続・踏んだり蹴ったりの男
そんなこんな、深く考えずに最寄りのインターを目指し、東京方面の高速に乗った。
……しかし後々、これが大きな間違いだったと気付くことになる。
首都高。
ひとことで言えば「ギャー!」だった。
普段から車には乗り慣れている。けれど、それは地元・茨城での話だ。
茨城県内、特に平野部は、道幅も広く走りやすい道路ばかり。しかも、うちの近隣は自動車天国と揶揄されるような車社会である。
世界が違う。
東関道で千葉県内を走っている間は、めちゃくちゃ快適だった。
というか成田や千葉あたりは割と行くし、慣れたエリアでもある。歌いながら走るのも全然余裕。
しかし『市川』の文字が見え出したあたりから、ふと「大丈夫かな」という不安が芽生えた。
ナビに従ってここまで来てしまったが、プライベートでも出張でも、都心へおもむく際には、通常であれば高速バスを使う。
なにげに、東京まで自分で運転してくるのは初めてだ。
『慣れたドライバーでも油断できないのが首都高』
そんな言葉が頭をもたげる。
無機質に「首都高」コールをするナビに「俺、首都高乗って大丈夫?」と問いかけるも返事無し。
まあ、そうは言っても、首都高は主要な幹線道路。必要以上に怖がることはない。交通ルールを守って、落ち着いて運転すれば大丈夫……のはず!
…………。
……完全にフラグだったわ。
首都高に入ってからというもの、ずっと生きた心地がしなかった。運転席で「ギャー!」の連続である。
思い出すともう、なにかの訓練だったんじゃないかってレベル。
情報量が多すぎて脳が処理を放棄した結果、ほぼ反射で運転していた。自分すごい。よく事故らなかったし、よく生きてた。こわい。もう絶対一人で首都高乗らんとこ。
まあ──ただ、流石にこれ以上の試練はないだろう。はやく飯田さんにプレゼント渡し終えて、おうちにかえりたい。
──しかし、無慈悲にも、次なる試練が僕を待ち受けていた。
駐車場問題。
お気付きだろうか。僕は普段、出掛けるときに逐一駐車場の心配などしない地方民である。
したがって、完ッ全に頭からすっぽ抜けていた。
でもまあ、探せばどこかしら空いてるよね。時間的にも、かなり余裕持って出かけてきたし。
と、この時はまだ甘い考えを持っていた。
しかし。
「死んだ……」
どこもかしこも満車の表示。
満車、満車、満車地獄。もう完全に、死。人生詰みま死た、皆さんほんまにありがとうございました。
そのうえ東京駅付近は一方通行だらけだし、生身の人間がいっぱいいるし、時間ばかりがどんどん食い殺されていく。
こんなの誰が想像したでしょうか。まだ飯田さんの顔を見てすらいないのに、こんな修羅場が待ち構えてるなんて。
命からがら、やっとこさ「空」の文字を見付けたときには、あまりの感動に涙すら出た。狭い立体駐車場だったけど、駐車できただけで奇跡だ。
田舎住みからすると駐車料金は目ん玉飛び出るほど高いけど、背に腹はかえられない。
だがしかし。
未冬さんに言われていた17時には間に合いそうもない。
飯田さんのことだから、少しくらい遅れても機嫌悪くなったりはしないと思うけど、それでも迷惑をかけてしまうことに変わりないし。
──ていうか未冬さん、僕を困らせようと思ってわざと送り出したのでは?
急ぎ目的地へ向かいながら、ぐるぐるとそんな疑念が渦巻く。
飯田さんのお祝いをしたいって気持ちも嘘ではないんだろうけど、どうもそれだけじゃない気がする。
……たぶん、僕のことをしばらく家から追い出したかったんだろう。
思い当たる理由とすれば、やはりこーくん。
未冬さんの『こーくん大好き』は、一向に構わないのだが。
だからって、
でも、一番どうしようもないのは、そんな未冬のことが好きで好きでたまらない──僕自身なのかもしれない。
……で、諸々の試練をクリアして、いざ飯田さんに会えたかと思ったら、鬼のように詰められるわ、謎にお金突っ込まれて追い出されるわで、散々な目に遭った。
僕も悪かった。飯田さんのことをお待たせしてしまったわけだし。
でも、気遣いのつもりで用意したディナー代を雑に叩き返されて、「いいから帰れ!」って。
断固とした、拒絶。
──流石に傷付いた、あれは。
昔の飯田さん、あんなに感情出すタイプの人じゃなかったと思ったけど。
はあ……。
とりあえずまだ夕方だし、航へのおみやげでも買っていこうかな。東京駅地下のピコモンストアって、ベビー向け商品も置いてあったっけ。
まあそうでなくても、自分用のピコモングッズも見たいし……。
うん、とりあえず行ってみますか。
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