正義はどこにある3
「あっちに焚き火の跡がありますね」
リシアが周りを見回す。
少し遠くの地面に黒い場所が見える。
きっと焚き火の場所として使われたところだろうと思った。
「リシア」
「……ええ、分かってるわ」
焚き火に近づいていくと細かい虫が飛び回っていることに二人は気がついた。
多少の虫はそこらを飛んでいてもおかしくない。
しかしそれにしては虫の数が多い。
つまりこの辺りに虫がたかるような何かがあるのだ。
大体の場合虫が多くたかるのは死体である。
「あそこだ」
焚き火跡に向かいながら周りを見回していたウィグリーンが草に隠れるようにして倒れているものに気がついた。
「これもまたひどいな……」
それは男性の死体だった。
少し前に見た人さらいの死体も放置されていて酷かったが、それよりも体の損傷が激しい。
魔物が多くて食い荒らされたのだ。
「顔はギリギリ分かるな」
体は食い荒らされているが顔は比較的無事であった。
だからなんだという話ではあるがせめて顔ぐらいまともなら少しは死体も気分が晴れるかもしれない。
「あっ、この人は……」
「なんだ、知り合いか?」
死体の顔を覗き込んだリシアが驚いた顔をする。
死体の顔には見覚えがあったのだ。
「……知り合いではないですね」
「じゃあなんだ?」
「この人はタビロホ村の生き残りです」
「なに?」
「村が魔物に襲われたという話を聞いた後町に一部の人が行商に来ていたことが分かったので冒険者ギルドで保護したのです。私は直接言葉を交わしませんでしたがお顔は拝見しました」
死体はブラウたち一行の一人だった。
冒険者ギルドでチラリと見た顔をリシアは覚えていたのである。
「生き残りって……スケルトンの心当たりがあるとか言って村の処理ほどほどにどこか行ってしまった奴らか?」
「そうですね……」
復讐も大事だがまとめて燃やすだけじゃなく墓ぐらい建ててやればいいのにとウィグリーンは思っていた。
何をしているのかと気になっていたがこんなところで死体になっているとは驚きだった。
「記憶を見せてもらおうか」
普段はあまり他人の記憶を覗くことをいいことだとは思っていない。
しかし今はこいつが何をしてこんなところにいてやられたのか気になった。
ウィグリーンは死体に触れて魔法を発動させる。
次の瞬間ウィグリーンの頭の中に死体の記憶が流れ込んできた。
「どう?」
「クリャウという少年を追いかけているようだ」
戦い始める前から記憶が続いている。
ブラウたち他の生き残りと会話をしていてクリャウという名前が何度も出てきた。
ガキとも言っているのでクリャウが子供なのだろうとウィグリーンにも分かった。
「あの子は……」
昼夜問わずクリャウを追いかけたブラウたちがミューナたちと一緒にいるクリャウのことを見つけた。
記憶の中で見たクリャウの顔は少し前に人さらいの記憶で見た少年であった。
「魔族? なんでこんなところに……それにスケルトンまで」
ブラウたちがクリャウたちに襲いかかった。
戦い始めて近くに行ってクリャウが一緒にいるのが魔族だとウィグリーンは気づく。
襲撃でフードが取れて魔族だけではなくスケルトンがその場にいたことにウィグリーンは驚きを隠せない。
ただブラウたちはあまり驚いた様子もなく戦いを継続した。
むしろスケルトンがいることも予想すらしているような感じがあった。
記憶を覗いている男が戦い始めたのは魔族の女性だった。
男の実力は所詮村人といったところで、女性の方はしっかりと訓練をしているような感じがあった。
完全に圧倒されている。
全体的にブラウたちの方が劣っている。
少し記憶で見ているだけでもブラウたちが負けたのだろうなと簡単に予想できた。
「こいつはここまでか」
魔族の女性に負けて男は切り捨てられた。
「他の死体を探すぞ」
ただ他のものはまだ戦いを継続していた。
他の死体ならば何か見聞きしているかもしれないとウィグリーンは周辺を捜索する。
「……やはりスケルトンは魔族……いや、クリャウという少年の味方なのか?」
ウィグリーンが見つけた死体はブラウのものだった。
スケルトンが森に隠れていた男の首をブラウの前に投げ捨てた。
明らかに魔族たちの味方として動いている。
ウィグリーンが見たところクリャウの命令で動いているようだった。
「なんだと?」
「な、なに? 何が見えてるの?」
記憶を読めるのはウィグリーンだけでありリシアには何が見えているのか分からない。
「どうやら……」
ウィグリーンは記憶から引き出した情報をリシアに伝える。
スケルトンはクリャウという少年によって操られているものであるようなこと、そしてブラウがクリャウの父親を殺したこと、さらにはクリャウとスケルトンが村を滅ぼしたことなどブラウとクリャウの会話をかいつまんで説明した。
「ええ……」
想像もしていなかった展開になった。
リシアはウィグリーンの話を聞いて思い切り顔をしかめる。
「えと……じゃあクリャウっていう子が父親を殺されたから村を滅ぼした? そしてこの人たちのことも殺した?」
無理矢理話をまとめるとこうなるのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます