払われるべき敬意

「それでこれからどうするの?」


 一緒に行くということは決めた。

 けれどもどこに行くのか、そして行った先で何をするのかクリャウはまだ聞いていない。


 両親がすでにいないことも話した。

 どこへ行こうと誰と行こうとクリャウの自由である。


「私の仲間たちがいるから合流して、私たちの集落に行きましょう」


 ミューナにはケーラン以外の仲間がいた。

 ミューナはタビロホ村に向かっている最中に人さらいにさらわれてしまい、ケーランを始めとする仲間たちで追いかけていた。


 途中までは仲間たちみんなで追いかけていたのだが少し距離が詰まってきたので、中でも実力のあるケーランが速度を上げて追いかけて救い出そうとしていた。

 結果的に先にクリャウが助け出してくれていたので大きな手間もなくミューナは無事だった。


 かなり速度を上げて追いかけたので仲間たちはまだ追いついていない。


「みんなも追いかけてきているはずだからそう遠くはないはずです」


 朝早くにクリャウたちは出発した。

 タビロホ村に行くのは黒い魔力の持ち主を探すことが目的だったのでクリャウを見つけた今ではもう行く必要はない。


 なのでタビロホ村には向かわず逆方向の魔族の集落に向かい始めた。


「本当に俺なの?」


 一晩寝てみても魔族を導くのが自分だとはとても思えない。


「……正直私にも分からない」


 ミューナが困ったように答える。

 占い師による夢の予言によるとクリャウではないかと思う。


 ただ本当にクリャウなのかという確証はない。


「それに……気持ち悪くないの?」


「気持ち悪い?」


「…………スケルトン操ってるし」


 スケルトンは魔物だ。

 その上人の死体であり、そんなものを操っていることに多くの人は嫌悪感を抱くはずだとクリャウは思った。


「気持ち悪くはないかな」


 けれどもミューナはあっけらかんと答える。


「私には……不思議な力があるの」


「不思議な力?」


「魂が見えるの」


「たま……しい?」


「そう。どんな人かまでは分からないけれど魂がどんな状態なのか私には分かるの」


 ミューナの能力がいまいち理解できなくてクリャウは首を傾げる。


「あなたの魂は寂しさや悲しみ、怒りを抱えている……」


「……それは」


 ミューナの言葉にクリャウはドキリとする。

 一人になった寂しさや悲しみがあるし、そして村の人々に対する怒りはまだ消えていない。


「でもちょっとだけ嬉しさみたいなのもあるかな?」


 ミューナと出会えて一緒にいられる人ができた喜びまで見抜かれた。


「みんな色々なものを抱えている……私はそれを見ることができるの。そしてそのスケルトンにも魂が宿っている」


「スケルトンさんにも?」


 魂というものが正確にはどんなものかクリャウは知らないけれどすでに死んでいるはずのスケルトンに魂があると聞いて驚いた。

 思わずスケルトンの方を振り返る。


 スケルトンはただ前を見てクリャウの後ろをついてきている。


「そのスケルトンは進んであなたに協力している。黒い魔力が魂を縛っているのは確かなことだけど無理矢理ではない。スケルトンになってまで何かを成し遂げたいからスケルトンになることを受け入れたようね」


「……どういうこと?」


「……私にも分からない。でも無理に従えていないのなら私はいいと思う。それに敬意を払うべきは魂の方だから」


「うーん?」


「人は体にも敬意を払う。だからスケルトンやゾンビといった魔物に対して大きな嫌悪感を抱く。敬意を払うべき死体が魔物になってしまったから。でも私たち魔族が敬意を払うのは魂の方なの」


「魂……」


「体はあくまでも器にすぎない。だからあなたが骨を操っていてもそれはそれって感じかな?」


 魔力を使って炎を人の形にして操ることと魔力を使って骨を操ることは魔族からしてみれば大きな違いはない。

 スケルトンにはそこに魂が宿っているわけだが、その魂も完全な強制的に従わされているものでもないのなら悪い印象を抱きはしない。


 人間の価値観とは結構違うとクリャウは思った。

 けれどクリャウにとっては居心地の悪くなる価値観ではないので別にいいかと思った。


 自分のことを冷たい目で見ないのならそれでいいのである。


「じゃあスケルトンさんは俺に進んで協力してくれているってことでいいのかな?」


「私が見る限りはね」


「でも何かの目的がある?」


「多分ね」


「俺に何かしてほしいのかな?」


「さぁ? 魂の状態が見えても魂の声が聞こえるわけじゃないからね」


 スケルトンは自分に何を望んでいるのだろうかとクリャウは思った。

 これまで多くのことでスケルトンはクリャウのことを助けてくれた。


 ならばクリャウの方もスケルトンのために何かしてあげたい。


「そういえば黒い魔力が魂を縛っているって言ったよね?」


「うん」


「じゃあやっぱりスケルトンさんは俺が生み出したってこと?」


「多分……そう」


「多分?」


「私も目の前で見たわけじゃないから。でも私の目にはスケルトンの骨の体と魂の間にはあなたが見せてくれた黒い魔力が見える。確かに黒い魔力が骨と魂を繋ぎ止めているのね。元々繋がっていてそこに入り込んだのか……新たに繋げたのかとか……そうした私には分かんないよ」


 ミューナは肩をすくめる。

 黒い魔力がどんな能力を秘めているのかミューナにも分からない。


 スケルトンの魂を見る限り関係はありそうだがどんな関係なのかまでは知らないのだ。


「まあそれでもクリャウの黒い魔力が関わってるってことは間違いないよ! だから何もできないとかそんなこと言わないで自信持って!」


「……う、うん。分かったよ」


 黒い魔力がスケルトンを復活させ、黒い魔力がスケルトンとクリャウを繋いでいるのではないか。

 そうは思っていたものの確かめようがなくて少し不安だった。


 けれどもスケルトンが黒い魔力と関係あると聞いてちょっとだけ安心した。

 ただスケルトンがよく分からない原因で自分を守っているのではなく、自分が魔力を提供してその結果にスケルトンが動いてくれていた。


 自分にも何かできることがあるのだとようやく思えた。


「細かいことはおばあちゃんじゃなきゃ分かんないかな」


「おばあちゃん?」


「あ、さっき言ってた占い師っていうのが私のおばあちゃんだよ」


「そうなんだ」


「おばあちゃんも魂が見える人なんだ」


「へぇ、おばあちゃんの力を受け継いでるんだね」


 ミューナに信託を下した占い師というのはミューナの祖母であった。


「きっとおばあちゃんに会えばいろいろわかるよ!」


 ミューナは屈託のない笑顔をクリャウに向ける。

 何かやれることがあればいいな、ミューナの助けになればいいなとクリャウは思った。

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