手応え

「中山競馬第11レースの払戻金額をお知らせ致します。単勝〜…」


競馬中継の画面にレースを終えて結果が確定した、京成杯オータムハンデの払戻金額を伝える映像と音声が流れている。


結果からいえば、トキメキは14頭立ての6着だった。競馬場では昔から、コース内にある大きい電光掲示板(場によってはオーロラビジョンとも)に、1着〜5着までの馬の馬番が表示されるのが通例となっている。それはテレビ中継等がない時代からだ。

そしてそこに乗れなかった馬の成績をまとめて「着外」「着外になった」等という言い方をする。なので今回のトキメキは「ギリギリ着外」だ。何だか聞こえは良くないし、6着でも14着でも着外にまとめられてしまうのも含め、この時はちょっと不服に感じたりもした。


私は基本的に馬券を買うわけではない。なので馬券的な狙いなどを伝授してくれるような「予想理論」や、それを生業としている人物等にも殆ど興味がない。でも1人だけ注目している著者がいて、その人が書いた本はなるべく買うようにしている。彼は北海道出身のライターで、実は一回だけ街の呑み屋でお会いした事がある。少し気難しくも雰囲気のある「イイ男」であった。


でもやはり少し変わっていて、配当等には一切興味が無いらしく、男磨きに近い感覚で競馬に取り組み、楽しんでいるのだとか。そんな唯一、私が競馬著者界隈で気にかける、ある意味「推し」であるところの彼が、以前著書でこう述べていた事があった。


「ノド鳴り手術明けのレースにおいて、結果が着外だろうが何だろうが「4コーナーの手応えが抜群だった」馬の、次走以降に注目せよ」


ここで云う「手応え」とは、4コーナー(最後のカーブ)における鞍上(騎手)の姿勢の事だ。馬の速度を上げる時の「アクセル」として、又は疲れかけている馬を奮起させようとする時の「叱咤」として、騎手は「追い」といわれる動作を馬上で起こす。


これの裏を返すと、最後の第4コーナーを追わずに他の馬より早く走れている=スタミナや気持ちにまだ余裕があるということ。そして第4コーナーを抜けた後に待ち受ける、最後の直線における展望も良好である=「手応えがある」という表現になり、競馬ではとてもよく使われる、良い意味での例えだ。


私は彼の教えを思い出し、物凄く「ワクワク」した。それは勿論このレースでトキメキが、第4コーナーを抜群の手応えで駆け上がって来たからに他ならない。圧勝するんじゃないかと思わせるほどの「唸る」ような走りで。


そのワクワクであるところの興奮は、トキメキが次走以降に人気薄で激走し、「高配当の使者」となる事を夢見た「馬券」ファン達の興奮とは、毛色が少し違うのかもしれないけれど。

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