14歳 春
第2話 深い森に住む魔女
『すみません……魔女様……』
化け物やら人殺しと散々罵られる日々の中で、初めて心をひらいてくれた騎士がいた。
かつて国の王子に呪いをかけ、大罪に罪に問われた魔女を監視するよう命じられ、囚人魔女とともに深い深い森に送られた何人目かの騎士のひとりだった。
『あなたのことは、怖くありません……恐れることなど何もない……でも、この森に入った途端、生きる気力を奪われるくらい恐怖にかられるんです』
申し訳ない……と何度も繰り返したあと、彼はむせ込み、苦しそうにして意識を失った。
彼なりに必死に明るくしようと努力をしてくれていたのだと思うけど、結局彼も他の騎士同様に体調を崩し、魔女のいる森から去ることになった。
残された他の騎士も気が動転したように奇声を上げる日々が続いたため、精神的な異常と判断され、王家の迎えに来た場所に詰め込まれて同じく森から姿を消した。
あれから何日経っただろうか。
他の騎士が送られてくる気配はない。
幾度となく変わりゆく騎士たちだったが、一日と日を空けることなく新しい騎士たちが送り込まれていたというのに。
今は人の来る気配さえなかった。
今さら気にはしないし、逃げようとも思っていない。それほどの力もないし。
なにより、このままでも問題なかった。
朝か昼かもわからないどんよりした空が広がり、カーテンを閉める。
もう少し寝ていたかったけど、満月の夜が近い。
何も食べていないとなると、またあの人に怒られてしまうから、仕方なく布団から抜け出し、リビングの棚を漁る。
いつぶりに起き上がっただろうか。
久しぶりにひんやりとした地に足をつけたらくらっと視界が揺らいだ。
手探りで探す棚に違和感を感じて覗き込むと何も入っていなかった。
騎士たちがいなくなってから、あれから王宮からの定期便が届いていないことを思い出し、さすがに何も食べなかったらいくら魔女とはいえ、死んでしまうのではないかとほんの少しだけ怖くなった。
誰も気づかないかもしれないし、それが一番平和でいいのだろうけど……と、ふと開くはずのない扉に希望を持つ自分が嫌いだ。
いつもあるはずのない想像をしては、頭を振る。
わたしには、幸せな未来なんてやってはこないのに。
そのくらい重い罪を犯している。
望むべきではない。
そんな資格はない。
わかっているのに、夢を見てしまうことはあるのだ。
いつかの未来、生まれ変わることが許されるのならあの扉が開いて、わたしを大切だという人にここではないどこかへ連れて行ってほしい。
人の一生を台無しにしておいて、厚かましいにもほどがある。
受け止める覚悟はしている。
ゴソゴソとさらに奥に手を突っ込み、棚の奥にしまい込まれていたビニール袋を取り出す。
いつのものかは分からないが、パンの切れ端がいくつか入っていた。
カビている様子もないし、大丈夫だろう。
お腹は空かないものだと思っていたのに、手にした途端、お腹がぐうっと鳴った。
心はいつも終わりの時を覚悟しているというのに、わたしの身体はまだ生きる希望を探していて、そんな自分に嫌気が差していた。
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