第46話 夕陽と月明かり

「では、始めようか。 リッツ、ククルに支援をお願いしてもらえるかな 」


 リッツがククルに話しかけると、その白い翼が淡く光り、シーサーに膨大な魔力が流れ込む。


「素晴らしい支援魔法だな。 よし、これならいけそうだ 」


 クルルの支援を受けたシーサーが解呪の魔法を使うと、エレナを蝕む禁呪の呪いが弱まっていく。


 

 シーサーの試練を乗り越えたモレッド達は丸1日かけてダンジョンを脱出し、そのままエレナの眠る封印の部屋にやってきた。

 帰路について間もなく、モレッドは記憶を取り戻したことを周りに伝え、自分の過去について話をしようとしたが、話し出してすぐに電池が切れたように倒れこんでしまい、結局帰りつくまでガウェンの背で眠りこけていたのだった。



「よし、いいぞ、シーサー。 次はモレッドだ。 いけるか? 」


「はい、大丈夫です。 任せてください! 」


 ガウェンの掛け声に合わせて今度はモレッドがスキルを発動し、猛毒の呪いを打消しにかかる。


 すると、ほんの一瞬、呪いが抵抗するかのように蠢いたが、2つの呪いは急速に弱まり、やがてエレナの身体に刻まれていた真っ黒な痣と共にその姿を消した。


 静かになった部屋でエレナの寝息が聞こえ、モレッドはほっとした表情でその寝顔を見下ろしている。


「エレナ、よかった。。。 」


 噛み締めるようにモレッドが言葉をこぼしたその時、ガウェンの大きな手がモレッドの頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。


「よくやったぞ、モレッド! シーサーとの戦いの後でぶっ倒れた時にはひやっとしたが、かつての勇者に打ち勝って、聖女の命も助けて、ほんとに大したやつだよ、おまえは 」


 ガハハと声をあげて笑うガウェンの横で、シーサーもにっこりと微笑んでいる。


「うん、モレッドもリッツもクルルも、あのダンジョンを踏破して聖女を助けたんだ。 みんな本当に頑張ったね。 この子が目覚めるにはまだしばらく時間がかかるだろうから、今夜はもう休むといい 」


「あの、だったら僕はここで、、、 」


「それはダメだ。 君はダンジョンで散々無理をした挙げ句、ついさっきまで意識がなかった中で強力な呪いの解呪までしているんだよ。 この後、しっかり教会の人達に治療してもらって、今夜はよく眠りなさい 」


 モレッドはエレナの隣にいたいと申し出ようとしたが、シーサーに一蹴され、迎えに来た修道女に腕を掴まれて部屋を出ていく。


 その後を小走りで追いかけていくリッツを見て、シーサーとガウェンはにんまりと笑い合う。


「ふふっ、今度の調停者くんは誰かさんと違ってなかなかモテるようだな 」


 「そうだな 」とガウェンが呟き、遠ざかっていく2人の足音が部屋に響く。


「さて、私はこのまま聖女の治療を続けようと思うが、ガウェン、君はどうする? 」


「どうするもなにも、オレも付き合うぜ。 呪いがなくなった今、禁呪を使ったエレナは教会の連中からしたら親の敵みてえなもんだからな。 おまえも回復魔法を使い続けるのは限度があるし、使っている間のボディガードが必要だろう? 」


「なるほど、教会のやつらは相変わらずなんだな。 なら、よろしく頼むよ。 再開に乾杯とはいかないが、ボディガードのついでに私がダンジョンに封じられてからの話も聞かせてくれると嬉しい 」


「まあ、そうだよな。 おまえとの旅も昨日のことみたいにも思う時もあるが、実際はあれから20年近く経って、オレも40代のおっさんなんだぜ。 さてさて、何から話したもんか 」


「じゃあ、おまえが入れ込んでたリアハンの酒場の娘の話からだ! あのリッツって子、髪の色こそ違うが、その酒場の娘にやたらと似てると思うんだが、もしかしておまえの隠し子か!? 」


「シーサー、、、 おまえは変わらねえな、、、 あいつらの前じゃしっかり勇者をやっておいて、オレと2人になったらすぐこれだ 」


 ガウェンはため息をつきながら話を続ける。


「隠し子も何も、オレはおまえが封印されてからはリアハンには行ってないぞ。 酒場のターニアのことだったら、随分昔にメキドへ出稼ぎに行く途中で魔物に襲われたと聞いたが、その後のことは知らん 」


「なんだ、じゃあリッツに聞いてみればいいじゃないか。 」


「いや、オレは聞かんぞ。 リッツはトリスの教会で育てられた孤児らしいし、聞きたくもない話がいろいろと出てきそうだ。 うん、もうこの話は終わりだ! 」


 2人は延々と話を続けながら、エレナの治療を続けていく。

 その夜、エレナが眠る部屋から明かりが絶えることはなかった。




 一方、ガウェン達がそんな話をしているとは知らないリッツは、モレッドを追いかけて教会の治療室に来ていた。

 治療室に夕陽がさしこみ、修道女の白い衣服が橙色に染まっている。


 治療室のベッドに横たわったモレッドは、脇の椅子に心配そうに腰掛けるリッツに何度かありがとうと言った後、また眠りに落ちる。


 リッツはモレッドが回復魔法をかけられている間、ずっとモレッドの手を握っていた。

 だが、疲れ果てていたのは彼女も同じで、クルルを膝に載せたまま、いつの間にかベッドに突っ伏して眠ってしまう。


 小一時間ほどで、回復魔法をかけ終わった修道女がリッツにそっと毛布をかけて部屋から出ていくが、リッツは気付かずに眠り続ける。



 その日の夜遅く、窓から射し込む月明かりによってリッツは目を覚ます。

 ふと見るとベッドに横たわっていたはずのモレッドの姿がない。


 慌ててその姿を探すと、窓際に青白い月明かりと対照的な赤い髪が見える。


「モレッド、もう起きて大丈夫なの? 」


 ほっとしたリッツが眠たい眼を擦りながら尋ねると、月明かりに照らされたモレッドがゆっくりと口を開く。







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