第38話:メテオールさんは厄介です
「だー! もう!」
「謝罪」
で、草原エリアの二階層。俺はそこでヘルハウンドの大量発生に巻き込まれていた。ほぼ草原エリアの全域にヘルハウンドが発生。そうして俺に近しい個体から立て続けに襲ってくる。
「――冷氷凍寒――」
その悉くを俺は凍らせて砕いていた。
原因はメテオールによる隠し扉の発見だった。でいつものようにあっさりとスイッチを押し、ヘルハウンドの大量発生に至る……というわけだ。
「なんデスのー。これ!」
四方八方から炎が迫る中。悲鳴じみた声が聞こえる。とはいえ、今のダンジョンには素人はいない……はずだ。最低でも乙級。というかあくまでそれは日本だけの采配だったか。
「――冷氷凍寒――」
周囲から襲ってくるヘルハウンドを凍らせて、俺は悲鳴の方へと走る。それはメテオールも同じだった。
「助けられるか?」
「簡単」
だったら任せるか。
メテオールは右手の握り拳から親指と人差し指を伸ばす。指鉄砲と呼ばれるアレだ。で、その人差し指の先から圧縮されたアルカヘストを放出する。それはウォーターカッターのように水平にヘルハウンドを切り裂き、殺し能う。とはいえ圧縮されたスピードは然程でもない。ただアルカヘストの溶解力をもってすれば、細く延びた水の糸は何者を切り裂く魔剣へと変貌する。
「大丈夫か?」
で、引き続きヘルハウンドを殲滅しながら、俺は襲われていた相手に声をかける。コレは流石に人間にしかできないだろう。
「あなたは?」
「しがないハンターだ。お前もだろ?」
「チャイムと申します。助けてくださったことにお礼を申し上げますデス」
「ああ、俺は……」
御影マジナ……と答えようとして、それでは支障があると判断。俺は襲い来るヘルハウンドを蹴り殺し、そして名乗る。
「アルテミストだ」
「はえ?」
ポカンとするチャイム。何かマズいことでも言っただろうか。
「とにかく今はヘルハウンドを殲滅するぞ」
俺は手のひらを振る。その延長上にいるヘルハウンドをポイント。
「――冷氷凍寒――」
瞬く間に凍らせて駆逐する。チャイムも結構なモノだった。さすがに肥大王が横行している今のダンジョンにいるのだ。相応の腕は持っているということだろう。
「はーッッッ」
で、殲滅が終わった後。俺を見て目をキラキラさせているチャイムさん。俺は何かヘマでもしただろうか?
「その。アルテミストって日本の甲級の……」
「さいですな」
知ってはくれているらしい。
「噂ではダンジョンを攻略したことがあるとまで」
あー。なんと答えたものか。偽ってもいいのだが。どこでボロが出るかもわからん。
「サインくださいデス!」
で、俺の色紙を差し出すチャイム。
「サイン?」
「ファンデス! サインください!」
「いや。そういうサービスは……」
「家宝にしますので!」
「そもそもサインを書いたこともないんだが……」
「名前を書いてくれるだけで結構デスので! あ、出来ればチャイムちゃんへ、と一筆入れてくれると嬉しいデス!」
はあ?
色紙とペンを渡されて、俺は仕方ないのでペンを走らせる。アルテミスト、と書いて、隣にチャイムちゃんへ、と記す。
「嬉しいか?」
「子孫代々伝えますので!」
そんなに嬉しいのか。俺にはわからない世界だ。
「マジナ。下降」
で、メテオールが下への階段を見つけたらしい。三階層。そこに向かう。
「あの。アルテミスト様?」
「なんでしょう」
様付けで呼ばれるとかなり抵抗があるのだが、今更幻滅させてもアレなので。
「アルテミスト様も肥大王を?」
「そうだな。討伐に来ている」
「ではご一緒しませんか? わたくしも戦力になりますデス」
手に握っている剣を振って、懐いた子犬のように見えない尻尾を振るチャイム。たしかに戦力は多い方がいいのだが。
「俺に任せて適当に時間潰していてもいいんだぞ?」
「アルテミスト様の活躍を見てみたいデスわ」
然程でもないんだが。
で、仕方ないので一緒に下降する。というか階段まで歩く。
「…………」
チャイムは言ってしまえば愛らしい女の子だった。おそらく日本で言う乙級程度の実力は持っているだろう。だから肥大王の駆逐作戦にも駆り出された。ブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳。典型的な白人種。プロポーションも……とそこまで考察して自重する。ありていに言えばセクハラだ。
「停止」
「何か?」
で、メテオールがいったんストップを提案してくる。俺が首を傾げると、ニュルリとスライムに戻って床の隙間から隠し部屋へと侵入するメテオール。あー。つまり隠し部屋を見つけたので……というアレ。猛烈に嫌な予感がする俺。もちろんメテオールは期待を裏切らない。
「なんですか。さっきの女子。スライムになりませんでしたデス?」
「スライムだからな」
「でもおっぱいの大きな女子でしたデスよね?」
「否定も難しいんだが」
さて何と説明したものか。俺が悩んでいると、ゴゴゴと隠し扉が開く音がして。中からトロールが現れた。青い筋肉でムキムキのビルダー体形をしている身長十メートルを超える超人だ。正確には亜人種。手に持つ棍棒で人間を殴り倒すことを本業とする悲しい習性を持つ。
「これだからメテオールは……」
こうなるだろうな程度の危機感は俺にもあった。とはいえ、その危機感で現状がいい方向に作用するわけもないのだが。トロールは膂力が強く、耐性も備え、ついでに再生能力も高い。不死とまでは言わないが、一般的に死に難い。殺すなら頭部を一撃で。
次々と隠し扉から押し寄せるトロールは全部で二十体。その先方を俺は蹴り砕く。一匹目を蹴り殺したことで、相手側も俺を警戒する動きを見せたが、それによって防衛反応が消えたわけでもない。
「グアアアァァァ!」
次々と襲い来るトロール。さてどう殲滅したものか。悩んでいる俺の隣でチャイムが駆けだした。こっちに向かって。手に持つ剣をかざしてハンターらしく勇猛に。
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