14話 応援する時

応援する時①

 五月の大型連休も終わりに近づいた土曜日、俺達四人は東京競馬場に集合した。

 花林とは途中まで別の車両に乗っていたが、あまりにも乗り換え回数が多く、結局一緒の電車に乗って行動することになった。


 駅を降りて集合場所の正門に行くと、ナマガルシップスとサスはすでにそこにいた。時刻は九時半、レースは十時過ぎから始まると聞いていたが、電車からすでに多くの人が降りていた。


 事前にネットで買っていたチケットで入場し、ナマガルシップスが先頭になり、俺達はその後に付いて行った。




 事の発端はカナンの趣味が競馬ということが明らかになったことだ。ブルームのラジオが始まって以降、今まであまり明かされていなかったカナン、しずるんのプライベートが明かされていった。

 しずるんの趣味は自炊と女性らしいものだったが、カナンの趣味が競馬と言われた時は正直驚いた。



 近年、競馬は女性でも参加しやすくなっており、競馬場にも女性専用のコーナーが用意されているくらいだ。ただ、彼女の場合は小さいころから競馬に触れて来たのだ。

 父親が競馬好きで、子役をこなしながら土日の休みは競馬場に連れて行ってもらったようだ。それもあってか、競馬歴としては十年を超えるようだ。


 最近では競馬のネット番組の出演が増えてきているようで、それもあってかカナンのファンで競馬を知らない人間は競馬を勉強し始める人が多いようだ。


 それはサスも同じで、一から勉強を始めている。ただ、どうもピンと来ないところがあったので、ナマガルシップスから

「競馬場に行って、私が教えましょうか?」

と言われたのがきっかけで今日、ここで勉強会が開かれたのだ。俺達はこの日が空いていてお誘いを受けたので、同伴させてもらった。


 五月上旬と言えど日差しも強く、気温も高い。熱中症対策にスポーツドリンクを持ってくるよう言われていたが、確かにこれは必要だな。

 今はパドックというところでレースを走る前の馬がグルグルと歩いて回っているところを見ている。ここは何をするところなんだろうか。

「パドックはレースで走る馬を見るところですね。馬の体型、状態をここで見極めてどの馬を買うのかを決めます」


 ナマガルシップスは淡々と説明する。そうは言われても馬の良い、悪いなんて素人目には全くわからない。

 一応、ナマガルシップスから勧められてネットで馬券を購入できるようにしてきたが、どれを買っていいのか全然わからない。



「ナマガルさん、どの馬がいいんですか?」

「そうですね。三番の馬が良いですかね。前走二着ですし、周りに比べて身体もできていますね。複勝ふくしょうを買っておけば外すことはないでしょう」

 少し自信がありそうに話すナマガルシップスを信用し、三番の馬の複勝を買う。

第一レースの、三番の馬の複勝を百円と。

 ナマガルシップスにやり方を確認しながらネットで馬券を購入した。


「あっ、この八番の馬の名前可愛いじゃん。この馬、買うわ。えーっと、ナマガルさん、どうやるの?」

 花林はナマガルシップスの薦めを全く聞かず、応援馬券という単勝と複勝を買う馬券を買った。複勝は基本的に三着までに来た馬を予想するもので、単勝はそのレースで一着になる馬を予想するものだっけか。

 まあ、本人が買いたいものを買うのが一番いいのだろう。サスはその会話を聞きつつ、パドックを見た結果、結局三番の馬の複勝を買うことにしたようだ。


 パドックで合図があった後、騎手が馬に乗り、パドックから姿を消した後、俺達はコースの方に移動した。この後はコースで走る馬が入場するらしい。ゴール付近に移動し、少し経つとさっきまでパドックにいた馬達が出てきた。


「これが本馬場入場というものですね。この時の状態を見て馬券を買う人もいますね。ここでテンションが上がっている馬が勝つのは難しいですからね」

「へー、馬券を買う時間って人それぞれなんですね」

「そうですよ。自信がある人や、直前で買えない人は前日に買ったりもしますからね。でも、馬体重や状態も重要なので、レース当日に買う人が多いですよ」


 なるほど。まあ、自分のお金がかかっているんだか本気になるんだろうな。俺だってこんなところで損はしたくないさ。




 レースの発走時刻になると会場から音楽が流れる。ナマガルシップス曰く、レース発走前には流れるものらしい。

 ここからはあまり見えないが、コースにある大きな映像装置には番号が書かれたゲートというものに馬がどんどんと入っていく。これはターフビジョンというらしく、レースの映像なんかが流れるらしい。

 最後に一番外の馬が入り、少し経った後、ゲートから一斉に馬が出る。

アナウンスでも実況が流れ、どの馬がどの位置を走っているのか細かく伝えている。俺が買った三番の馬は前から四番目だ。


「良い位置ですね。これなら勝ちもありますよ。単勝たんしょうも買えば良かったですかね」

 ナマガルシップスが少し嬉しそうに話す。じゃあもう安心だな、と思いながらレースを見る。レースも終盤になり実況も少し熱が入ってきた。

「さあ、最後の直線に入った。先頭は三番、タカエダキリバサミに代わった。しかし、外から八番、ラブリーラブリーが追い上げてくる」


 八番っていうと花林が買っていた馬じゃないな。ちょっと待て、なんか八番の馬の方がスピードが付いている気がする。ゴール近くになり、更に実況に熱が入った。

「先頭はこの二頭に絞られた、カタエダキリバサミ!ラブリラブリー!カタエダキリバサミ!ラブリーラブリーが抜けた!一着でゴールイン!二着はカタエダキリバサミ」


 実況と共に二頭の馬がゴールした。どうやら八番の馬が勝ったようだ。つまり、花林の買った馬券が当たったのだ。ゴールした瞬間色んな声が周りから聞こえてくる。


「八、二、三、やった当たった!」

「あー!昨日の日給全額賭けたのに!」


 歓声も悲鳴も聞こえてくる。日給全額賭けた人は大丈夫だろうか。

「まあ、ベアリン氏おめでとうございます!六番人気ですから払い戻しもそこそこいくと思いますよ」

「この払い戻しって言うの自動でやってくれるの?」

「そうですよ。紙の馬券だとそういう手間がありますが、ネットで買うと自動で払い戻しになるんですよ」

「そうなんですね。いやー、ビギナーズラックっていうやつかな」


 花林は機嫌良くそう話す。この時は誰もがただ純粋に笑っていた。第二レース、花林は六番人気の馬の単勝を当て、第三レースでは八番人気の馬を当てた。ここまでくるとナマガルシップスの笑顔もひきつってきた。


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