魔族の少女2
魔族は恨むべき敵であるというのが坊主の男の認識で魔族が欲しいというのはなかなか理解し難い話だった。
だがそこに少女という条件をつけてきたなら疑いようもなく変態だということになる。
「変態だろうが金さえ払ってくれればなんの文句もねえさ」
「俺はあんま変態の仕事はしたくないけどな」
魔族は嫌いでも小さい子供に手を出すのはどうかと坊主の男は顔をしかめる。
別に止める気もないがあまりいい気分ではない。
「お前変なところで真面目だよな」
「お前は倫理観ってもんがなさすぎるんだ」
「はっ、こんな仕事やってて倫理観なんざ説くんじゃねぇよ」
「……まあいい。どうせこのガキは変態に引き渡されることが決まってんだ……」
坊主の男は短髪の男に目を向けて違和感を覚えた。
さっきまではっきりと短髪の男の姿が見えていたのに今はぼやけたように見にくい。
「なあ……うっ……」
「おい、どうした? ……なんだ? 霧か?」
急なうめき声が聞こえて短髪の男も焚き火から坊主の男に視線を移した。
短髪の男も坊主の男が見にくいと思った。
そして坊主の男の胸から剣が突き出していることは見えていなかったのである。
ーーーーー
「はぁ……はぁ……」
気づいたらクリャウは馬車を追いかけていた。
どうしても魔族の少女の強い意思を宿した目を忘れられなくて、どうしても魔族の少女のことが気になってしまったのである。
幸い馬車は歩くペースで走っていた。
なので完全に日が落ちた頃には野営しているところに追いつくことができた。
相手は六人。
うち二人が見張りとして起きていた。
ちょうどクリャウが隠れている草むらに背を向けて二人で焚き火を囲んで何かを話している。
魔族の少女は馬車の中で丸くなるように寝ている。
「まだ俺には気づいてない……いけるか?」
気付かれずに魔族の少女を助けるのは無理だろう。
見張りも交代で行うはずだしみんなが寝るだろうなんてとても思えない。
となると男たちを倒すしかない。
ただクリャウは戦えなく、戦力はスケルトンしかいない。
村ではみんなを倒してしまうほどの力を見せたスケルトンだったけれど、村の大人など基本は戦えないような人ばかりである。
狩りに出ていた大人は少し戦えるけれどもそれだって外の世界で見た時には弱い人たちだ。
それに比べて男たちは装備がちゃんとしている。
体も村人たちよりも鍛えているように見えるし強そうだった。
勝てるのかという思いでせっかく落ち着いてきていた呼吸がまた乱れてくる。
「俺の黒い魔力でスケルトンさんを……黒い魔力……」
クリャウは黒い魔力で包み込まれた自分の手を見つめる。
あまり魔力を放出していないのにクリャウの手はほとんど見えない。
昼間の明るいところだろ黒い魔力で覆っていてもぼんやりと手は見えるのだけど、暗い夜に黒い魔力で覆うと闇の中に溶け込んでしまう。
「これならいけるかも……」
男たちのことを倒せそうな作戦がクリャウの頭に浮かんだ。
「スケルトンさん、あの人たちを倒して。ただし静かにね」
クリャウは黒い魔力を放ってスケルトンに与える。
「全部吸収しないでね」
何回かスケルトンに黒い魔力を与えてみてわかったことがある。
スケルトンはどうやら黒い魔力を吸収して一時的に強くなっているらしかった。
どれぐらい強くなるか、どれぐらい吸収したかによって強くなる時間は変わるようだ。
クリャウは今回あまりたくさん魔力を吸収しないように指示を出す。
すると黒い魔力に包まれてスケルトンの姿はかなり見えにくくなった。
「そして……えいっ!」
クリャウは次に見張りの男たちに向かって手を伸ばして魔力を放つ。
黒い魔力は闇に溶け込みながら男たちに向かっていく。
クリャウにすら黒い魔力は見えない。
魔力を放っている本人だから黒い魔力の存在を感じ取れる。
「スケルトンさん、お願い!」
放った黒い魔力が男たちを包み込み、スケルトンが剣を抜いて動き出した。
黒い魔力をまとったスケルトンは音を立てないようにゆっくりと動き、坊主の男の後ろに立つとためらいなく胸を突き刺した。
坊主の男からわずかに声が漏れるけれど黒い魔力に包まれた短髪の男には坊主の男がどうなっているのか見えていない。
「お、おい?」
スケルトンが剣を引き抜くと坊主の男は力なく地面に倒れる。
状況が分かっていて遠くから見ていると焚き火の光に照らされてうっすら姿が見えるけれど、短髪の男からしてみれば急に周りが完全な暗闇になった挙句音しか聞こえないのだから何も分からないだろう。
剣を引き抜いたスケルトンはそのまま短髪の男の首を切り飛ばした。
「よし……!」
これで見張りはいなくなった。
あとは寝ている男たちだけとなった。
念のためとクリャウは黒い魔力を放って男たちを包み込む。
スケルトンが寝ている男の首に剣を刺す。
「なんだ……?」
刺された男の小さなうめき声を聞きつけた一人が目を覚ました。
「焚き火は……? おい、見張りは何してる?」
目を開けると辺りは真っ暗だった。
男はてっきり見張り番が寝てしまって焚き火が消えてしまったのだろうと思った。
しかしいくら目を凝らしても何も見えない。
月明かりも、星ですら。
「ん? おい……うっ! ……なに……スケルトン…………だと?」
誰かが近づいてきて男は目を細めるようにした。
なんでもいいから明かりをつけてくれ、そんな言葉を口にしようとした瞬間剣を胸に突き刺された。
胸に刺さった剣を見て、刺した相手の顔を確認する。
皮膚も肉もない骨だけの顔が目の前にあった。
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