第24話 救助される
「ありがとうリカ、助かったよ」
「んーん。それは私のセリフだよ。先生がいたお陰で怖くなかったもん。それにとってもカッコよかったよ」
「あれは……自分でも無茶をしたと思う」
相性の良さがたまたま噛み合っただけだ。
そもそも能力の大半は妹の心臓に捧げている。
妹のためにもあんな無茶は避けねばならない。
「あはは。そうかもね。でも本当にありがとう。感謝の気持ちは本物だよ」
リカが両手をぎゅっと握る。
髪型はいつもと違うし、ドレス姿なのもあって印象が変わって思わずドキドキしてしまった。
「もしかして先生照れてる? 可愛い」
「うるさい。リカだって疲れてるだろ。早く家に戻って休むんだ」
「あはは、怒られちゃった。分かった。言うことを聞いて休みます。またね、先生」
「ああ、またな」
リカが離れる瞬間、顔を近づけて右頬にキスをしてきた。
完全に油断していたので反応できずにそれを許してしまった。
「リカ!!」
「ばいばーい」
手を振りながらリカはいなくなった。
こんな時までからかってくるとは、油断も隙もない。
「どう思う、姫ちゃん」
「こんな女たらしだったなんて……幼馴染としてどうかと思う。ちょっとショック」
「何だお前たち……いたのか」
「いたのか。ですって橘内さん」
「我々なんて眼中にないってことかなぁ。これでも結構可愛いと思ってるんだけど」
「何の話をしているんだお前たちは。ほら、あんなことがあったんだからさっさと送って貰え」
シッシッとあしらうと二人してブーイングをしてくる。
あっという間に仲良くなったなこの二人は。
「カズヤ君、話してるところ悪いが来てくれ」
「はい、今行きます。それじゃあ気を付けて帰れよ」
「そうする」
「はーい」
警備員の仲間に呼び出されて、二人と分かれてそっちへ向かった。
「無事なやつは皆集まったな。朋畑さんたちはそのまま入院した。朋畑さんは重症だったがさすがは頑丈な人で命に別状はないらしい。なので俺が代わりにまとめさせてもらう。今日は一先ずこのまま解散する。状況確認のために協会から呼び出しを受けると思うがなるべく協力するように。カズヤ君は臨時雇いだったな。君も同じように頼む。給料は今振り込んでおくから確認してくれ」
「分かりました」
内心ほっとする。
こんなことがあったのだから下手したらタダ働き……いやむしろ罰金まであるかと思っていたのだ。
端末を確認したらキチンと入金されていた。ありがたく受け取る。
「制服は本来は即時返却なんだが……今デパートは治安部隊が中を調査して入れなくなったからな。悪いがクリーニングして後日輸送するなり持ってくるなりしてくれ」
「なるべく早い方が良いですよね」
「そうしてくれ」
「分かりました。お疲れさまでした」
頭を下げる。
すると肩を叩かれた。
「正直あの親子が危険に晒された時は咄嗟に動けなかった。だから君がしたことは本当に勇気があることだ。よくやってくれた。あんな状況で死者が出なかったのは君のお陰だ」
「体が勝手に動いたんです」
「君は警備員に向いてるよ。もし就職したくなったら相談してくれ」
「ありがとうございます。名刺貰います」
名刺を受け取る。
折れたりしないように大事にしまった。
選択肢が増えるのは良いことだ。
こんなことがあったとはいえ、協会よりは安全な仕事だろうし。
妹の容態が心配だ。
回復したとは聞いたが自分の目で見ないととても安心できない。
病院の場所は聞いておいたので警備員の服のまま向かう。
荷物はどうせ今日は回収できないし構うまい。
身体は疲れていたが、それでも走る。
病院に到着したが受付時間は終了していた。
だが協会と関わりのある病院だからか家族であることを告げると特別に許可してくれた。
病室へと向かう。
個室に入院していた七瀬の寝顔を見て、ようやくホッとした。
能力が元に戻った瞬間、もう二度と会えないかと思ったが取り越し苦労で済んだ。
静かに寝息を立てている妹のほほをそっと撫でる。
思い返せば能力が戻ったのはあまりにもタイミングがよすぎた。
妹に一体何があったのだろうか。
だが今はこうして無事な姿を見れただけで満足だ。
そのために生きているようなものなんだから。
あっという間に面会時間が過ぎて病室から追い出された。
仕方なく汚れた警備服のまま家に帰る。
今日は疲れた。とにかく泥のように眠りたい。
ああでも、妹の様子も見に行かないと……。
カズヤが眠りについた頃、廃工場の工場内でジェスターが腰を下ろしている。
落下の衝撃を鉄化する能力で乗り越えたものの、ショックが大きく無傷とはいかなかった。
「ボス、どうします? トージェンの奴も捕まったみたいですし」
「すぐに俺を追いかければ良かったものを。あの場に留まったら捕まるのは当然だ。しかし磁力の能力を持つ人間がたまたま紛れてるとはついてねぇ。それなりの準備と金をかけたっていうのに成果なしか」
「スポンサーの連中からひっきりなしにメールが来てます。ちょっとやばいですね」
「ふん。放っておけ。どうせ実行するには俺たちみたいな人間が必要なんだ。あいつらは椅子に座って指示するだけしか能がない連中だよ」
「違いねぇです」
一緒にいる男はジェスターの命令で通信室を占拠して通信妨害を行っていた。
ジェスターがカズヤに負けるやすぐに通信室から脱出し合流していたのだ。
「とはいえしばらくは協会の連中が煩く嗅ぎまわってくるだろうな。連中が思ったより応じるのが遅かったのが計算外だった。企業群の上層部も何人か人質にしたはずなんだが、それぐらいじゃ動じないらしい」
「やつらにとっては上層部ですら重要ではないんですかねぇ」
「どうかな。壁の外に何があるのかは連中しか知らないが、別にたいしたものはないだろうに。なぜそんなにひた隠すのか分からんな」
「色々理由があるんだよね。あんたたちには分かんないかもだけど」
「誰だ!?」
ジェスターが勢い良く立ち上がり、声の方へ振り向く。
そこにいたのはドレス姿のリカだった。
ヒールは邪魔なのか脱いで左手に持っている。
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