第2話 第三皇子
私が産まれる数年前、異国の姫が、この国の皇帝に嫁いできた。当時、後宮に入る輿入れの行列がたいそう派手にあったそうだ。それは、国をあげての一大行事であり、たくさんの民衆が我先にと、その姫を見るために道端に押し寄せて警備がとても大変なことになったと言われている。この国始まって以来の賑わいであったと、当時のことを記した何かの本で読んだことがあった。その行列は、姫のお披露目と姫の祖国からの随行人へ、皇国の威厳を見せつけることも兼ねており、嫁ぐまでの数日間を過ごした街の外れにある別宮から皇宮までの間、とても派手な行列であったらしい。
姫の輿は集まった民衆にも見えるような作りとなっており、その姫は、集まった民衆へ優しく手を振り微笑み続けた。その容姿の美しさに国中が騒動になったほどの美姫で、見たものの心を掴んでは離さなかったらしい。今も後宮での噂話には、必ず名が上がる人気の妃あった。
その姫が皇帝の寵を賜り生まれた第三皇子の元服の披露目。それが、今まさにこの行列と街の賑わいである。
第三皇子はとても利発なうえ武芸も達人並み、清廉潔白で天におわす天帝様の御使ではないかと噂をされる方。美しい黒髪と黒曜石のような瞳の美の持ち主で、誰もが憧れる理想の皇子様であるらしい。
らしいというのは、私は未だにその皇子を見たことがなかったからだ。私くらいの歳になれば、一度や二度、後宮へ将来義母になるかもしれない妃たちへ挨拶に向かうこともある。皇子の妃選びを兼ねたお茶会に後宮の妃嬪に呼ばれるのだ。
しかしながら、私には、妃嬪からのお声がけが一度もなかった。理由はわからないが、屋敷の侍女たちは、年頃である私にお呼ばれがないことを大層悲しんでおり、最近では、我が家に未来はないと侍女や侍従が我が家を見限って辞めるものまで出始めた。そんな侍従は、長年勤めているものではなく、我が家の事情もよく知らない者たちが多い。
それくらい、後宮からのお呼ばれは大事なことなのだが、私は興味がなかったし、父も特段、お呼ばれについて何か言うこともない。父には父の考えがあるのだから、私は父から結婚の話があるまで、自由にすることを許されている。
そもそも、元服が終わるまで、皇子が後宮を出ることはない。それは、ひとえに命の危険から守るためであり、妃の元で必要な教養を受けるからでもある。
今日初めて、第三皇子が民衆に披露されるのだ。私も例に漏れず、第三皇子を一目見たいと、屋敷から飛び出してきた。
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