魔族の集落へ3

 ジーダ大森林という場所がある。

 非常に大きな森林地帯であり複数の国がジーダ大森林に接している。


 しかし自然豊かで面積も大きい場所なのにジーダ大森林そのものはどこかの国の領地にはなっていない。

 なぜならジーダ大森林は多くの魔物が住み着いている魔境だからである。


 どんな魔物が住んでいるのか全容はどこの国も把握していない。

 ただとんでもなく強力な魔物や大量の群れをなしている魔物が住んでいるという話があった。


 魔物を刺激してジーダ大森林から出てこられては困るということでジーダ大森林周辺にある国で協定を結んだ。

 ジーダ大森林はどこの国にも属さないジーダ大森林であり、森林の奥に軍などで手を出すことを禁じたのである。


 奥に入ったり大量の軍隊で魔物を追い立てることは禁止されているが、魔物が出るので浅いところでの討伐や人に手を出す魔物をある程度追いかけることは許容されている。

 だがジーダ大森林に住んでいるのは魔物だけではなかった。


「ここには魔族の集落がいくつかあるんだ。危険な場所だけど……だから人間にも見つからずに過ごせるんだ」


「へぇ……」


 ジーダ大森林には魔族が住んでいた。

 人が奥までやってこないことに目をつけて魔族たちはジーダ大森林に身を隠すようにして集落を作ったのである。


 当然魔物というリスクはあるけれど、魔族を完全に排他しようとする人間に比べれば知恵を巡らせることで魔物との共存はできたのである。

 今ではジーダ大森林の中にいくつか魔族の集落が存在していて時に協力したり時に敵対したりして暮らしている。


「あんまり必要ないかもしれないがこれを渡しておきましょう」


「これはなんですか?」


 ケーランから首飾りを渡された。

 何かの牙のようなものに紐を通したものでオシャレとして身につけるには少し無骨な感じがある。


「この森の中層に現れるモンスターの牙で作った魔物よけです」


「魔物よけですか?」


「これを持っていればこの森の浅層……浅いところにいる魔物はあまり近づいてこなくなります」


 ネックレスはただのネックレスではなく魔物よけであった。

 少し奥に行った中層と呼んでいるところに住んでいる魔物の牙を加工したもので、魔物の魔力が残っている間は浅いところにいる魔物が寄り付かなくなるのだ。


「どうにもジーダ大森林限定のようで外じゃ通じなかったけどな」


 スタットは肩をすくめる。

 ジーダ大森林ではしっかりと効果あって安心していたのに大森林から外に出てクリャウを探して旅している時には魔物に襲撃された。


 こんなに短時間で効果が切れるはずはないのでどうにも効果はジーダ大森林限定のもののようであった。


「ケーランさんが言うようにクリャウ様は必要ないかもしれませんしね」

 

 クリャウの魔力には魔物が怯えたり寄せ付けないような効果がありそうだということが水賊の船での出来事で分かった。

 チューちゃんと呼ばれたネズミの魔物は明らかにクリャウのことを避けていた。


 他の魔物に効果があるのかは分からないけど道中魔物に襲われなかったこともあるしクリャウの魔力の効果によるものかもしれないとみんな考えていた。

 ちなみにチューちゃんはクリャウたちが水族の船を離れた直後に川に飛び込んで自ら脱出をしていた。


 クリャウたち同じように川の流れに押されながら岸まで辿り着いていてどこかに走り去っていった。

 一応手助けしてもらった形になるし自由に元気にしてればいいなとクリャウは思う。


「まあ安全第一で持ってればいい。みんなで固まってれば一人ぐらい持ってなくても平気だしな」


「魔物よけを持っていたとしてもジーダ大森林は魔物が多い。全ての魔物が寄ってこなくなるわけじゃないから警戒はしておくんだ」


「ここまで来て魔物に襲われて終わりなんて笑えねぇもんな」


 今一度装備を軽くチェックしてクリャウたちは『これより先ジーダ大森林!』という看板の横を通り過ぎてジーダ大森林に入っていく。


「んー、懐かしいなこの空気」


 スタットが空気を胸いっぱいに吸い込む。

 木々が密集したジーダ大森林の空気感はただの森とも違っている。


「魔力もやっぱり濃いですね」


 ジーダ大森林が巨大な森であり魔物が多く住んでいる理由の一つに魔力の濃さというものがある。

 魔力が濃くて魔物にとっても環境がいいので魔物が多くいる。


 そのためにどことなく空気の感じも違うのだ。

 魔族は人間に比べて魔力に敏感でスタットやカティナも魔力の濃さの違いを感じている。


「……何見てるんだ?」


「あっ、ごめん」


 ミューナはじっとクリャウのことを見ていた。

 つい先日クリャウに対してカッコいいなどと口にしていたミューナは起きてそのことを覚えていて顔が真っ赤になっていた。


 少しだけ気まずくなった時もあったけれどもう関係性は元に戻っている。


「集まってるなと思って」


「集まって……魂?」


「うん」


 ミューナがクリャウを見ていたのはクリャウの周りに魂が集まっているからだった。

 ジーダ大森林では魔物にやられた人も多くいて、彷徨っている魂も多くいることをミューナは知っている。


 魔族に対してはあまり興味も持たない魂たちが今はクリャウの周りに寄っていることを感じていたのだ。

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