第16話 ラウラ、第一王子と再会する
「イザーク王子、デニスさん、おはようございます!」
「ラウラ、おはよう」
「ラウラ嬢、おはようございます」
「ラウラちゃん、おはよう」
ある朝、いつものように執務室に出勤して挨拶すると、イザーク王子とデニスさん以外の声が聞こえてきた。
「……アロイス王子!?」
なんと、執務室には第一王子でイザーク王子の兄であるアロイス王子がいた。
今日も朝からとてもきらきらしい。
「ラウラちゃん、そのブルーのドレス似合ってて可愛いね」
「ありがとうございますどうしてこちらに?」
女たらしのアロイス王子のお世辞は適当に流して、なぜここにいるのか尋ねる。
アロイス王子は、イザーク王子の顔を横目で見てプッと噴き出した。
「ちょっとドレスを褒めたくらいで怖い顔して、本当に面白いなイザークは」
「うるさい」
「ええと、僕がここに遊びに来た理由だけど……」
「大事な用事とかじゃなくて遊びに来ただけなんですね」
「うん、そうだよ。だって、最近の君たちが何だか楽しいことになってるみたいだから」
私とイザーク王子のうんざりした様子に気づきながらも、全く悪びれることなく楽しそうに笑うアロイス王子。イザーク王子がじろりと睨む。
「兄上、まさか俺たちのことを覗き見てるわけではないだろうな」
「えっ、やだなあ。僕がそんな出歯亀みたいな真似をするように見える?」
「見えるから言っている」
イザーク王子が淡々と返すと、アロイス王子はやれやれとでも言うように肩をすくめた。
「まあ、どう思われても僕は構わないけどね」
あ、これは覗き見てるな、と思った私に、アロイス王子の視線が向けられる。
「ラウラちゃんはさ、僕が思うに当初の予定より長く王宮にいることになっちゃったんじゃないの?」
「えっ、あ、まあ……それはそうかもしれません」
アロイス王子の言うとおり、最初はヴァネサが前金を持ち逃げしたことをイザーク王子に素直に謝って許してもらい、それから王都を少しだけ観光して帰宅するつもりだった。
だから、今こうして王宮で侍女として働いているのは完全に想定外だ。当初の予定よりずいぶんと長居してしまっている。
私の返事にアロイス王子はうんうんと笑顔でうなずくと、そのままイザーク王子のほうを振り返った。
「イザークも聞いただろう? 一度ラウラちゃんを里帰りさせてあげたほうがいいんじゃない? きっと荷物も不十分だろうから、必要なものもあるだろうし」
「必要なものは俺がすべて用意する」
「そういうことじゃなくてさぁ。あ、もしかして、そのままラウラちゃんに逃げられると思って怖いのかな?」
「……そんなことはない」
「束縛の強い男は嫌われるよ? ねえ、ラウラちゃんは一度おうちに帰りたくない?」
なぜ私の帰宅で揉めているのか、なぜイザーク王子がショックを受けた顔をしているのかは分からないけれど、家に帰りたいかと尋ねられれば、答えは「はい」だ。
「そうですね……。ほとんど何も持たないで出てきてしまったので、帰れるなら家からもう少し物を持ってきたいですし、家の掃除もしたいです」
せっかくなので要望を伝えてみると、アロイス王子が「ほらね」という顔でイザーク王子を見る。
「……分かった。一時帰宅を許可する」
「いいんですか? ありがとうございます!」
言ってみるものだなぁ。アロイス王子もたまには役に立つのね。
なんてことを考えていたら、イザーク王子が「ただし」と続けた。
「俺も一緒に行く」
「えっ、イザーク王子も一緒に!?」
部下の帰宅に上司がついてくるなんて、おそらく普通ではないと思う。
デニスさんも何も言わないけれど「正気ですか?」みたいな顔で固まっている。
「あの、もし私が逃げるかもしれないと思われているなら、大丈夫なので安心して……」
「そんなことは思っていない。思っていないが……ほら、なんだ、お前の家に例の問題を解決する鍵が隠されているかもしれないしな」
「あ、なるほど!」
そうか、イザーク王子はヴァネサの家なら、魅了魔法を解くヒントが見つかるかもしれないと思っているのだ。
それならやはり一緒に来てもらったほうがいいだろう。
(もしかしたら、本当に思い込みが解けるかもしれないし)
……そう思ったら、少しだけ胸が痛んだ気がした。
どうしたんだろうと胸に視線を落とすと、アロイス王子の朗らかな声が聞こえて、私はハッと顔を上げた。
「どうやら話がまとまったみたいだね」
「……ああ。忠告、感謝する」
「どういたしまして。あと、イザークはもっと素直になったほうがいいと思うな。じゃ、二人で楽しい里帰りを!」
アロイス王子はそう言うと、笑顔で手を振りながら部屋を出て行った。
「本当に遊びに来ただけだったんですね……」
「そうだな……」
アロイス王子の相手をするのはちょっと疲れたけれど、おかげで一時帰宅できることになった。
そのせいでイザーク王子やデニスさんに迷惑をかけないためにも、いろいろ前倒しで終わらせなくてはと、私は気合いを入れて仕事を始めるのだった。
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