応援する時③
第十一レースの発走を前にしてパドックに馬が登場する。パドックの周りには一層人が集まっている。みんなこのレースに出る馬を楽しみにしているのだろうか。
バズーカみたいなカメラで写真を撮っている人もいれば、馬の様子をずっと見つめている人もいる。
「ナマガルさん、決めましたよ。六番を軸にして二番、九番の馬連、ワイドで買います。馬体重も大きな増減はないですし、馬もテンションが上がっていません。それに二番も六番も基本的に前目でレースを進めることが多い馬です。今日の馬場傾向に合っています。九番は一番人気ですが、能力は高いので抑えておきます」
久しぶりにサスの声を聞いた気がする。よくわからん言葉を長々と言っていたが、結局、買う馬券は俺達と似ているのではないか。とうより、俺達よりも買う馬券としては多いのではないだろうか。
「いいと思いますよ。この距離では六番の方が合っていると思います。能力が高い馬が勝つのではありません。調教、
「はい師匠!」
いつの間に師弟関係になったのだろうか。言葉の意味は全くわからん。ただ、電光掲示板に映っているオッズの変化を見れば二番と六番の人気はわかる。
数字がどんどんと下がっている。九番は逆に上がっているだろうか。七番は若干下がったが、大きく変化することはなかった。やはり人気がないのだな、と察してしまう。
ピーッ、と笛が鳴った後、馬が歩くのを止め、騎手が馬に乗る。さっきまで少し暴れていたが、騎手が乗ってから落ち着いた馬もいた。馬がパドックから去っていくと、パドックの周りにいた人達もいなくなった。
「それでは私達もレースを観に行きますか。ゴール前はきっとたくさん人がいるのでターフビジョンでしっかりレースが観れるところに行きましょう」
ナマガスシップスがそう言ったので、俺達も移動する。言っていた通り、ゴール前は多くの人が集まり近寄りがたい。ターフビジョンの近くでレースを観ることになった。
さっきまでパドックにいた馬達が地下道を通ってコースに現れ、スタート地点まで移動していく。
そこから十分近く待ち、音楽が流れる。もっと大きなレースになると生演奏になるらしい。
ゲートにどんどんと馬が入っていく。実況のアナウンスも流れ、その状況を伝えてくれる。最後に一番外の馬がゲートインしたことを伝え、その数秒後、「スタートしました!」
と力強くレースが始まったことを伝えた。
「スタートはポンと一頭飛び出しました。七番ドンドンカン。続いて二番モウマケレナイ、四番ブルーダイヤモンド、六番ワルイコハイネガと続きます」
実況の通り、七番の馬が飛び出し、二番手の馬を大きく引き離し先頭に立っている。つまりは今のところ一番手というところだな。少し安心したと同時に周りから悲鳴と罵声が聞こえる。
「買ってねえよ!」
「垂れろ!垂れてくれ!」
「いらねえんだよ。今更頑張るんじゃねえ!」
人気がないということは多くの人は買っていない馬ということだ。こういう声が多くはなることは仕方ない。
「コーナーを曲がって直線、先頭は変わらずドンドンカン、続いてモウマケラレナイ、ワルイコハイネガ伸びてくる!九番ナンジャコングは厳しいか」
六番の馬が後ろからすごいスピードで伸びてくる。それと同時に歓声も大きくなる。
「差せ!差せ!」
「残せ!残せ!」
それぞれ買った馬を応援しているのだろう。それぞれのお金がかかっているのだ。必死にもなるだろう。
「先頭はワルイコハイネガとモウマケラレナイの追い比べ!ワルイコハイネガ!モウマケラレナイ!ワルコハイネガ!モウマケラレナイ!」
実況が先頭を走る馬の名前を何度も叫ぶ。ゴール前、すごいスピードで目の前を馬が駆け抜けていく。
それに目を奪われ、レース映像を移していたターフビジョンから目を離してしまい、ゴールの瞬間を見逃してしまった。だが、実況のおかげで一着馬の名前を知ることができた。
「ワルイコハイネガ、一着でゴールイン!二着はモウマケラレナイ、三着争いはドンドンカン、ブルーダイヤモンドとなります」
その瞬間、周囲からは色んな感情が交じり合う。
「よっしゃ!取った!」
「小松田―!ふざけんなー!」
「あー!一昨日の日給!全額賭けたのに!!」
一昨日の日給全額賭けた人は、今朝いた昨日の日給全額賭けた人でないことを祈る。小松田っていう人は一番人気の馬に乗っていた騎手だったかな。そりゃ一番人気の馬がいなかったらガッカリするよな。
「よっしゃ!当てましたよ!」
サスの買った馬券も当たっていたようだ。一、二着だから、ワイドも馬連も当たっているのか。みんなでおめでとうとサスに伝えた。
「掲示板に着順が出るまで結果はわかりませんが、ベアリン氏とフカジロウ氏の馬券も当たっているかもしれませんね」
ナマガルシップスは少し嬉しそうにそう言ってくる。そうは言われてもこちらは心臓がバクバクといっている。賭けた金額はたった二百円とはいえど、オッズから見ても当たったら万単位の払い戻し金があるはずだ。気が気ではない。
掲示板には一、二、五着の馬の番号が表示され、三、四着の所には写真という表示が出ている。
「写真判定っていうやつですね。見ていてもわからなかったですもんね。僕、初めて見ましたよ」
サスは少し気楽そうに話す。その言葉に少し苛立ちもあった。だが、ここでイライラしても仕方ない。結果を待つことにする。隣を見ると花林が両手を組んで祈っている。それを見て苛立ちはなくなり、また心臓がバクバクと動く音が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます