2-8 聖女のお手伝い
「……っ」
昨日の薬湯のおまじないのお陰なのか、疲れを全く感じないで、爽やかに目覚める。
小鳥の
(ラピス、かわいい……。尊いってこういうこと?)
ベッドの上にお腹丸出しで無防備に寝る青いもふもふ龍のラピス。前足と後ろ足を広げた間から愛らしい尻尾がぴょこんと出ている。 前足はちょっと丸まったニャンコの手みたい。
すぴーすぴーと気持ち良さそうな寝息で、もふもふしたお腹が上下に動く。
昨日は豆電球の暗がりで見たから気づかなかったが、お腹の毛は背中や他の毛より少し色が白っぽくて、空色みたいな色で、もふもふよりふわもふみたい……。
(気持ち良さそう……。ふわもふに少し触ってもいいかな?)
起こさないように、そっとお腹をひと撫ですると、ふわふわともふもふを一度に味わえる奇跡のふわもふパラダイスがラピスのお腹にあった。可愛くて気持ち良くて、癒される。なんなの、やっぱり天使なの?
「ん……なの。……かれん、さま……すき、なの」
寝ぼけた様子でラピスがほんの少し首をあげて、むにゃむにゃと私が好きだと言うと、幸せそうな表情でポテッと再び寝るラピス。なんなの、絶対天使だよね?
「ふふっ、私もラピスが好きだよ」
あんまりに可愛くて我慢が出来ず、ふわもふのお腹をもう一度撫でる。ふにゃりと表情が緩むラピスに胸のキュンキュンが止まらない。
あまりに愛おしくて、もふもふ天使の口に、ちゅ、っと口づけを落とすとキュートなピンク色に小指がキラキラ輝いた。
ラピスのふわもふなお腹にガーゼケットをさらりと掛けたものの、邪魔だったのか後ろ足でケットを「えい、……なの」とあっさり蹴飛ばし、更に寝相の乱れたラピスに笑いを堪え、寝室を後にした。
「おはようございます、カレン様」
「ロズおはよう。朝早いんだね」
「ノワルもラピスも朝が弱いのですよ。ご飯が出来たら起こしに行くつもりです。それより、カレン様なにかいい事がありましたか?」
キッチンに立つロズに声を掛けられる。
ラピスの可愛さに癒されていたら顔がにやけたままらしい。
「うん、ラピスの寝相がね、かわいくて……」
「ああ、なるほど」
ロズも身に覚えがあるのか、ふっと笑みを浮かべ頷いた。
「カレン様、よかったらこちらをどうぞ」
「ありがとう!」
鮮やかなビタミンカラーの液体の入ったグラスを渡される。
絞ったばかりのオレンジジュースは、濃厚な甘みと爽やかな酸味が、眠気を覚ますのにもぴったりだった。
「ロズとっても美味しかったよ、ありがとう。何作っているの?」
「今は林檎を鯉のぼりの飾り切りにしているところです」
ロズの手元を見てみると器用に鯉のぼりのウロコを赤林檎に切っているところだった。器用だな、とロズの手元に見惚れていると、ロズに話しかけられる。
「カレン様、お手伝いをお願い出来ますか?」
「うんっ! 何を手伝ったらいい?」
「では、手が塞がっているので、カレン様からキスをして下さい」
「……。へっ?」
艶やかに弧を描くロズの色気に思わずうつむく。
このロズの色気は、直視できなくて恥ずかしくなってしまう。
「——カレン様」
ロズの甘くて柔らかな声に顔を上げると、朝に相応しくない量の色気を纏っている。いや、昼でも夜でも心臓によくないので色気は控えめに纏って欲しい。
どんどん恥ずかしい気持ちが上がって来て、顔も熱くて赤くなっていくのが分かる。
ロズの顔を見れなくて、手元に視線を落とせば、細い指が器用に動き、一匹の赤い鯉のぼりの林檎が出来上がるところだった。
「あと三匹で完成してしまいます。もし、それ以上かかるなら、もう一つお願いしたいのですが、……いいの?」
「うんっ?」
「ふふっ、ありがとうございます」
「え? あっ! ち、ちがうの! そういう意味じゃなくて」
「はい、あと二匹ですよ」
ロズの細い指が二匹目の鯉のぼり林檎を青空色のお皿に並べる。
「えええ? ええっと、ロズのもう一つのお願いって何なの?」
「カレン様から好きだって言うことですね」
「ふえっ?」
「はい、あと一匹ですね」
ロズの綺麗な指が優雅に動き、三匹目の鯉のぼり林檎を空に泳がすと、最後の一匹に取り掛かる。
(どうしようどうしよう! 早くしないと! でも、包丁持ってるのにキスしたら危ないし……)
どうしようもなく恥ずかしくて、顔が熱くて、どうしていいか分からなくなってしまう。
結局、赤くなってもじもじして何も出来ない内に最後の鯉のぼりが空を泳ぎ始めた。
「カレン様」
びくっと反応してロズを見ると、ゆっくりと笑う。
恥ずかしくて目が潤み、そんなの無理、と訴えるように首をふるふると横に振る。
「カレン様、余り焦らすのならば、もう一つお願い事を増やしてもいいですか?」
「ひゃあ! ままま、待って! じらしてないの!」
「そうなのですか?」
「そそそ、そうなのです!」
気づけば私の腰にロズの
「カレン様」
ロズの甘くて柔らかい声が耳元で囁くと、びくっと身体が震えてしまう。
そっとロズを窺うと、熱い瞳と目が合ってしまい、ぱっとうつむいた。何度か同じことを繰り返した後に覚悟を決めて、ぎゅっと半袖パーカーの裾を握りしめる。
「……恥ずかしいから……目、とじてて……」
「はい」
嬉しそうに微笑み、ゆっくりと瞼を閉じたロズの綺麗な顔を見つめる。ロズの耳元に口を寄せる。
「……好き、だよ……ロズ……」
私の小さく掠れた声は思ったより、ずっと甘く響いていた。
ロズの唇にそっと触れるようなキスをした。
ロズが自分の唇を手で覆った隙に、するりとロズから抜け出して、逃げるようにキッチンを後にする。
視界の端で、小指がドキドキするようなピンク色に煌めいていた。
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