クリスマスだってさ②

 花林と食事をする日になった。待ち合わせは十八時三十分、店の前で合流する予定だ。俺は少し早めに家を出て、街を歩いていた。この駅で降りて高校に通っていたのがもう六年ほど前だ。


 昔から変わらない風景もあれば、新しくみるお店もチラホラと見かける。ただ、帰りによく通っていたファーストフード店はまだあるし、アニメショップも変わらず営業している。これからフレンチを食べるのだからファーストフードはパスし、アニメショップに入ることにした。


 相変わらず小さい店舗なので品揃えもそんなに良くはない。CDや漫画も基本的にメジャーな作品ばかりだし、店自体もそんなに大きくない。ただ、推しの町田のCDを買う時はいつもここだった。

 大学に通っている時は定期圏内に大きな店舗もあったが、ここで買うのが慣れているし、初めてアニメCDを買った思い入れのある店なのでついついここに来てしまう。それに人もそんなにいいないし、レジでの待ち時間も少ない。なんだかんだ言って思い出の店舗だ。


 店の中をぐるっと一周したが、漫画は最近人気の作品が目に付くし、CDも最近の人気アニメ、声優のものが多く並んでいる。時は流れても基本的には並んでいるものは変わらないな。

 結局、ここでも何も買わず、近くの本屋で漫画の続刊を見つけたので買うことにした。こういうマニアックな作品を扱っている店の方が安心する時はあるよなと心の中でふと笑った。



 待ち合わせ時間が近くなり、店の前に行く。お店は一軒家のような見た目だが、出てくる料理はおいしいようだ。この時期はこの時間でもかなり暗いし、この辺は街灯も少ない。待ち時間が少し不安だったが、五分も経つと花林がやってきた。

「お待たせ。なんか今日はいつもよりおしゃれじゃない?」

「こういうお店に入る時はちょっとでもしつかりとした服じゃないとな。そういう花林だって珍しくスカート履いてるじゃないか」

「いつも通りの服で出ようとしたら『もっと女性らしい服を着ていきなさい』って怒られたから着替えたんだよね。冬物のスカート買っておいて良かったよ」


 いつもパンツスタイルの人がいきなりスカート履いてきたら少しドキッとはするだろう。男はみんなそうだと思う。

 外は寒いので早めに中に入る。店員に名前と人数を伝えると席に案内される。今日はクリスマス目前の土曜ということで満席らしく、どの席を見てもリザーブとなっている。みんなカップルで来るんだろうな。この中で本当のカップルじゃないのは俺達くらいじゃないかな。



 席に座った後、少し時間が経ってから飲み物を聞かれる。飲み物はせっかくだからと白ワインを注文する。コース料理なので順番に料理が運ばれてくる。前菜から口を付け、なるべくゆっくりと食を進める。

 ―――気まずい。

 こういう雰囲気の店で面と向かって女性と食事をする機会なんて今までなかった。女性と言っても幼馴染だが、それでも今この時間に何を話していいのかわからない。いつも通りアニメや声優の会話をして良いのだろうか。



「こういうところにお店があったんだね。私、高校こっちの方じゃなかったから全然知らなかった」

 沈黙に耐えられなかったのか向こうから話題を切り出してくれた。しかし、こうして面と向かって話されると少し緊張するな。

「俺も知らなかった。俺の通ってた高校と別方向だったし、ここはネットで調べたんだよ。そっか、家から近い学校選んだっけ」

「そうそう。なるべく近い学校に入りたかったんだよね。やっぱり通勤時間も通学時間も短い方がいいじゃん。アンタはなんであの高校を選んだんだっけ?」

「親からもなるべく良い高校行けって言われたんだよな。大学もそんな感じだったよ。高校、大学、会社とどんどん通うところが遠くなっていくんだよな。でももう慣れっこだよ」

「私だったら絶対無理だな。東京行くだけでも疲れるんだからさ。アンタはすごいよ。なんかどんどん知らない人になっていく感じがしたもんね。同窓会で会った時も、夏に会った時も」


 そう言ってグラスに入ったワインを見つめていた。さっき注文したばかりなのに花林のグラスのワインはもう半分以上減っていた。飲むペース早いし、たくさん飲もうとするんだよな。もう酔っているんだろうか。

「そんなことないよ。むしろ花林の方が遠く感じたよ。同窓会で会った時に大人びていて、社会人と学生だとこんなに違うのかと思ったよ」

「ははっ。今になってはそんなことないでしょ。たかが数年早く社会に出ただけなんだからさ。そういえば、知ってる。貫太が結婚したんだって。クラスのほぼ全員に告白してフラれた貫太がさ」

「マジか。誰でも良いから付き合いたいとか言って三年の春にほぼ全員に交際申し込んだ貫太だよな。同じ高校だったけど、誰かと付き合ってる様子はなかったぞ」

「大学の時に出会った子らしいよ。四年くらい付き合って、今年の夏に籍入れたんだってさ。人生何あるかわかんないよね」



 心配せずとも昔話に花が咲いた。料理も早すぎず、遅すぎないタイミングで運ばれてくるのでゆっくりと食事ができている。魚料理を食べ終えてから飲み物を赤ワインに変えた。肉料理を食べるのならば赤ワインだと会社の先輩から教わったが、理由についてはよくわかっていない。メニューには産地とか書かれているがワインについて勉強していないのでよくわからない。

 花林も

「スーパーに売っている千円くらいのワインならおいしいんじゃん。私はイタリアンのチェーン店のワインでも美味しいと思うからこういうところで出てくるんなら不味いことなんてないでしょう」

 と言っていた。俺も同意見だ。詳しくはないが、飲んでいるワインは美味しいとは思っている。料理だって美味しいさ。詳しくなくなって楽しめればいいんだよ。

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