鍛冶職人なのにダンジョン攻略に駆り出された件
「今日も完璧だな」
デュランは鍛冶場を模した作業場に立ち、自分の作った剣を手に取った。重厚な刀身が光を反射し、ステータス画面には「高品質」の文字が浮かび上がっている。
彼は「アヴァロン・オデッセイ」で名の知れた生産特化型プレイヤーだった。
鍛冶、裁縫、薬学――すべての生産スキルを極めた彼のアイテムは、多くの冒険者にとって頼りになる存在だった。
だが、デュラン自身は戦闘が大の苦手だった。
「俺は戦わない。戦闘は他の連中に任せておけばいい」
戦うのではなく、道具を作り、その道具で戦う者たちを支える――それが彼のスタイルだった。
その日も鍛冶場で製作に没頭していた彼のもとに、一人のプレイヤーが訪れた。
「デュランさん、お願いがあるんだ」
現れたのは、ギルド「シルバーウィング」のリーダー、アルヴィンだった。彼はデュランの常連で、高品質の武器を多く購入している冒険者の一人だった。
「また剣の依頼か?次回の製作予定はまだ空きがないが……」
「いや、今回は剣じゃないんだ。ダンジョン攻略に一緒に来てほしい」
「……何?」
デュランは眉をひそめた。
アルヴィンによると、次のダンジョン「燃えさかる鉱山」には、特殊な鉱石「ファイアクリスタル」が眠っているという。その鉱石を採掘するには、高度な鍛冶技術が必要で、デュラン以上に適任者はいないとのことだった。
「俺は戦闘ができない。それでもいいなら、行ってやる」
「もちろんだ。君の腕だけが頼りなんだ!」
そうして、デュランは不本意ながらもダンジョン攻略チームに加わることとなった。
燃えさかる鉱山は、その名の通り、灼熱の空気が漂う危険なエリアだった。モンスターだけでなく、床の崩落やマグマの流出といったギミックも多く、進むだけで一苦労だ。
戦闘を避け、ひたすらチームの後ろをついていくデュラン。しかし途中で、彼の知識が役立つ場面が訪れた。
「待て、ここには落とし穴がある」
彼は地形を観察し、罠を発見する。自作の「地雷探知装置」を使い、安全なルートを示した。
「すごいな、デュランさん!」
「ふん、これくらい常識だ」
少し得意げに言いながらも、デュランはその状況に違和感を覚え始めていた。
「……これが“冒険”ってやつなのか?」
チームはデュランの知識に助けられながら、「燃えさかる鉱山」の奥深くへと進んでいった。戦闘を得意とするアルヴィンたちが前線で敵を片付ける中、デュランは後方からサポート役として道具を提供していた。
「このヒートガードポーションを飲め。炎ダメージを軽減できる」
「崩れそうな橋にはこの補強剤を塗るんだ。簡易的な修復ができる」
次々と的確な指示を飛ばし、彼の道具がチーム全体の生存率を大きく高めていた。
「さすがデュランさんだ!職人技がここまで役に立つなんて……!」
チームメンバーの一人が感嘆の声を漏らす。
「ふん、当然だ。俺はこのために作っているんじゃないがな」
そう言いながらも、デュランの中にはいつもと違う感覚が生まれていた。自分の作った道具が、実際の冒険で命を救っている。
「気をつけろ、次のエリアには『炎のゴーレム』が出るはずだ」
アルヴィンが警告を発する。
ゴーレムは鉱山の熱を吸収し、自身を強化する特殊な敵だ。通常の武器では倒しきれず、炎に耐えられる装備が必須とされている。
「……あのゴーレムの中核がファイアクリスタルだな」
デュランがゴーレムを観察しながら呟く。
戦闘が始まると、ゴーレムの巨大な拳が叩きつけられ、地面にひび割れが広がった。アルヴィンたちが果敢に攻撃するが、熱で武器が損傷し、徐々に追い詰められていく。
「武器がもたない……どうする、アルヴィン!」
「デュランさん、何か方法はありませんか!?」
「方法ならある」
デュランは素早くアイテムバッグを開けると、炎に耐性を持つ鉱石と自作の接着剤を取り出した。そして、その場で傷んだ武器に補強を施し始める。
「……この状態なら、あと数分は持つはずだ。アルヴィン、こいつを使え」
アルヴィンが強化された剣を手に取り、再びゴーレムに立ち向かう。強化された武器はゴーレムの表面を次々と削り取っていく。
しかし、それでもゴーレムの体力を削りきるには至らない。
「チッ……仕方ない」
デュランはチームの目を盗んでゴーレムの背後に回り込むと、自作の小型爆弾を取り出した。それは「ファイアクリスタル」を弱体化させる特殊な化学反応を起こすよう設計されたものだった。
「戦闘は嫌いだが……こういう場面では俺の出番だな」
デュランはゴーレムの中核を狙い、正確に爆弾を投げ込む。炸裂音とともにゴーレムの動きが止まり、アルヴィンたちが最後の一撃を加えてゴーレムを撃破した。
「……これで終わりだ」
戦闘が終わり、ゴーレムの残骸から現れたのは、輝く「ファイアクリスタル」だった。
「デュランさん、本当にありがとう!君がいなければ、ここまで来れなかった!」
アルヴィンが感謝の言葉を述べる。
「俺はただ鉱石が欲しかっただけだ。感謝される筋合いはない」
そうそっけなく答えたデュランだったが、内心ではどこか満足感を覚えていた。
ファイアクリスタルをチームで山分けした後、街に戻り、鍛冶場でファイアクリスタルを加工するデュラン。
その輝きは、これまでのどの素材よりも鮮やかだった。
「……悪くない冒険だったな」
一人つぶやき、彼は完成した剣を眺める。
それはチームでの冒険を思い出させる、特別な一振りだった。
「また依頼が来たら考えてやるさ」
そう呟きながら、デュランは次の冒険者が訪れるのを待っていた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます