ラメント

@Dante-g

L-01 苦痛を受け入れるための雑劇

笑顔のピエロ やあやあ隣人さん。昨日からはお久しぶりですねぇ!


 泣き顔のピエロ これはこれは他人様。今日は、はじめましてですね。


 笑顔のピエロ 所で隣人さん。聞きましたか?今宵また、私たちの展覧会に人が来るそうですよ!


 泣き顔のピエロ おや、またどなたかいらっしゃるのですか?皆さん、飽きませんよねぇ。この展覧会を彩る色は日常のそれとはかけ離れています故に奇異怪々でございます。ええ、それは認めますとも。

ですが、いくらそうとは言え連日連夜押しかけて頂くのはご勘弁願いたいものです。


 笑顔のピエロ わかってませんねぇ!隣人さんは!

絵画の中に、日常ではお目にかかれないような色が見えるから、皆さん挙って来るんですよ!蓋し人という奴は、ありもしない夢で!空想で!己を酔わせるのが大好きですから!


 泣き顔のピエロ わかりました。わかりましたとも!

皆さん、夢というやつが、空想というやつが大好きだというのは、耳が酸っぱくて涙が出るくらいに聞き飽きましたよ。展覧会を彩る絵画は、それもこれも空想に夢に陶酔に。そんな、人が好む素材をふんだんに使った名酒。大酒飲みの皆さんがそれを湯水の如く呑んで酔っ払って、文字通りに自分の体から現を抜くのがお好きなんですよね。


 笑顔のピエロ ええ!ええ!そうですとも!

そして、私はそんな方々が鏡に写ったご自分を見て「おい、君!なんなんだねこの絵画は!じっと止まることも出来ない、堪え性のない絵画もここにはあるのかい?」と言ってらっしゃる所を笑いながら見るのも、「いやいや旦那様!よく見てください。これは貴方ですよ!ア•ナ•タ!鏡と絵画の区別もつかないなんておバカさんですねぇ!」と笑いに変えて差し上げるのも、だあい好きなんですよねぇ!


 泣き顔の裏でほくそ笑む道化 そんなことを言う他人様こそ、酔っている自分が鏡に写っているのを、ある種の絵画として見て、楽しんでいらっしゃる。それもこんな道化を演じながら!

あー可笑しい!……私とは大違いですねぇ!


 笑顔を縫い付けられた愚者 そんな隣人さんは、鏡と絵画の違いをわかってらっしゃる!適度に楽しまないと、自分までもが絵画の中のモナリザを作る一つの色でしかなくなってしまう!酔わぬは空気が読めず、酔い果ててしまえば阿呆と変わらぬと言うのに、そこをきちんと抑えて上手に楽しんでいるようですねぇ!

あっははは!……俺とは大違いだ。


 泣き顔の裏でほくそ笑む道化 観衆の皆さんもそうですよねぇ!自分の現実に納得がいかない!鏡の中の虚像なんて信じるに値しない!そうお考えだから!我らの演劇を、自分よりも惨めで、気が狂っているような我らの演劇を、名酒の如く甘美な、造られた現実という名の絵画を見て、自分を絵画の美人の隣に立たせる方が心地よい!そうですよねぇ!!


 笑顔を縫い付けられた愚者 ですが、そんな皆様の持ってきた空想が、夢が、妄想が、虚実が、ここではホンモノとなるのです!私たちはそんなガラクタから名画を造る天才ですから!どんなに汚い色でも「見るに堪えない醜悪」というタイトルをつければ!途端にただ美しいだけに終わらない名画になりますからねぇ!!


 廃都のどこか。肉塊と人形が観衆として舞台を見守る中、二人の道化は演劇を続ける。狂気から目を背けるために。狂気に呑まれぬように。―この様子を見る限りだと既に狂っているだろうけど。

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2024年12月1日 07:00

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