冒険者をやっているエルフですが、拾った獣人娘が強くなりすぎました

笹塔五郎

第1話 私の威厳が

 少女――リンテ・アルフィエントはエルフである。

 長い金髪に透き通るような白い肌、特徴的な長い耳――その種族のことを知らない者はほとんどいないが、紛れもない希少種だ。

 人里で暮らしている者はほとんどおらず、ほとんどは森の奥地でその生涯を終えるという。

 ただ、他の生物と比較しても圧倒的に長い寿命からか、稀に人里に降りてくるエルフもいるという。

 リンテもその一人であるが――


「ふふっ、師匠は相変わらず小さくて可愛いね」


 リンテの耳元で囁くように、声が響いた。

 思わず、小さな身体がびくんと跳ねてしまう。

 だが、毅然とした表情でリンテは答えた。


「こら、誰が小さい――ひゃっ!? み、耳を舐めるのはやめなさい! 不敬ですよ、不敬っ!」


 エルフにとって長い耳は敏感なところである。

 そんなところを不躾に舌で舐められてしまっては――声を出すな、と言う方が無理な話だった。

 頬を朱色に染めながら、取り繕う様に背後にいる人物を睨みつける。

 ――整った顔立ちをしていて、銀色の髪をした女性の姿があった。

 狼のような耳があって、腰の辺りにはふわふわとした尻尾がある。

 獣人の女性――シェフィ・オルダ。

 もっとも姿こそ大人びているが、彼女はまだ十六歳になったばかり。

 シェフィはくすりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「長くて舐めやすい耳がいけないんだと思うよ?」

「どういう理屈ですか!? この……いい加減に離しなさい……!」


 リンテは必死に抵抗するが、がっちりと腰の辺りに腕を回されて――力ずくでは外すことができない。

 リンテは百年以上生きており、エルフとしては成人を迎えている。

 すでに肉体的な成長は期待できない状態だが、はっきり言えばエルフでもかなり小柄な方になるだろう。

 シェフィと並べば、頭一つ分くらいは差があるだろうか――その分、力の差も大きかった。

 そもそも、獣人は他の種族と比べても身体能力が高いというところもある。

 それ以上に――シェフィが特別とも言えるが。


「そんなに暴れないでよ。まあ、師匠の抵抗は可愛いものだけど」

「……っ」


 挑発的な物言い――だが、リンテは必死すぎてろくに言い返すこともできない。

 彼女の言葉通り、リンテはシェフィの師匠という立場にある。

 主に剣術を中心に、彼女には戦い方を教えてきた。

 そうして成長した彼女は――色んな意味でリンテの予想を超えて成長した。否、成長しすぎてしまった。

 今では剣術においても互角かそれ以上――当然、命のやり取りなどしたことはないが、十分すぎるほどに彼女は強くなってしまった。

 リンテも鍛錬を欠かしたつもりはないが、これが生まれ持っての才能の差なのだろうか。


(こ、このままでは師匠としての私の威厳が……っ)


 リンテが一番焦っている点は、そこにある――特にここ最近、目覚ましい成長を遂げているシェフィが、リンテをまるで妹のように扱っている。

 ――実際のところ、妹というにはややスキンシップが激しすぎるとも言えるが。


「はあ……はあ……」

「息切れするくらい暴れなくてもいいのに」

「だ、誰のせいだと……! 今日はこの後、仕事があるんですよ。いつまでも抱き着いてないで準備をしなさいっ」

「うん、もう少しだけ師匠を堪能したら準備するよ」

「ま、まだ続ける気ですか……? もう好きにしてください――」

「え、いいの? 私の好きにしても?」

「! ダ、ダメです! 抱き着くだけなら許可しますが――あっ、だ、だから、耳を舐めるのはやめなさいっ!」


 再び、最後の力を振り絞って抵抗するが――結局、シェフィが満足するまで終わることはなかった。

 これが――冒険者として『Sランク』という高位に位置しているリンテ・アルフィエントと、冒険者となってわずか一年で『Aランク』にまで上り詰めたシェフィ・オルダの日常である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る