第5話 学者

 母セラに看病してもらって二日目。今度は、看病疲れで彼女が寝込んでしまった。


 体調が良かった時期とはいえ、無理がたたったのだろう。今回はいつも通り、ノルドが看病にあたることになった。


 ヴァルにもきちんとした寝床を作り、狩ってきた魔兎を与えた。小狼が負った傷は、セラが行った治療を引き継ぎ、薬を塗り、包帯を巻いた。


「ヴァル、具合は?」


「ウウウ」甘えた高い声を出す。


 まだ、立てない小狼の体勢を変えてあげる。


「今、ヴァル用の銅輪を作ってるから。でも、動き回るのは駄目だよ」


「クゥン」


 それから数日が経ち、「少し、お話ししましょう」とセラが勉強中のノルドに声をかけた。


「母さん、体調は?」


「ええ、大丈夫よ。あなたに覚えておいてほしい大切な話があるの」セラはにっこりと微笑みを返す。彼女の顔を覆うスカーフ越しでも、その笑顔はわかる。


 彼女は、自分の持っているジョブの一つについて話し始めた。


「私のジョブは学者だから、ある程度の基本的なこともできるの。薬師や医者の真似事もね。でも、あくまで最低限よ」


「やっぱり、母さんはすごいな」ノルドの目は尊敬の瞳だ。


「ううん、本物の薬師じゃないから、初級のポーションしか作れない。何度もそれ以上のポーションを試したけれど、作れなかったの」セラの顔に影が落ちる。


「そんなことはないよ。ヴァルも命を助けられたし」


「それは、あなたが命を削って助けたから。私の治療だけでは助からなかったわ」


「それでも……」


「ノルドは、薬師になった。もっと上位のポーションや、色々な薬も作れるようになる。その時には、その動かない腕や足もきっと治る。そして、いつかは目も」


「うん。わかった。僕は絶対にすごい薬師になる!」その目標は、母の原因不明の病気や全身を覆う爛れた皮膚を治すためでもある。ノルドの片目は鋭い光を放った。


「ノルド、ポーションの基本三種類は?」セラがいきなり講義を始める。


「体力回復のヒール、魔力回復のマジック、そして、治癒回復のリカバリー」


「万能ではないけれど、その三つが基本ね」


「状態異常、例えば毒には使えないよね」ノルドは知識を持ち出す。


「そうね。他にもあるけれど、基本の三ポーションに戻ると、一番値段が高いのは?」


「リカバリーポーションだよね。原料が高く、作成が難しく、成功率も低いから」ノルドは知っている。町で材料を手に入れようとしたが、高くて買えなかった。


「その通り。例えば、低ランクでいくとヒールポーションは金貨一枚、マジックポーションは金貨十枚、リカバリーポーションは金貨百枚よ。」


「え!じゃあ、大魔熊を倒す時に母さん、マジックポーションを何本も使って……違う、僕やヴァルを治すのにもリカバリーポーションを使ってたんだ」


「そうだったかしら」セラは惚けた。


「違わない!ごめんなさい、母さん」


「そんなことは些細なことよ。大魔熊は、とても厄介で強い魔物だから」


(私の大切なノルドを傷つけようとした魔物、許すわけにはいかない。頭に血が昇っていた、我を忘れるほどに)


「と言う事は、もしかして、大魔熊って高く売れたの?」ノルドはきょとんとした顔で尋ねる。


「そうね、とても貴重な素材が取れるわ。でも……」


(殆ど売り物にならない。容赦なく叩きのめしたから)


「じゃあ、回収に行かないと!」彼は慌てて行動しようとする。


「今頃は、蟻たちに回収されているでしょう。そんなことよりも、低級のマジックやリカバリーポーションが作れるように、私が指導するわ。そこまでしか教えられないけれど」


「やったぁ! じゃあ、僕が作って稼ぐよ」ノルドは大魔熊の死体など、どうでも良くなり、キラキラした目で力強く答える。


「そうね。他の色んな種類の低位ポーションは自分で練習しなさい。薬を作る数が経験値の一つになるから。それと、森にも一緒に探索しましょう」


「本当に! やったぁ!」夢の一つが叶う。それは、憧れの冒険者セラとの冒険だ。


「でも、ノルド、冒険者になる必要はないわ。最低限の力をつけるためよ。冒険者のレアリティを持っている人の中で、実際に冒険者をしているのは、十人に一人もいない。いや、もっと少ない。危険な仕事だからね」


「うん」一応、受け入れたふりをしたが、ノルドは冒険者を目指すことを辞めるつもりはない。



  その後、ノルドは稼いだ金の残りを全てセラに渡そうとした。だが、セラは受け取らなかった。


「銀貨一枚だけもらうわ」そう言って、彼女は、まるで大切な宝物を受け取るみたいに、いつも肌身離さず持っているサシェにしまった。


「それで、ポーションの材料はどうしよう?」


「私が、持ってるからあげるわ。でもそれだけじゃ足りないから、いつも来る商人のグラシアスに頼みましょう。勿論、ノルドは町で必要だと思う物を買いなさい」


 

 ヴァルの一件以降、魔物の森に入るのは、ほんの入り口近くで、小狼の食事用に魔兎を捕まえる程度で、売るほどの量はなかった。


 セラの体調が良くなり、ノルドの魔兎捕獲を見たいと言い出したので、ノルドはいつも以上に頑張り、夜に罠をたくさん仕掛け、朝にセラと一緒に魔物の森へ向かった。


「母さんは見てるだけでいいから!」

ノルドは罠にかかった魔兎を回収しながら、解体作業を丁寧に説明した。


「ノルド、頭がいいわね」


 罠の仕掛け方や手際の良さに、セラは感心し、ノルドは彼女に褒められて有頂天になった。


「ノルド、こういう解体のやり方や保存方法もあるのよ」


 セラのアドバイスを受けながら、二人で魔兎を解体した。この日は大量に捕獲できたこともあり、ノルドは町へ出かけ、ノシロの店に魔兎を売りに行くことに。セラは馬車の運賃を渡し、ノルドは馬車で町へ向かった。


 ノシロの店の前で少し躊躇していると、


「坊主、久しぶりだな。元気にしてか?」とノシロの声がした。


「はい。今日は……」


「魔兎だな。見せてみろ」


ノルドは奥の調理場で、申し訳なさそうに運送箱から魔兎を取り出した。ノシロはそれを見て、しばらく難しい顔をしていた。


「実は、大量なんですけど……」


「違う、量の問題じゃない。この解体の仕方と切り方、それに漂う微かな香り……これはハーブか?」


「はい、ハーブを敷いておくと、魔兎の力を閉じ込め、臭みも無くなると聞いたので……」


「ああ、確かにその通りだ。うちの店でもやっている。それにしても、この捌き方、かなりの技術がいるぞ」


「ええ、母さんに手伝ってもらいました」

ノルドは少し照れくさそうに言った。


「なるほど、だからか。これなら高く買い取らせてもらうよ。全部うちで買い取ってもいいか?」


提示された金額は前回の1.5倍で、18匹分で金貨27枚にもなった。


「はい、ありがとうございます」


「お前の母さん、ただ者じゃないな。名のある調理人か、それとも凄腕の剣士か?まあ、詮索はしないが、はっはっは」


ノルドは曖昧に微笑んだが、確かにそうかもしれないと思った。


「これが取引証文だ。それに、大金を持ち歩くのは危ない。今度、銀行に連れてってやるよ。今日は金貨を預けていくか?」


「金貨7枚だけいただいて、残りは預けます。」


「そうしろ。最近、大陸から窃盗団が上陸してるって噂だからな。預かり証を出すから少し待ってろ」


そう言って、ノシロは地下の事務所へと降りていった。


「それじゃ、買い物して待ってます」


ノルドはヴァル用に大量の肉と、セラにフルーツを買うことにした。


【後がき】


 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。⭐︎や♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部


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