ランニング  ~ 動けずに死んだぼくは異世界を縦横無尽に駆け巡り、最速な最強になる ~

@nanasinonaoto

ランニング1:スタートライン

 ぼくの名前は、大地 駆だいち かける

 物心ついた時には、もう一生の病を受けていました。

 筋肉や関節が固まっていって、歩く事も動く事もだんだんと困難になっていきました。

 学校にはほとんど通えないまま、いろんな合併症も得てしまい、ほぼ完全に寝たきりな生活に。病室の窓から、外を走り回る子供達の姿をうらやましく眺めていたのを覚えています。


 名前詐欺になってしまってスマンと親には何度謝られたかわかりません。母親は顔を合わせる度に泣きすぎて、いつからか面会に来てくれなくなってしまいました。


 それでも、病院で出来るだけの治療を受けるだけでなくて、眼球やわずかな指の動きだけでインターネットにアクセスできる環境を用意してくれたのは本当に助かりました。


 そう。いわゆる転生ものラノベに期待を託すようになって、その類をむさぼるように読み続けました。妄想に過ぎなかったとしても、それしか縋るものが無かったから。


 親や医師がわずかな期待をかけて紹介してくれた新薬や治験は、残らず試しました。文字通り四六時中、痛みに苛まれる毎日でしたから。最悪の結末は、このままの日常が続くか、これまで以上の痛み苦しみに苛まれ続ける事だったから。


 だからとにかく、この痛みや苦しみから解放される事を望みました。

 健康な体を得て、ただひたすらに外を走り回りたかった。

 贅沢なユニークスキルやハーレムの類も必要ありません。

 いえ、正直言えば、そりゃあ、やっぱり、最低限異世界でやっていけるくらいの何かは欲しかったけれど、この生き地獄が続くよりはマシでした。


 どこかの異世界の神様、助けてくれませんか?


 日夜、そう祈り続けてたおかげか。

 どれかの新薬の効果か。

 とうとう、ようやく、ぼくはこの世界での臨終の時を迎えました。

 ピーーーッ、という機械音に見送られて、死にました。

 死んだ、と思います。


 体のあちこちをさいなむ痛みから解放されました。

 ただそれだけでも飛び上がりたいくらいうれしかったです。


 でも、気が付いたら、真っ暗な空間にいました。

 天国とも地獄とも違いそうです。熱くも寒くもなく、天使も悪魔もいなかったので。

 ここはどこなんだろう?と思っていると、暗闇だけの空間に、ぼんやりとした白い灯りが浮かび上がり、話しかけてきました。


「死んで喜んでるのは珍しいね」

「えっと、はい、痛くなくなったので」


 これはもしかして?!、と心が高揚するのを抑えきれませんでした。死んだ直後の面会時間とか、よくあるパターンの一つでしたから。前置きとか抜きでいきなり放り込まれるのも、よくあるパターンだったけど、こちらのが方が助かります。


「うん。君の祈りと、自分の管理してる世界の都合がちょうどいいかなって、君の元の世界の神様から譲り受けたんだ。そういう事ならどうぞって」

「えっと、転生、させてもらえるんですか?それと、都合というのは?」


 魔王と戦わせられるんだろうかと思ったら違ったみたいです。


「神様の間では共通の悩みなんだけどね。被造物にんげん達が愚か過ぎて、世界をリセットしよう造り直そうか、悩んでてね」

「えっと、だとすると、自分がどうお役に立てるのでしょうか?」

「魔王とかはいないよ。君がたくさん読んでた物語の様に剣や魔法の世界で、異種族もたくさんいるけど、これから行ってもらうのは人間達の領域。そこでまあ、何度目かわからないくらい愚かで痛ましい出来事があってね」

「はあ」

「きっかけを作ってしまった王も、悪意があったわけじゃない。平和を望んでいただけ。善意だけで物事が為せるわけじゃない事も当然分かっていたさ。それでも、ね。

 まあ、君には追々伝えていくよ。込み入った事情については」

「よ、よろしくお願いします!」

「うんうん、前向きでよろしい。君には、その悲劇に巻き込まれて、そのままだと死んでしまうだろうお姫様を助けて、そこから逃げ延びて欲しい。けてもらえるかな?」

「はいっ! でも、いつまでとか、どこまでとかは?」

「それも追々伝えていくけど、とりあえずは悲劇の舞台となってる王都から脱出するまで。最初のチェックポイントはね」

「わかりました。でも、どうやって助け出せばいいんでしょうか? 自分、何の力もない寝たきり病人でしたけど」

「心配しないでいいよ。君が望んでいたユニークスキルもあげるし、その他の特典もいくつかあげるから」

「そ、それってどういう・・・?!」

「ユニークスキル:ランニングさ」


 その神様の言葉とともに、足下に白線が引かれ、視野には、いわゆるステータス画面が表示されました。


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