魔族の集落へ1
「お嬢様! クリャウ様!」
「ケーラン!」
スケルトンは危なくないとなんとか子供たちを宥めて船から脱出する方法はないかと探すことにした。
船内の光景は子供たちにとってかなり凄惨なものであるが、クリャウから離れるとネズミが襲いかかってくる可能性があるのでみんなで行動する。
死体が倒れ、積み重なっている光景に子供たちは顔を青くしているが、スケルトンという大きな衝撃を挟んでいまだに動揺しているせいか思ったほど混乱はなかった。
川の真ん中に停泊しているので岸に行くための手段が必要で、甲板に出て小舟でもないかと探しているとケーランが船に乗り込んできた。
クリャウとミューナを含めて子供たちが自由にしていることに驚きながらも二人が無事だったことに安心している。
「どうしてケーランがここに?」
「私たちは舟を見つけて……それよりもクリャウ様たちの方がどうして……」
水賊が子供たちを自由にするはずがない。
それどころか水賊の姿が一人も見えないなとケーランは違和感を感じた。
「全員倒したんだ」
「はい?」
「スケルトンさんたちの力で水賊をみんな倒して出てきたんだよ」
「スケルトンが増えて……いなくなったスケルトンもここに」
クリャウの後ろには三体のスケルトンがいる。
スケルトンの数が増えていることもケーランにとっては驚きであるが最初のスケルトンがいることもまた驚きであった。
「急に消えたのでどこにいったのかと思っていましたが……何があったのですか?」
ケーランたちはどうにかしてクリャウのところに向かおうとする最初のスケルトンを拘束して一度宿を取って作戦を立てていた。
水賊のせいで船を渡すことも魚を取ったりすることもできなくなった。
そのために河岸には船が多く停められていた。
船を借りるか、奪うかして水賊の船に乗り込んでしまおうと考えていた。
子供をさらって逃げていこうという水賊の思惑はなんとなく分かっていたので早めに動こうと計画を立て、人目を避けて動ける夜を待った。
しかしそんな時に最初のスケルトンが突如として姿を消したのである。
ケーランとカティナで良さそうな舟を探して、宿にはイヴェールとスタットを残しておいたのに二人が気づいた時にはスケルトンがいなくなっていたのだ。
ドアが開いている様子もなくしっかりとしたイヴェールすら気づかなかったことに疑問であった。
けれどクリャウのそばにいたのだとしたら納得である。
原理は分からなくとも何かがあってクリャウのそばに現れたのだろう。
クリャウが最初のスケルトンのことを気に入っていることは見ていてわかるので、スケルトンを止められなかったことを謝罪せずに済んだ。
「みんな、一度上がってくるんだ」
ケーランが船の下を覗き込んで声をかける。
ミューナが少し身を乗り出してチラッと見てみると水賊の船の下に小さめな船が横付けされていた。
カティナたちが船に乗っていて覗き込むミューナの顔を見て嬉しそうな表情を浮かべる。
水賊の船に繋いだロープを伝って三人も甲板に上がってきた。
「ああ、二人とも良かった……いえ、そのお顔どうしたのですか?」
暗がりで下から見ると分からなかったけれどクリャウもミューナも顔を腫らしていることにカティナが気づいて険しい目をする。
「子供に対してこんなひどいことを……」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないですよ……」
カティナは悲しそうな顔をしてミューナの腫れた頬を痛くないように優しく撫でる。
「クリャウがみんな倒してくれたから」
「クリャウ様が? ……そういえば誰もいない」
「人の気配もしないな」
いかに水賊といえど見張りぐらいは立てるだろう。
しかし船の甲板には誰もおらず、クリャウとミューナを始めとした子供たちが自由にしていることにカティナたち三人も気がついた。
ケーランが乗り込んでいってさほど時間は経っていない。
いかにケーランが強くとも短時間で子供たちを助け出してここまで連れてくるのは不可能だろうと思った。
ならばどうして見張りもいない甲板に子供たちがいるのだろうか。
水賊の死体でもあれば分かりやすかったのだが水賊たちはほとんどが船の中で死んでいる。
パッと甲板を見ても理由がわからないのは当然である。
「ええと……クリャウがスケルトンを呼び出して水賊を倒してくれたんだ。そして私たちを出してくれたの」
「えっと実は……」
クリャウがどんなことがあったのかを説明する。
水賊が飼っていたネズミの部屋に投げ込まれてエサにされそうになっていたところ、なぜかネズミはクリャウに襲い掛からなかった。
偶然ミューナから魂の話を聞いていたクリャウが物は試しと魔力を放出してみると近くに落ちていた骨がスケルトンになった。
あとは最初のスケルトンが黒い魔力の中から出てきたことや上手くやって脱出し、ネズミをけしかけたりしながら水賊を倒したのである。
「本当に、そんなことが……」
あまりにも現実離れした話にケーランたちは呆然とするしかなかった。
「下はすごいことになってるよ」
「……カティナ、スタット」
ケーランが二人に視線を送り、二人は船の中を確認しに行く。
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