魔族の少女5

「そんな……俺はそんなすごい人じゃ……」


 確かに黒い魔力は持っている。

 スケルトンもクリャウには従ってくれている。


 ただ王なんてものになったり魔族を率いたりするほどの力はない。


「いえ、あなたが我々にとっての黒き光なのです」


 クリャウは否定するがミューナは確信を持った目をしてさらにクリャウの言葉を否定する。


「どうか……我々魔族をお助けください!」


 ミューナが頭を下げる。


「……そ、そんなこと言われても」


 助けろと言われたってどうしたらいいのかわからない。

 今のクリャウにできることはスケルトンに命ずることだけ。


 クリャウの黒い魔力を得てようやく戦えるぐらいのスケルトンだけでは魔族など救えるはずがない。


「今はまだお強くあられないかもしれません。ですが人は成長できます。貴方様ならきっと英雄になれるほど強くなれるのです」


「……俺が、強くなれる?」


 使えない魔力だと散々言われた。

 黒い魔力は何もできないのだと石を投げられた。


 そんな自分が強くなれる。

 クリャウは急に胸がドキドキしてきた。


 強くなれるかもしれない。

 たとえ魔族でも自分が役に立つかもしれない。


 何もかも諦めていたクリャウの胸に湧き上がる希望。

 未だに王や英雄などというものになれるとは思わないけれども役に立てる、強くなれるのなら何かしてあげたいと思った。


「俺は……何をしたらいいの?」


「我々を助けてくれるのですか?」


「助けられるか分かんない……でも、できることがあるなら」


 強くなれるのか、あるいは強くなったとして助けるために何をしたらいいのかも分からない。

 でも村の人たちなんかよりはミューナの方がよほど信頼できそうであった。


 今のところクリャウには行くところもない。

 どうせ他の人が助けてくれることもないのなら魔族について行ったって何も変わりはしない。


「ではひとまず我々の集落に参りましょう」


 そういえばとミューナは思った。

 魔族を率いてくれて王にもなれるような存在を探しにきたのであるがどうすればいいとかそんな話は占い師から聞いていない。


 父親である長からはとりあえず連れてこいとだけ言われている。

 クリャウが何をしたらいいのかまではミューナにもわからない。


「でもさ、なんでもいいけどそんな態度はやめてよ」


 クリャウは困ったように笑った。

 ミューナはクリャウと年齢が変わらないように見える。


 かしこまった態度でいられるのも居心地が悪く感じてしまう。


「ですが……」


「いいからさ。俺はまだ君たちを助けてもないし、王でも英雄でもない」


 もしかしたらクリャウが占い師のいう人物では無い可能性もありうる。


「分かりました。じゃあクリャウの言う通りにするね」


 ミューナは同年代らしい言葉遣いに改めてニコリと笑う。


「一緒に来てくれるってことでいいんだよね?」


「うん」


 何ができるにしてもミューナと一緒に行ってみようと思った。


「それじゃあよろしくね、クリャウ」


「よろしく、ミューナ」


 クリャウは照れくさそうに笑う。

 ミューナの強い意思を持った目を見ていると助けたくなる。


 強い意思を持った目で見られて何か言われると自然と自信が湧いてくる気がした。

 そしてニッコリと笑うミューナの顔を見ているとクリャウは少しだけ頬が熱くなるような気がしていたのであった。

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