第9話 [黒魔導士]
イベントまで残り16日。
計画は予定通りに進行しており、山肌を覆う全ての木々への呪物の感染が完了した。
この後、すべての葉をディスプレイの各部分に対応させるために、前回と同様に位置測定を行う。
今回は、[土煌竜人]のみが立ち会っており、他の計画の進捗共有をしながら進めることになった。
「何やら最近、研究室に籠りっぱなしのようだが、いったい何を進めているんだ?」
「司会進行役の魔女の演出で使う魔道具を調整しているとこ」
「魔道具の調整にしてはかなりの時間を割いているようだが、何か不都合でもあったのか?」
「いやー、やり始めたら思ったより気合が入っちゃって。それより、司会役の演者は見つかった?」
「む……。それなのだが、なかなか条件に合う者がいなくてな。改めて考え直したんだが、やっぱりお前がやるのが一番良いのではないか?」
「なっ!なにを!言ってるんだ!そんな……、そんなの恥ずかしくて無理に決まってるだろ!?」
「とはいえ、前提条件として、演技ができて、魔術や魔道具に詳しく、ある程度の期間働き続けられるとなるとそう簡単に見つかるものでもあるまい」
「今回に限ってなら、魔術や契約期間は気にしなくていいでしょ!?」
「いや、今回初めてのイベントだからな、どこで不祥事が起きるかもわからん。緊急の事態でも、ブランドイメージを壊さないように自分で対処できるだけのスキルを有しているべきだ。例えば、演出がうまくいかなかったときにスタッフを呼ぶような事態になれば、憧れの魔法使いとしての魅力はなくなってしまう」
「それは、そうだが……。だとしても、契約期間の方はいいじゃないか!見た目も魔法で変える予定だし、話す内容も台本がある。次のイベントまでに代役を見つければ問題ないでしょ!?」
「私もそう思っていたんだが……、しかし、この魔法使いのキャラクターは、アイドルとしての一面も持つのだろう?だとするなら、途中でアクターが入れ替わることを許容していいのか?私もこのイベントに際して、アイドル文化に触れて勉強しているのだが、彼女らは他者にできないような努力や生きざまでファンを魅了するものだ。その生き方に惚れているのに、中がすり替わってはそれまでの感情の行き場がなくなってしまうように感じる」
「それは、そうだけど……」
「アイドル達と同じジャンルに属しており、他のアイドルと差別化される特徴を持つことで、あくまでアイドルのジャンルの中で唯一無二の存在になるのが目標のはずだ。だとするなら、アイドルのジャンルから外れそうな要素は可能な限り排除するべきだろう。そして、何があっても、100年後も同じアクターが続けられるとするなら、それはお前以外にあるまい」
「くっ……、まさかあのとき研究室で言ったことが全部自分に返ってくるなんて……」
「進行している計画は司会役の魔法使いの存在前提で成り立っている。いまさらそれ抜きで進めることはできまい。腹をくくれ[黒魔導士]」
「まだだ!何か手があるはず……!私は先の大戦も影で生き延びたウィッチ。こんなところで表舞台に立ってたまるかっ!」
「何をそんなに嫌がることがある。そもそもアイドルになることを恥ずかしがるのは失礼じゃないのか?お前は本気で彼女たちのあり方に感動したのだろう?そう研究室で言ってたではないか。なに、アイドルを見てアイドルを目指すことを恥ずかしがる必要はない。さあ、今こそ本当のお前をさらけ出すんだ」
「や、やめろ!!ここぞとばかりに私をいじめるな!」
「そうそう、魔法使いについてなんだが、服飾関係のデザイナーと作家の方に依頼してな、コンセプトに合うキャラクターを作ってもらったのだ。名も改めて決まった。「ウィッチちゃん先生」だそうだ。元々教育方面に注力していくわけだから、可愛らしくてコンセプトにも合う素敵な名前になったな。それではよろしく頼むぞ「ウィッチちゃん先生」」
まさか[土煌竜人]に言い負かされる日が来るとは思ってもいなかった。
しかし、本当に何か方法を考えないと、私が、あの……フリフリの衣装で、ア、アイドルをすることになってしまう……!!
葉の位置測定は問題なく進行したが、私にとってはより大きい問題が発生してしまった。
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