられているのを、J.Jは知るはずもなく、恐怖に駆られながらも訳の分からない『正体不明の理不尽リュウジュ』に立ち向かう。



「ふんっ、もうよい、この身体は意外にも疲れる。『技名』とやらは勝手に付けとけ。後は貴様がやれい!!────



 突如、直立していた龍樹は脱力したように膝から崩れ落ちてバタンっ、と倒れた



 ────おあッッ、?! アイツっ!!急にオレの身体乗っ取った挙句、オレの身体で好き勝手言いやがって!!傲慢すぎだろ!?」

「あァ?!今度はなんだ?!……次は、何が起きやがる!?」


 龍樹は周囲を見渡し、倒れているベルとシドを見て急いで駆け寄った。



「すまねぇ、ベルさん、あとシド。オレが何も出来なかったせいで……」



 口調が元には戻ったものの、明らかに情緒不安定で普通では無い様子だった。

 未だに正体不明でJ.Jの脅威である事には変わりは無かった。



「──おいテメェ、J.J」



 龍樹は倒れていたベルとシドをしゃがんで様子を確認した後──でJ.Jをビッ、と睨みつけた。

 J.Jは龍樹の応答には応じず、無言で恐怖に息を飲み、身構える。



「テメェ、これまでにこうやって人を殺して来たのか?」

「……は?」

「聞こえなかったかド三流!!? 『テメェはこうやって人を殺して来たのか』つってんだよ!!」


 生憎ココは酔狂な街であった。──殺人、非人道的な実験は当たり前。勝者が正義。PSYのうりょくが全て。イカれた大人達──先生に科学者。


 ──そんなNOAHの裏社会に身を置いているJ.Jにとっては至極当然の問いだった。先程までの落差に思わずJ.Jは笑いが込み上げた。



「はw、はァ? なw、何当たり前のコト言ってンだ?、w」



 彼はただ単純に、シンプルに自分が思っている事を答えた。だがしかしそれが、自称『普通の高校生』の逆鱗に触れた。



「────歯ぁ、食いしばれよ」



 龍樹は立ち上がるや否や、J.Jに向かって考えも無しに感情の赴くままに拳を固め、突っ走る。

 その感情は『怒り』。ぶっ飛ばす理由は『キレたから』。それだけで良い。王道過ぎる『』らしい単純シンプルさ。


「お?──ヒャハハハハ!! イイネ!イイネ!……──ぶっ殺す……!!」


 突っ走って来る龍樹に対して、J.Jは自身の基本的な攻撃手段である『磁力の反発による金属類の高速射出』を行う。

 ブォン……!!と静かに空気を切り裂く凶暴な音は、龍樹の恐怖心を煽った。



「──うゎぁっぶねっ!?、──ッ、やっぱ、パねぇし……怖ぇッ……!!、……でも!──もう、オレの前で、誰も『不幸』にはさせたくねぇ!!」



 その言葉の重みは、確かなモノがあった。

 少年──『星丘龍樹』は過去の後悔を思い出し、力に変える。


 力のこもった拳と、

 一歩踏み出す力。

 自身を信じ、突き進む勇気は強い。



 だがJ.Jの表情は変わらず、不敵な笑みを浮かべたまま。



「なぁw、なんでオレがSTAGE4ステージ4か、知ってるか?」

「知らねーよ!テメェの過去なんざどうでもいい!! 今テメェに必要なのは!テメェの顔面にもう一発食らわすコトだけだろ!!」



 龍樹の一瞬の油断。



「──だから、甘ェんだ。ほら足元ォ!!」

「っと、うオッ!?」


 J.Jは残った左手をビルに素早く触れた。その約3秒後、真横のビルの鉄部品がコンクリートを切り裂き、龍樹の足元に唐突に出現した。

 そして頭上に鉄塊が落ちてくる。



「パねぇッ!!そんなのアリかよ!?」



 足元に出現した鉄部品によって龍樹を転倒させ、すぐ動けない龍樹に鉄塊を落とす正真正銘の即死コンボが始動してしまった。



 圧死まで2秒前────



「無敵技始動から即死コンボなんてどんなクソキャラだよ!? ゲーセンだったら乱闘不可避だっつってんだろ!?」


 そして鉄塊が落ちる──だが龍樹は賭けに出た。それは自称『神』を名乗る幼女が言っていた事。


 一か八か。だがやらないよりかは断然良い。やらずに死ぬのは最悪だ。



「あ!!──この右手ランダムなら多分!!いや、絶対!!!」



 運ゲー。己を信じる力、ただそれだけを信じて、鉄塊を殴った。



「マジか……!! ナイスチュートリアル!!」



 拳が虹色に輝き、まるでルーレットの様に点滅した後、水色の光と共に大量の水流が鉄塊を吹っ飛ばした。右手が、──信じる力が龍樹を救ったのだ。



「あ、?ンだよそのPSYのうりょく!!?……チッ、クッソがァァッ!!!!」



 雨が振る。あの一瞬でどれ程の質量の水が放たれたのだろうか。

 ──この雨は、この決闘たたかいが終わるまで続いた。


 そしてJ.Jは攻撃の手を緩めず、『ナイフの斥力射出』『鉄塊落とし』『ビルから鉄部品を飛び出させる攻撃』が同時に次々と龍樹へ襲ってくる。

 だが、パターンは単調でゲームが得意で運動神経が良いと自負している龍樹には簡単に避けられてしまう。


 そして自身の間合いまで詰める。



「しゃぁっ!!いっくぜぇ!?歯ぁっ食いしばれよぉっ!!」

「──だから右だろ?」

「ッ、!? しまった!!」


 殴り合いはてんで素人。龍樹渾身の右ストレートが、簡単にJ.Jに掴まれる。


(クククw……カーッハッハッハッハッ!!!……っハぁー……ひ、人の子よw。じw、実に哀れよのぉ! 滑稽にも程があるというものじゃぁ……あー、良きかな良きかな)



 バカ、アホ、間抜け、そんな言葉が良く似合う。本当に単調だったのは龍樹の方だった。

 何故なら攻撃手段が利き手の右ストレートしかないから。その為、簡単に渾身の右手を取られてしまった。



「……っ、テメェ、ロリっ子、笑うんじゃねぇって、、、マジで恥ずいから!!」



 そして龍樹は再び真剣な表情に戻る。真のバトルインファイトが始まった。

 右腕を取られた龍樹は膝蹴りでJ.Jの鳩尾みぞおちに一発入れ、よろけた所に空いた左手の拳を固めて顔面へとストレート、──クリーンヒットした。



 そしておよそ2秒、J.Jの動きが止まる。



「──は、はぁ……? 砂漠、? どこだここ……?」



1じゃ貴様。龍樹との『こんと』。道化として引き続き踊れい!我を楽しませろいッ!」

「は?誰だ、テメェ──ッ、?!」



 そしてJ.Jの意識は一気に現実へと引き戻される。

 J.Jの動きが止まった事によって、右手を振りほどいて左手からのワン・ツー。



「──ハ!? またかよォ!?」

じゃ、貴様また会ったのぉ、人の子よ。『仏の顔も三度まで』……ほら『りーち』、かかっておるぞ。──気張れい!!」



 またJ.Jの動きが止まり、右手の『ランダム』により強烈な風が吹き、J.Jはまた吹っ飛ばされてビルの壁へ叩き付けられた。



「もしかして……俺の左手は、なのか?」



 J.Jの意識がまた直ぐに戻った。

 流れが完全に龍樹の方向へ傾いている。龍樹が『休む暇を与えない』という見え見えのシンプルかつ実直に強い戦法をとる為に、J.Jが寄りかかっている壁の方向へ突っ走って来る。



「畜生、させねェよッ!!」



 龍樹の背後、風を切り裂き殺す凶暴な音がした。この状況でこの凶暴な音はただ一つしかない。龍樹は直感で確信する。



「ナイフッ!?!?──ちょッ、危ねッ!!」



 J.Jの引き寄せたナイフを龍樹は寸前で避けた。避けたナイフはJ.Jへと空気を切り裂きながら飛んでいく。



「ンで避けれンだよテメェッ!?──、ヒッ!なんてなァ!」



 しかし、

 J.Jの方向。目の前から──



「?、が、ァ!!?」



 磁石の性質、『吸引力ひきよせるチカラ』────。



 避けたハズのナイフは、──龍樹の右肩を貫通した。スグそこに、吹き飛んだ自身の右腕が転がっている。

 そして龍樹は訳の分からないまま、痛みに思考停止。先程まで龍樹が圧倒的有利だった状況が、一気に龍樹が不利に動く。


「ヒッ、ヒヒッ!ヒャハハハハ!!」


 龍樹が地に這いつくばり、痛みに悶え、叫ぼうとして自身の血の池を啜る中で。顔面がボコボコに腫れたJ.Jが突然淡々とコチラに向かって歩きながら、喋り始めた。



「オレがSTAGE4ステージ4である理由。そして、オレがゴミ共をぶっ殺す理由、──感性がガキで足らねぇテメェが解らねェのも、まァ無理はねェ……」

「クッッッ、ソ!! 痛ッ、てぇ……!!」



 カオスな環境。二人J.Jと龍樹以外はスローで、三人龍樹とシドとベルが路地裏で寝ている。鉄塊と破壊されたコンクリートが大量に散乱している。

 今現在、実質2人だけの世界カオスでJ.Jは演説を続ける。



「理由は簡単。は弱ェからだ。強ェ能力者共がNOAHでは絶対だ、──生き残れる。そして弱ェオレたちは毎日、そんな強者に怯えながら生きる為に、オレたちより弱ェ弱者カス共をぶっ殺すンだ」

「ッッ!……ッソ、野郎ッ!」



 ターン継続。



「──弱者カスはどれだけ足掻いても弱者カスだ。弱者カス護りてェモンも守れねェ。だがそれでも『希望』を求めて足掻こうとするヤツが居る。──ソレがッ!!間違いなンだよッ!!」

「…………ッ、」



 突然のJ.Jの勢いに思わず呑まれてしまう龍樹。

 J.Jの目は、もう既にナニカに打ちのめされて疲れ切った目であり、流石の龍樹もナニカを察する。



「このNOAHになんて!!『希望』なんてモノは一切存在しねェッ!!全てがムダなのに!!諦めねェヤツを見るとイライラするッ!!殺したくなるッ!!」

「………………、」



 龍樹は未だ、無言のまま。

 その姿は、龍樹が転移する前の世界で、龍樹の父親の死亡宣告により立ち直れない母親と重ねてしまい、喉が強ばり痛い。



「何が『NOAH希望の船』だクソがッ!!ジジイが望んだ『地上回帰論』なんて一向に実現する気配なんてねェじゃねェか!!毎日の様に汚ねェ依頼、依頼、うるッせンだよ!!成金はバカみてェに高ェモン食いやがって気楽でイイよなァッ!!?それなのに弱者は依頼を少しでもミスると粛清だぜェッ!?それで仲間が何人も死んでった!!『希望』なんて全くありゃァしねェッ!!!!」



 哀れだ。捨てられた野良犬の様に、こんなになってまで未だ逞しく吠えられる姿は、最早立派だ。

 だが同時に──馬鹿だ。



「……そんな絶望に打ちひしがれた弱者カス共OUTCAST社会の除け者たちだ、その弱者カス共を導く真の希望がSTAGE4オレとオルガでなければならねェンだ!!────、だから殺す。テメェにゃわりぃが八つ当たりだ」



 J.Jのその目は黒く燃えていた。その炎には龍樹と同じく、後悔と情熱の『感情』が燃料として燃えていた。

 ──しかし、その炎は今にも燃え尽きそうだった。


 J.Jは地面に落ちていたナイフを手に取って龍樹の方向へ歩いていく。

 J.Jの行動原理……、大層な理由だ。だがしかし、それは──


「……ねェよ」

「あ?……ッ、テメ……ッ?!」

「──知ら、ねぇよ……!!」


 ────人を殺して良い、などという理由にはならない。


 血を啜っていた龍樹が立ち上がった。右手は近くに転がっており、血は未だ大量に出血している。



「ッ、?!……テメェに!、何が解──」

「──解るし関係ねぇよ!!ド三流ッ!!」



 路地裏にお互いの声が響く。思いが衝突ぶつかる。

 二人の外面は何もかにも違う様に見えて、二人の本質は本当は同じなのかもしれない。



「テメェが……テメェが今までに殺したヤツが弱者なら、なんで手を差し伸べてやれなかったんだよ!!?」



 それはあまりにも身勝手で、他人のストーリーなんて一切無視した傲慢で綺麗事の正論だった。



「弱者を導く?希望が無い? 違ぇだろ?!!テメェが殺したヤツらだって!!家族がいんのに!!ストーリーだってあんのに!!テメェが希望とやらを1番最初にぶっ壊してんじゃねぇか!!」

「ア、あぁッ!!?、────っ黙れ、」

「テメェが嫌ってるヤツらは自分の境遇に満足してねぇから足掻いて頑張ってんだろ!?だったらテメェも、もっと足掻きゃ良いだろ!?」

「黙れ……」



 足掻き足りない、とでも言うのか?一生懸命に足掻いて来た結果がコレと言うのに、まだ足りないと言うのか?


 傲慢も甚だしい。しかし、本当は足りなかったのかもしれない。

 イカれた大人に言われるがままに、


 ──『怠惰』であった。


 そのショックを受けたJ.Jの声は、ハイテンションな高い声が印象的だったJ.Jからは想像が出来ない程のドスの効いた低い声だった。

 そしてその声はどこか震えていた。



「黙れ黙れ、」


「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ────黙りヤガレェェッッッッ!!!!!!」



 突如、今までには比べ物にならないくらいのJ.Jの磁力にビルが崩壊して、その瓦礫や鉄骨、J.Jの周囲に散乱した鉄が大量に浮き上がった。



「黙んねぇよ!!オレがテメェにもう一遍、ストレート入れるまで黙らねぇ!!そしてテメェが泣き喚いて謝るまで黙らねぇ!!」



 少年は叫び、龍樹は右腕、J.Jは左腕を欠損したまま2人は刹那、──走り出した。


 二人は信念を強く燃やして、拳に全てを込めた。

 龍樹は今までの攻撃には比べ物にならないくらいのJ.Jの猛攻を、が龍樹を奇跡的に防ぎながら接近する。

 お互いの拳はお互いにとって、決定打フィニッシャーになり得ると直感的に感じさせられる。

 ──二人の走る足は、踏み込む度に加速する。

 ──ノーガードで、無我に醜い姿ででただ走る。

 2人だけの空間。そこは最早、『聖域』というにふさわしい空間だった。



「テメェ自体は『仕方が無く』善行だと思ってやってんのかもしれねぇが!! 結局テメェは、他人が今まで積み重ねて来たモンを、全て自分の『境遇のせい』という免罪符で台無しにしちまう、ドス黒い『悪』だ!!」



 そしてお互いの距離、およそ2mに達した時。

 ──二人は一歩を大きく踏み出し、さらに大きく腕を振りかぶった。

 その片方ずつの腕が、お互いの無防備な顔面に向けて時計回りを描くように飛ぶ。



「死ッッねやァァァァァァァァッッッッ!!!!」



 J.Jが叫ぶ。彼の表情は今までにない位に覚悟を決めた表情だった。

 しかし一方で、それは龍樹も同じだった。



「──つまりテメェは!!」



 言葉と。



「ただのッ!!」



 拳で。



「信念のねぇ『中途半端コシヌケ』なんだよぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」






「──ッッッ、ク、ソ……ッ──」



 龍樹の矛盾した傲慢な説法に、──勝負は決した。龍樹のストレートがJ.Jのストレートよりも早く、彼の顔面に衝突した。



「っ、はぁはぁ……マジ、パねぇ……」



 龍樹は乱れた息を、苦し紛れに深呼吸して、整えようとする。


「──っ、……巡り廻れめぐりめぐれよ、テメェの願望ユメを。んで、一周いっぺん廻って考え直せ……、ッ────」


 J.Jの意識が飛んで身体が倒れた時、同時に同じ様に龍樹の意識も飛び、身体が柔くなり倒れた。



 ◇



「おい貴様。『三度目』じゃぞ!起きんか、人の子」



 『仏の顔も三度まで』──そう呼ばれたJ.Jは気がつけば、砂漠の丘の真ん中に突っ立っていた。

 眼前に広がるのは空の半分は月。夜に無数の星空が広がり、もう半分は太陽。中世ルネサンス絵画の様な楽園とも言える希望に満ちた空。


  数キロ先には果てしない地平線が広がっており、NOAHの『セフィロトスエレベーター』と同じような大樹が生えている。



「──チッ、クソ、ワケわかンねェ……」



 J.Jは、先の戦いで既に燃え尽きており、何度も訪れる人の理解を超えた現象に思考を放棄した、──だがスク水を着た『神』はそれを許してくれない。



「おい!貴様っ!……き〜さ〜ま〜!!…………ッ、貴様ァッ!!!!」

「何なンだよ!!テメェ!!」



 目の前にいなかったハズなのに、意識した途端、目の前に突然自称『神』は現れた。

 姿形は九尾の狐ケモ耳和風幼女ロリ……なのだが、『スク水』を着ている。何故か『スク水』を着ている。



「ふんっ!!『神』とでも呼べい!! それにしても遅い!! もう『三度目』なのじゃぞ!?もっとはよ起きんかい!!」

「聞いてねェよ!!そんなコト!!」



 さすが不良集団陽キャ?『アウトキャスト』を纏め上げ、リーダーを務めていただけあるツッコミ具合だ。ノリが分かっている。



「……チッ、もういい……ンで、どこなんだ此処はよォ」



 訳の分からない現象の正体。恐らく龍樹リュウジュ能力チカラの源であろうこの場所をJ.Jは『神』に尋ねた。



「難しいのう、なんと言えばよいか……そうじゃ!貴様ら人の子の言葉で言えば──」





「──『楽園てんごく』じゃ」



 ◇



「──ッ!!ウグっ、ゴホッゴホッ!!……すうっ、はぁー……いやー、死んだ死んだ。はははっ!」



 依然として時の流れが遅くなっているこの空間で、再度激闘を終えて2人が気絶しているこの路地裏で、一人のが『復活』した。



「やはり『死』というのは興味無い。だが一方でワタシは何度も実験で死んではいるが、それでも『死』というモノは慣れないモノだな」



 そう言いながらは隣で気絶しているシドの頬に触れ、キスをした。

 そして深呼吸をして、硬直していた身体をバキゴキ!!と異常な音を鳴らしながらストレッチで無理矢理ほぐす。それはどうやら痛みが伴う様で、痛みによる声が盛れる。



「ふぅ…………ッ、!! 本当ならッ、っああっ!! もう少しっ、気絶している可愛いシドを堪能したかったのだがっ、致し方ないっ、現在はが所有しているはずの『怠惰の大罪因子アケーディア・アイ』が気絶しても尚、この現象が続いているのは何ともっ……、何とも不可解だが、はぁはぁ……今はこの機に、乗じるしかない!」



 彼女はシドを横目に立ち上がった。そして気絶して倒れているJ.Jへと近づき拳銃を取り出した。


「キミの要望通り大金は用意するよ。キミの手で昔の友人とも言える部下を殺させた事は済まなかった。だが、まさかキミが本当に殺るとは思わなかったんだが……」


 本当の所は『自分の身体だけでは実験の効率がかなり悪いのでマッドサイエンティストっぽく実験の被検体が欲しかった』のと『シドがいじめられている事への個人的な復讐』が彼女の本音だ。



「この様な状況、どこか既視感が……ああ!前にウォーカーと一緒に見た、スパイ映画か! 既視感の正体はそれだな! ははは!……ん?」


 …………。

 ………。

 ……。

 …。


 ──!


「……ああ、そうだったな。ワタシは『怠惰の大罪因子アケーディア・アイ』取り戻さなければならなかったんだ!死んだばかりでどうやら脳細胞が回復しきれていないらしい、今のワタシの脳がどうなっているのかとても興味深いが……時間が無さそうだ──」



 彼女は銃口をJ.Jの脳天に向けて構え、カチッと撃鉄を起した。



「とまあ……──それはキミが持っていいPSYのうりょくではない。そしてそれはシドとウォーカーのモノだ。だから一時的に保護者であるワタシに返しておくれよ」



 その言葉と共に、──彼女は引き金を引いた。

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