9話 アニメイベント

アニメイベント①

 今日は『異世界調理日誌』のイベントの日、俺は前日にナマガルシップスの家に泊まり、そこからイベント会場へ向かった。自宅からの移動を前日に済ませた分、今回は移動が楽だ。


ギリギリ都内という立地のおかげか移動は特に苦ではない。ただ、電車を何度か乗り換えるのは少しきつかった。普段の通勤でも一回しか乗り換えないが、乗り換えというものは意外とキツイんだな。



 イベントの開演は十三時、十二時からの入場前に会場付近で朝飯兼昼飯を済ます。実はナマガルシップスの家に泊まらせてもらう機会はこれまでに何度かあった。そういう機会にこういう食事体系をとることは毎回だ。身体にいいのか悪いのかはわからないが、食費は少し浮く気はするし、気持ち的に楽な気はする。


 ご飯を食べた後、ナマガルシップスは連番者と合流すると言って別れた。俺は花林と連番で二部共公演のチケットを取っているので、花林を待つこととする。

連絡が来た段階ではあと十分くらいで着くだろうが、アイツはこういう待ち合わせは十分くらい遅れてくる。ということはあと二十分くらいだろう。


 待ち合わせ場所で待っていると、ナマガルシップスがやってきた。もう一人いるが連番者だろうか。

「フカジロウ氏、紹介します。今回の連番者のサス氏です。カナンとしずるん推しという事でぜひフカジロウ氏に紹介したいと思いまして」

 そういえば見たことがある顔だ。昨年のブルームのお渡し会で何度か見た。カナンとしずるんの時にかなり粘っている姿を見たのでそれで覚えているんだろうな。顔を見ただけで、どういうことをしてきたオタクなのか思い出すのもどうなんだろうか。


「初めまして、サスと申します。確か去年のお渡し会でしずるんの時にかなり粘ってた方ですよね。全通してたので何度かお見掛けしています」

 あっ、俺もそういう姿を見られていたようだ。お互い様のようだ。

「初めまして。フカジロウと言います。しずるんオタクってあんまりいないイメージだったのでこうして会えて嬉しいです」

 作り笑いでそう言うと、

「実はボク、しずるんと出身が同じ秋田県で、同じ高校に通っていたんですよ。あっ、学年的には三年違うので通っていた期間は被らないんですけどね。そういうこともあって他人の気がしなくて応援しているんですよ。いやーいいですよ、しずるんの地元は特に何かあるわけではないですが自然豊かですし、暮らしやすいですよ。あっ、そう言えばこの間、しずるんが話していた高校の時によく言っていたお店、実はボクも行っていたんですよね。いやー、偶然、偶然。あそこの醤油ラーメンが美味しくて、学割が利いて―――」



 サスは延々と話し続けている。その時、サスという人物がなんとなく分かった気がした。

 こちらが少し引いているのを察してサスは話すのをやめ、

「すみません、悪い癖で」と謝ってきた。思っていたより悪い人間ではないのかもしれない。


 雰囲気を感じてかナマガルシップスが俺に近づき、小声で話しかけてきた。

「フカジロウ氏、サス氏はちょっと自分語りが過ぎるところもありますが、悪い人ではないんですよ。拙者もこうして会って話すのは初めてなのですが、SNSで何度か絡んだ時も感じの良い好青年という印象です。自分の好きなことを話したいのは誰もあると思います。拙者は悪い人は紹介しませんよ」

「わかりました。もう少し話を聞いてみます」

 俺も小声で返す。オタク友達のいない俺に気を使ってくれるのかもしれない。その気持ちを汲もうと思う。

「サスさん、俺も思いっきり自分の好きな話をすると思うんで引かないでくださいね」

「あっ、はい。よろしくお願いします」

 なにはともあれ知り合いが一人増えた。今までの俺では考えられない嬉しい出来事だ。大事にしよう。



 そんな会話をしている内に花林が合流した。花林にもサスを紹介する。簡単に挨拶をした程度だったのでさっきのような悪い雰囲気にはならなかったのでちょっと安心した。その後は会場に入り、お互いの席に着いた。

「さっき、あのサスっていう人と何か話してたの?」

「ちょっとな。ナマガルさん曰く、悪くない人らしいからとりあえずは色々と話してみるよ」

「そっか。私は別にいいけどね。別に好みのタイプでもないし」

 花林にとってはあまり興味のある存在ではないようだ。それに少しホッとしている自分がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る