第2話 みのりの夢
厳かに年が明け、1月。すっかりと真冬を迎え、吹きすさぶ風は身体を芯から冷やして行く。
みのりたち
そして駅の西側、すぐ近くにある「
悠ちゃんは大学卒業後に就職していて、平日は毎朝職場がある、大阪でも屈指のビジネス街
みのりが通う短期大学は谷町線の
みのりは短期大学で栄養学を学んでいる。幼いころからお母さんがみのりのために、鉄分を始めとした栄養素、そしてバランスを考えたごはんを作ってくれていた。そのおかげでお家には数冊の栄養学の本があり、みのりも興味を持ったのだ。
将来はそういう分野の研究や教育に携わるという道もある。栄養士の資格も卒業と同時に取得できる。だがみのりが選んだのは、飲食店経営の道だった。
みのりはそんなにたくさんの量を食べることはできないが、お母さんが作ってくれた愛情いっぱいのお料理、そしてお友だちや悠ちゃん、もちろん両親と食べた美味しい外食も、みのりの心を優しく暖めてくれた。
美味しいものは、人をこんなにも慈しみ、幸せにしてくれるのか。ならみのりの様に美味しいもので体調などを整えることができたら、それは素晴らしいことなのでは無いか。みのりはそう思う様になった。
だから、高校卒業後の進路には迷った。調理が学べる学校に行くか、栄養学が学べる学校に行くか。すると両親がこんなことを言ってくれたのだ。
「みのり、大学を国公立か短大にするんやったら、そのあと専門学校に行ってもええで。最大2年制でな」
そのありがたい言葉で、みのりの迷いは無くなった。大学は栄養学が学べる短期大学を目指し、卒業後は1年制の調理師専門学校に行くことに決めた。もちろんストレート合格を目指し、ストレート卒業が目標だ。
できるだけ両親に、そして悠ちゃんに心配を掛けない様にと。
そうして漕ぎ着けた大学2回生。卒業したら大阪市内の調理師専門学校の1年制に進む予定だ。
夢が膨らむ。もちろん卒業してすぐにお店を出せるだなんて思っていない。お金だってたくさんいるし、お母さんから教えてもらった基礎と、専門学校の1年間だけでスキルが伴うなんて甘えたことは考えていない。
やはりどこかの飲食店で修行をした方が良いのだと思う。叶うのなら定食屋さんや小料理屋さんで。
だが長時間立っていられないみのりが、立ち仕事を勤めることができるだろうか。普段、少しでも身体を強くしたくて歩いたりしてはいるが、常にめまいに付きまとわれているみのりは、無理をすると頭の揺れが酷くなり、下手をすると立っていられなくなる。
本当に情けない。自分は希望の業界でまともに働くこともできないのだろうか。涙が出そうになるが、誰が悪いわけでもないと吹っ切って頭を振る。そしてめまいが酷くなり、
それでも自分ができることを日々粛々とするしか無い。短期大学は無事2年で卒業できそうだ。卒業論文も書き上げられそうである。
みのりのテーマは「健康を保つ家庭料理」だった。題材としては弱いと思った。だがそれこそが、みのりが将来見据えていることだった。
あらためて奮起するために、みのりは気合を入れてパソコンに向き合った。貧血なら、風邪なら、腎臓病なら、糖尿病なら、高血圧なら、などなど。どうお献立を構成するか。お料理の知識はまだ
今はどうにか書き終えていて、
2回生の1月ともなれば、もう単位は全て取れている。なのでキャンパスに行く必要は無い。なのでみのりは自室で論文作成に集中する日々だった。
「はい、みのり、お待たせ」
「ありがとう」
お母さんが整えてくれた朝ごはんが、ほかほかと湯気を上げる。常盤家の朝ごはんは基本和食である。
お茶碗にふんわりとよそわれた、活動エネルギーの源である白いごはん、食欲を
そして今朝は、卵とほうれん草のバターソテーがメインだった。鉄のフライパンで作ってくれたもので、鉄分がしっかりと含まれている。
鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、吸収が良いのはお肉やお魚などの動物性に含まれるヘム鉄だ。ほうれん草などのお野菜などは非ヘム鉄で、こちらは吸収率が低め。だがバランスは大事だし、なによりみのりは朝からお肉類などを食べる気力が無い。喉を通る気がしないのだ。お魚ならともかく。
その代わり、できるだけお米をしっかりと食べる。お昼までしっかりと動ける様に。とはいえ今日も論文のために引きこもるので、あまり食べると太ってしまうのだが。体力は付けたいが、過度に太りたく無いお年頃なのである。乙女心とも言えるだろうか。
「ほな僕、仕事行ってきます」
綺麗に朝ごはんを食べ終え、お父さんが使い終えた食器の洗い物までしてくれた悠ちゃんがキッチンから戻って来た。
「お、私も行かんとな」
お父さんも腰を上げた。
「はい、行ってらっしゃい。ふたりとも、今日晩ごはんは?」
「多分お世話になると思います。もし予定変わったらすぐに連絡します」
「私も家でもらうわ」
「オッケー」
悠ちゃんはこうして常盤家でごはんを食べる分、きちんと食費を払ってくれていると聞いている。お母さんはみのりのことでお世話にもなっているし要らないと言ったそうだが、遠慮無く食べに来られる様にしたいから、という
みのりもこうして悠ちゃんと一緒にごはんが食べられるのが嬉しかった。賑やかな食卓はみのりに元気をくれる。社会人として働くお父さんや悠ちゃんの話を聞くのも楽しかった。
「ほな、行ってきます」
「行ってくるわな」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃーい」
お父さんと悠ちゃんは、お母さんとみのりに見送られて、出勤して行った。
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