第23話 救出


 目の前に現れたのは、数匹のゴブリンの死体だった。


「一体何が起きたんだ!」


 何者かに殺されたのだろうか。ゴブリンたちは口から泡を吹き、地面に倒れている。


 その近くには、木にもたれて気を失っている二人の女の子供がいた。


「おい、大丈夫か!」


 声をかけても反応はない。しかし耳を近づけると微かな吐息が聞こえ、手首に触れるとしっかりと脈が感じられた。


「怪我もないみたいですね。良かった!」


 ほっとするクライドに、ローカンが問いかけた。


「ところで、誘拐された人数を確認したいのだが?」


「4人です」


 ローカンは状況を見回しながら、ふと考えた。


(こまったな、そろそろ援軍が来てるだろうし、残りはそいつらに任せることにしよう。理由はできたし、もう帰ろう)


 そう結論づけ、冷静に周囲を観察した。


 その様子を目の当たりにしたクライドは、心の中で思わず頷いた。


(この人なら間違いない。残りの2人も、もう手を打っているのだろう)


 クライドの胸に広がったのは、強い信頼だった。


 救出劇を通じて、ローカンの冷静な判断力と迅速な行動に感銘を受けていた。


 そして、その信頼が確信に変わる瞬間が訪れた。


「暗いな、ライト!」


 ローカンの声と共に、小さな光の妖精が現れて周囲を照らした。


 ダンジョンでは必要な魔法なのに、経験の無いクライドは驚嘆した。


(光魔法、凄い……!)


「仕方ない。この子たちを連れて、一度戻ろう」


 ローカンの提案に、クライドも頷いた。


「わかりました」


 二人は子供を背負い、ゴブリンの足跡を頼りに森を抜けていった。



 やっとのことで、森を抜けて子供たちを地面に降ろし、座り込んだ。子供たちは目を覚ましたようで、わんわん泣き出した。


「もう大丈夫だよ」とクライドは優しく宥めた。


 その様子を眺めていたローカンは、不意に背中をぽんと叩かれた。


「おじさん、連れてきたよ!」快活な犬族の子供が、笑顔で言った。

 

その後ろには、無事な女の子たちが二人立っていた。


「女の子たちは駆け寄り、涙を流しながら互いに抱き合った。


「無事でよかった!」


「本当に良かったね」


 四人は手を取り合い、喜びの輪を作った。


「みんな無事だな!」とクライドが言うと、


「わーい!」


 女の子たちは声を合わせて、さらに嬉しそうに叫んだ。


 その光景を見守るローカンも、満足そうに微笑みながら「よかったな」とつぶやいた。


 犬人族の子供は、用が済んだとばかりに、いつの間にか消えていた。



 ゴブリンの再襲撃を察知したノルドは、奴らの通り道に罠を仕掛け、村から戻るのを待ち構えていた。帰り道で気が緩むだろうと考えたからだ。


「リコは危ないから、森に入っちゃダメだよ!」


「ふふふ、セラさんがノルドたちと一緒なら、森の浅いところくらい入ってもいいって言ったもん」


「そんなこと、母さんが言うかな?」


「仕方ない、教えてあげよう。リコはね、冒険者のレアリティを獲得したんだよ! ノルドの真似をして、森の入り口のエリス神にお詣りしたの。それに勉強だってちゃんとしてるよ」


「おめでとう! お祝いしなきゃ」


 他人事ながら、ノルドは心から嬉しかった。きっとリコもずっとそれを望んでいたのだろうと思う。


「私の方が年上なのに、なんだか変な気分だけど……お祝いされよう!」


「でも、今日は孤児院に帰るんだよね?」


「もう一日泊まるって手紙を書いて、街道馬車のおじさんに頼んだよ。だから大丈夫!」


 ノルドが何かに気づき、声を潜めた。


「来た! 隠れよう! リコ、これを持って」


 ノルドは黒光りするダガーナイフを差し出した。


「ふふふ、任せたまえ!」リコは嬉しそうに受け取り、腰に挿す。


「ばしゃ!」


 罠にかかったゴブリンが網の中で暴れ、鋭い叫び声を上げた。網を引き裂こうともがくが、ノルドが次々に毒ダーツを放ち、動きを封じていく。リコとヴァルは草むらの陰から飛び出し、とどめを刺した。


「やぁ!」


 リコは躊躇うことなく動き、素早くゴブリンを仕留めていく。その姿に、ノルドは密かに目を細めた。


「ヴァル、ここにいて。その子たちを守って」


 ノルドが言うと、小狼は短く吠えて応じた。「リコ、次の罠だ!」


 二人はもう一箇所の罠に嵌ったゴブリンたちのもとへ向かい、同じように始末した。誘拐されていた子供たちは全員、気絶させられている。


「運べないよ!」


 ノルドが困った声を上げると、リコが軽く首を傾げた。


「じゃあ、起こそう!」


「でも……きっと僕だと嫌がられる」ノルドは心底嫌そうで、どこか寂しげな声をあげた。


「ノルドが助けたのよ!」


「それはたまたまだよ。奴らが誘拐するなんて考えてなかった」


「馬鹿な子たちね。ノルドのこと、わかってないんだから。リコが言い聞かせてやる。じゃあ、道案内するから、ノルドは影から守ってて!」


 リコが微笑みながら言うと、子供たちを一人ずつ揺さぶって起こし、優しく声をかけていく。ノルドは物陰に身を潜め、周囲の警戒を怠らなかった。


 その時、近くにローカンたちがやって来たのを、匂いと気配で察知した。


「ヴァル、案内して」


 ノルドが声をかけると、小狼は素早く動き出した。別の場所にいる子供たちをローカンたちに任せられるよう、誘導を始めた。



 ローカンたちは誘拐された少女たちを連れて学校に戻ってきた。夜の帳が下り、門は閉ざされていたが、警備員が彼らの姿に気づき、急いで門を開けた。


 誘拐された子供たちは無事に親と再会し、村中に歓喜の輪が広がった。歓声や涙が交じり合う中、村長と警備長は村民たちに英雄として迎えられた。


「援軍はどこに?」ローカンは周囲を見渡しながら問いかけた。


「お疲れ様、援軍はここだ!」


 静かに響いた声と共に、島主が悠然と姿を現した。


「……島主様ご自身が」


 村民たちの熱狂的な歓声の中、ローカンは息を呑んだ。尊敬の眼差しを注ぐ村民たちとは対照的に、ガレア・シシルナの冷ややかな視線が彼を射抜いていた。


 その後、村長用のテントにて、島主はローカン警備長とクライド村長に話を促した。


「早速で悪いが、事の経緯を聞かせてほしい」


 二人は簡潔かつ正確に詳細を説明した。島主は話を静かに聞き終えると、一瞬目を閉じ、険しい表情を浮かべたが、それ以上の叱責はしなかった。


「なるほど、事情は理解した」 島主の言葉に、ローカンは深く頭を下げた。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「敵の正体を見誤ったのは私の責任だ。だが、ここから先は任せてくれ」


 島主の口調には、状況を冷静に受け止めつつも、揺るぎない決意が滲んでいた。


「警備隊全員で援護に向かいます」


「いや、私一人で十分だ。冒険者ギルドにも追加クエストを出している」


 島主は、準備をすませて、1人部屋を出て行った。


【後がき】


 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。⭐︎や♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部





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