第63話   娼館の火事

「マークウェル……そろそろ私、あんたの子供が生みたいわ」


「子供か?」


「あんたの子をよ。強くて勇敢な、勇者マークウェル・カインの子供が、欲しいわ」


「悪くない……ロザリンデ、今夜は寝かせねぇぜ」


「まっ……」


 ドーリアの王都、アスタナシヤに入る前にマークウェルは、リド・オアシスの馴染みの娼館へ寄った。

 ブリジットは、宿に預けて猿ぐつわをして、大人しく待ってるように言い聞かせて来たのだ。


 二人の関係は、長かった。

 ロザリンデがリド・オアシスに戻って来た時からだ。

 こんな辺鄙な街の娼館になぞ、あまり客は来ない。

 淡い金髪と緑の瞳を持つロザリンデは、何かから隠れるように、ここで、マークウェルの来訪を待っていた。


 双方の合意で、行為は始まった。

 マークウェルが上になって、ロザリンデの身体の愛撫をしていった。

 気持ちが良くて漏れる声……

 やがて、ベッドがきしみだす。

 ロザリンデの声が、大きくなっていく。


 マークウェルは、行為に夢中だったが、どうも2回目の辺りから、視線を感じていた。

 三回目にロザリンデに入る直前に、視線の正体に気が付いた!


「止めないでよ、マーク。何かあったの?」


「窓の外に、子供がいる」


「嘘!! ここは二階よ!!」


 ブリジットは驚いていた。


 マークウェルは、ロザリンデを抱き抱えて、窓から離れ毛布で身を守った。


 次の瞬間、大きなレトア語で


『ユウシャサマ、オンナノヒト、ナカス、ダメ~!』


 窓を破って火と共に聞こえて来たのである。


「こら! ブリジット。大人の邪魔をするんじゃねえ」


『ユウシャサマ!』


「黒板!!」


《女の人を苛めてた》


「苛めてたんじゃなくて、悦ばせてたんだ。子供に行っても分からないだけだがな」


「それより、火を何とかしてよ。オアシスの水は貴重なのよ!!」


 ロザリンデは、本気で怒りだしていた。

 マークウェルは、覚えたての呪文で水の精霊を喚び、火を消した。毛布で、バサバサとあおいで、煙臭さも消した。


「何とか、なりそうだ。何なら一日、窓を開けっ放しにしておけば、大丈夫だぜ」


「マーク! それ以前にこの子は誰よ? まさかあんたの子供?」


「俺に火を吐く子供はいねぇよ。こいつは火竜らしい。子供のな……」


 ロザリンデの思考はストップした。

 当たり前だ、目の前に火を吐く可愛らしい幼女がいるのだ。

 しかも、二階の部屋の窓の外から部屋の中を覗いていたのだ。

 人間ではあり得ない。

         

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