04
「王城関係者で剣の腕が立つってことは――城の警備隊とか、王族の護衛とかやってたの?」
リリリュビさんの目がきらきらと輝きだす。接近戦が得意な人間を探していたとはいえ、まさかそこまでの実力者だったとは思わなかったのだろう。
……その人、守られる側なんだけどね。
確かに、「自分の身を自分で守れるだけの最低限の力は必要だ」とか言って警備隊の訓練に混ざってはいたけれど、本来の立場的には守られる人間なのだ。結果的には剣の才能があったのか、並みの警備隊や護衛よりも強くなってしまっていたけれど。
「う、うむ。まあ、そうだな。辞めたとは言え、機密があるから詳しくは話せないが、そんなところだ」
丁度いいから誤解させておこう、と思っているのが、マグラルド様の表情からありありと分かる。他の冒険者メンバーは、元王城勤めの剣士、という職に注目していて、若干、彼の目が泳いでいることに気が付いていない。
「それで? 見つけたらどうするんだ? やっぱり、連れ戻すのか?」
ザフィールがマグラルド様に聞く。ザフィールはすっかり会話に夢中になっていて、食べる手が完全に止まっていた。
――連れ戻す。
その一言に、わたしはぎくり、と一瞬固まった。
あの城に戻るの? もう一度?
二度と戻れないと思っていた、あの城に?
しかし、マグラルド様は首を横に振った。
「いや、違う。……ただ、彼女が無事かどうか、一目見たいだけなのだ」
その言葉に、わたしは持っていたカトラリーを落とした。そのまま、テーブルの上を跳ね、床へと落ちる。結構派手な音が響いた。
むせないように我慢していたのに、注目を浴びないで、マグラルド様に気がつかれないようにひっそりと食事を終わらせようとしていたのに。
やらかした、と思う反面、これはスルー無理でしょ、と頭の中で言い訳をする。
「あ、あはは、わー、ごめん、手が滑った」
わたしは自分でも白々しいと思うほどの棒読みでそう言いながら、椅子に座ったまま床に落ちたフォークを拾おうとする。その手が震えていることに気が付いた。
わたしを追い出しておいて今更何を、という怒りで震えているのではない。
――照れと、喜びで、手が震えているのである。
わたしを追い出して、困窮しているジュダネラル王国に対して、ざまあみろ、と笑えないのも。
わたしがいなくなってからのことを知りたいと思ってしまうのも。
――わたしが、マグラルド様に心底惚れ込んでいて、二年経った今でも未練たらたらだからなのである。
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