クリャウの能力2
「仕方ないだろう」
「分かってるさ! でもよ……」
まだ誘拐だと決まったわけではないが、誘拐だとしたら早く助けねばならない。
誘拐した人がスケルトンの歩みよりもゆっくりと移動しているなんて考えられず、クリャウとミューナが離れていってしまっているのではないかという焦りがつのる。
ただもう二人がどこにいったのか探す術はスケルトンしかない。
たとえ歩みが鈍くともスケルトンに任せて追いかけるしかない。
「人混みを抜けたな……」
水賊の船を見学していた人混みを抜けてスケルトンは川を下る方向に進んでいく。
「なんだ?」
「止めろ!」
急にスケルトンが川の方に進もうとし始めた。
流石に川に入られては追いかけられないし、流れの速い川なのでスケルトンが川に入るとどこまで流されてしまうことになる。
イヴェールとスタットでスケルトンの歩みを止める。
抵抗は弱く止めることにも苦労はないが、それでもスケルトンは川に向かおうとしていた。
「……あれ!」
カティナが川を指差した。
そこに一隻の小舟があった。
どうやらスケルトンはその小舟に向かっていこうとしているようである。
「……魔法か」
流れの速い川を小舟は遡って進んでいっている。
本来ならあり得ない動きであるが、魔法を使っているのだとケーランはすぐに気がついた。
水の魔法と風の魔法である。
水の魔法で舟回りの水流を打ち消し、風の魔法で舟の帆に風を当てて移動している。
「あの舟に二人が?」
「そのようだな」
状況的にはぐれたと考えるにはもう無理がある。
誰かが連れ去ったのだろうがスケルトンの動きを見る限り舟にクリャウとミューナがいるようだった。
「……水賊の方に向かっている」
向こう岸に渡るのかと思ったけれどどうにも舟の動きを見ると違うようである。
舟は水族の大きな船の方に向かっていた。
「なるほど……このことを手引きしているのは水賊なのか」
水賊騒動で人々には余裕がなくなる。
その隙をついて人さらいをしている人がいると思ったのだが人さらいの犯人も水族であった。
おかしいとは思っていた。
川の通行料を取ることができれば大きな利益をあげられるが、一方でそんな無茶な要求を呑むことなんてまずあり得ない。
力尽くで従わせるならともかく川の真ん中に船を置いて要求の返事を待っているなど変なのである。
人さらいをしているのなら納得だ。
川の通行料など本気で要求する気はないのだ。
通行料を取ることができれば水賊としても嬉しいのかもしれないけれど取れなくても問題はない。
なぜなら水賊の本当の狙いは人さらいであり、おそらく攻撃される前に川から去っていくのだろうとケーランは思った。
「どうするんだ?」
「どうするも何も……」
何もできない。
舟はすでに川岸からだいぶ離れてしまっている。
まだ魔法が届くかもしれないけれどクリャウとミューナが乗っているかもしれないのに魔法で沈めるわけにはいかない。
離れたところまで一瞬で行ける魔法なんてものもない。
周りに留まっている小舟はあるけれど水賊のように魔法を使って川を遡っていくのは簡単な技術ではなく、今から追いかけても追いつけないだろう。
「くそっ!」
スタットは転落防止に設けられている川の柵を蹴り付けた。
「……どうにかして助け出す方法を考えだそう」
ーーーーー
「くっ……」
最初はミューナだった。
後ろから口を押さえられて誰かが連れ去ろうとした。
クリャウはとっさに声を上げてケーランたちを呼ぼうとしたけれど、頭を後ろから殴られて声を出す前に気絶してしまったのである。
起きたらそこは知らない場所だった。
木造りの小さな部屋で窓もなく壁に小さな明かりが付けてあるのみだった。
「クリャウ!」
ミューナもすぐそばにいた。
起きたクリャウのことを心配そうな顔をして覗き込んでいる。
「無事だったんだね……怪我はない?」
「私は大丈夫。それよりクリャウだよ」
「俺は……いてて……」
頭がズキリと痛んでクリャウは顔をしかめる。
大丈夫だと思ったけれど気絶するほど殴られたのだ、大丈夫なはずなかった。
軽く触ってみるとタンコブになっている。
触ると痛いので触らないようにすることにした。
「ここは?」
クリャウが周りの様子を見ると他にも何人か子供が部屋の中にいた。
あまり明るくないので顔色までよく見えないけれどみんな沈んだような顔をしているように感じられた。
「ここは多分……水賊の船の中だと思う」
ミューナも抵抗しようとしたけれどクリャウのことを容赦なく殴る様子を見て、これ以上暴れるとクリャウが酷い目に遭うかもしれないと抵抗を諦めた。
クリャウもミューナも抱えられるように連れ去られて小舟に乗せられた。
川岸から見ていた大きな水賊の船まで連れてこられて、今いる部屋に閉じ込められたのである。
「誘拐されたのか……」
人混みに紛れていたとはいえ誰か見ていたっておかしくない。
なのに他の人は関わり合いになりたくなくて誰も助けてくれようとはしなかった。
誘拐も酷いけど誰も助けてくれないのも酷い話であるとクリャウは思った。
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