歓迎1

「な、なんだか視線が気になるね……」


 暖かく迎え入れてくれると思っていたのだけど想定とはだいぶ違って魔族のみんなはクリャウのことを冷ややかな視線で見ていた。


「ご、ごめんね。まだみんなクリャウに関する予言のこと聞いてないから……」


 予言については秘密のことであった。

 漏れると他の部族に狙われたり、部族内でも意見の相違などが起こる可能性があったからだ。


 連れてきてしまえばもはや止められないし、情報漏洩もないだろうという考えで先にクリャウは連れてこられた。

 つまり今クリャウは周りから見てなぜ連れて来られたのかわからない人間ということなのである。


 歓迎されないのも当然といえた。


「まずは族長のところに行こう」


 ミューナやケーランと一緒にいるせいなのか直接絡んでくることはないけど視線は絡みつく。


「族長ってことは……ミューナのお父さん?」


 冷たい視線を浴びるクリャウだけど実はそんなに気にしていない。

 村ではもっと冷たくされていたのだからこれぐらいなんともないのだ。


「うん、そうだよ!」


「どんな人?」


「うーんとね……強くて優しくて頼りになる人かな?」


「族長が聞いたら泣いて喜びそうですね」


 ミューナの言葉にカティナが目を細める。

 ミューナと族長である父親は別に仲が悪いわけではない。


 しかし思春期の娘らしい父親に対する照れのようなものがあって普段はこんなこと口にしない。

 昔はもっと好き好き言ってくれたのにと父親らしい嘆きを漏らしていることを知っている側からすれば言ってやればいいのにと思う。


「あっ! 今の言ったらダメだからね!」


「なんで?」


「なんでって……そりゃ恥ずかしいじゃん……」


「ふふ、そんなものですよ、クリャウ様」


 まあでも自分もそんなものだったなとカティナも笑ってしまう。

 集落の中心にある大きめの家が族長の家だった。


「帰ったよー」


 これからお世話になるかもしれない緊張のご挨拶、とはいかずミューナが遊びに行ってきたみたいにドアを開けた。


「お、お父さん?」


 家に入ったミューナの目に飛び込んできたのは仁王立ちする父親の姿だった。

 これから戦いに行くのかというようなフル装備の格好をしている。


「何かあったのですか?」


 そろそろと後ろから入ってきたケーランたちも族長のただならぬ雰囲気に動揺する。

 戦いに赴く直前だったのだろうかとみんなが顔を見合わせた。


「君がクリャウ君だね?」


「あっ、はい、そうです」


「君はどうやら……うちの娘といい感じらしいな?」


「へっ?」


「お父さん!?」


 すごい圧力を感じるので何をいうのかと思ったら全くの予想外のことを言われてクリャウは抜けた声を出してしまった。


「ビュイオンから聞いた……ミューナととても仲が良さそうだとな」


 次の瞬間カティナの頭にはある言葉が浮かんだ。


「親バカ……」


 父親としての威厳、あるいはクリャウに対する威嚇かもしれない。

 ビュイオンは先に走って集落に戻っていて族長に状況の報告をしていた。


 その中でクリャウとミューナの関係がだいぶ近そうであるということもポロッと口にしていた。

 ビュイオンの言葉を聞いて族長はすぐさま用意をし始めた。


 最初はのほほんと迎える予定だったのだが急遽戦うための鎧などを引っ張り出してきたのだ。


「何処の馬の骨とも分からんやつにうちのミューナは……」


「うるさいわよ〜」


 腰の剣に手をかけた族長が後ろから来た女性に殴られた。

 手に持っていた鉄のフライパンで容赦なく殴りつけたのでゴインとひどく鈍い音が響き、族長はそのまま勢いよく床に倒れた。


「お母様!」


「ごめんなさいね。大人しくしてると思ったらこれだもの」


 わずかに歪んだフライパンをクルクルと回す女性はミューナの母親であった。

 少しばかりミューナよりもおっとりとした顔立ちはしているもののミューナに似てとても美人だとクリャウは思った。


「はじめまして、私はトゥーラよ。あなたが予言の子ね? お名前はなんていうのかしら?」


「ク、クリャウです! よろしくお願いします!」


「あらあら、礼儀正しい子ね。どっかの誰かさんとは大違い」


 笑うとよりミューナに似ている。


「長旅ご苦労様」


「お母様の顔ジッと見てどうしたの?」


「な、なんでもない」


 トゥーラに頭を撫でられてクリャウは少しだけ自分の母親のことを思い出した。

 もっと小さい頃のもので、かなりおぼろげな記憶だけど温かさは忘れない。


 トゥーラからも自分の母親に似た温かさを感じたのだ。

 クリャウは思わず頬を赤くして俯く。


「みんなもお疲れ様。料理作ったから食べていってちょうだい」


「ではお世話になります」


「そのままにしていいの?」


 ケーランたちはさらりと族長のことを避けて家に入る。

 クリャウは族長のことを放置してよいものかと困惑してしまう。


「いいの! いこっ!」


 ミューナは一度冷たい目で族長のことを見るとクリャウの背中を押して家の中に入っていく。

 玄関では分かりにくかったけれど家の中に入ると料理のいい匂いがしていた。


「そちらの方々はお座りになられなくて?」


 ミューナの隣に座らされたクリャウの後ろにはスケルトンたち三体が立っている。

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