32.「作戦の経緯」

「で、何がどうなってるんだ?」


 テーブルについたヴァラギス、レン、そしてジーンを前に、腕組みをした俺は問い詰める。


 気まずそうにしている三人の中、ジーンが口を開いた。


「実は――」

「大体、てめぇが悪いんだろうが!」

「ヴァラギス、ややこしくなるから、ちょっと黙って下さる?」


 俺に突っ掛かって来たヴァラギスだったが、嫁にピシャリと言われると、「う……」と、言葉を失くし、一瞬でしゅんとする。


 「まぁ、でも、彼が言いたい事も分からないでもありませんわ」と肩を竦めたジーンは、言葉を継いだ。


「だって、今回の一件は、〝ラルドさんに本当の気持ちを言わせよう大作戦〟だったのですから」

「俺に? 本当の気持ちを?」


 眉を顰める俺に、レンが横から口を挟む。

 

「あたしがお願いしたの!」

「!」


 「あたしが……」と、再び呟いたレンは、経緯を説明し始めた。


※―※―※


 事の発端は、俺が全然レンのアピールに気付かなかった事だという。

 どれだけ必死に訴え掛けても、全く響かない俺に、レンは不安になっていた。


 そこで、何度もうちの店に遊びに来ていたジーンに相談した。

 すると、ジーンが言ったのだ。


「このままずっと、気持ちが伝わらず、何も進展が無いままで良いんですの?」

 

 と。


 「良くない!」と、レンは、ジーンが驚く程に、必死に答えた。

 唇を噛みながら。


 そのような経緯があり、彼女たちは、作戦を立てる事にした。

 まず二人が計画したのは、〝レンの告白大作戦〟だった。


 デートをして、その帰り道に告白する。


 〝スライム兄妹とドラゴン幼馴染たちのその後の様子を見に行く〟という名目でのお出掛け。

 あれが、その決行日だった。


 出来れば、はっきりと伝えた方が良いとジーンは言った。

 が、恥ずかしがり屋のレンにとっては、あの〝夕陽の照らす山の上での会話〟が、頑張れるギリギリだった。


 だが、そこまでしても、俺はレンの気持ちに気付かなかった。

 そこで、レンたちは、最終手段に出た。


 それが、今日のこの一件。

 〝俺に告白させる作戦〟だった。


※―※―※


「そうだったのか……全然気付かなかった……」


 話を聞き終わり、ポツリと呟く俺に、レンは「だと思ったわ」と、溜息をつく。


「っていうか、ヴァラギス。お前、変身なんて出来たんだな」

「以前言っただろ? 〝俺様の能力は特別だ〟って」

「いや、いくら何でも特別過ぎだろ。俺の〝ステータス眼鏡〟の力を弾くって、よっぽどだぞ? だってこれは、俺が女神から貰った〝特殊スキル〟で創った眼鏡なんだからな」


 俺の指摘に、ヴァラギスは「ハ!」と、嘲る。


「別に〝女神の特殊スキル〟は、てめぇの専売特許って訳じゃねぇだろうがよ!」

「いや、専売特許みたいなもんだろ。だって、俺以外にそんな物持ってる奴なんて――」


 と、そこまで話して、俺は〝ある可能性〟に思い至った。


「お前……まさか、異世界転生者なのか……!?」


 目を見張る俺に、ヴァラギスは――


「それしかねぇだろうが」


 ――鼻を鳴らした。

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